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追憶~クリストファー・ラザルス 3

 「――貴方も私も、背負うものが多くて大変ね」


 ちやほやされたかと思えばやたらとライバル視され、挙句の果てには当て馬として今日の様に引っ張り出される。

 微かに唇の端を上げたセシリアが、厩舎で大泣きしている子息達へ視線を向け、ポツリと呟いた。



「……普通って、羨ましいわね。失敗しても許されるって、どんな感じなのかしら。……失敗しても、何かが出来なくても、抱きしめて愛してもらえるってどんな感じかな」


 皮肉で無く、ただただ分からないと言う風にセシリアは言って遠い眼をした。

 

 ズキリと心臓が引っ掻かれた様な痛みを覚え、クリストファーは唇を噛んだ。

 両親の愛情に恵まれていないセシリアは、父親に見向きもされず、母親は良く出来た娘を見せびらかすために連れ回しているだけだと幼いクリストファーにも解る。

 

 ――――だが、『失敗しても愛してもらえるのだろうか?』と言う疑問は自分の中にも在った不安で、常に自分は出来るのが当たり前と思われる様になってからは『出来ない』と言う言葉を口に出せなくなっていた。


 ……自分は天才でも何でもなく、何でも出来る訳では無くて、失望されるのが怖くて必死で努力をしているだけなのだ。


 完璧でない僕を本当に好きになってくれる人はいるんだろうか、と漠然と暗い気持ちが胸の奥にあって、移り気な人々からは失敗すれば、失望されてしまえば見向きもされなくなりそうで、内心誰が表面だけでなく僕の中身を見てくれるんだろうと思っていた。


 誉め言葉はいつも能力の事か、優しいだとか素敵だとか誰もが同じ形容詞を並べたてるだけ。

 光に群がる虫の様に、人々は話題になるものに群がる習性があるらしい。

 賛辞はクリストファーの耳にただの甲高い音としか伝わってこない。

 中身のある心に残る様な言葉は一つも無く、どの賛辞も簡単に手のひらを滑り落ちてゆき重みも確かな形も無い。


 侯爵家に相応しく、両親の誇りであり続け、領民を助け見本にならなければならない。侯爵家の嫡男として立派に務めを果たせていれば十分なはずだ――――それで良い。


 舞台俳優の様に笑顔で歓声を受け止めて、皆の期待する自分を演じて、それで上手く行く筈だ。

 

 ……だがそうすればするほど空虚は自分の中で深まっていって、一族の寵児と褒められて高揚する自分と矛盾した感情が混沌として胸の奥底に沈んでいた。


 ――誰も本当の僕が見えない。見ようともしない。いい子の僕の仮面の裏で息が詰まりかけている僕がいる。

 鞭で打たれた傷は痛かった。

 誰も、沢山の人間がいても気付かなかったものを、セシリアだけが気付いてくれた。


 ――クリストファーは周囲の子供達から聡明だと浮く自分とセシリアが、よく似た孤独の中にいる事に気付いた。


 ――ああ、そうか……僕らは共通の孤独を抱えているんだ――


 誰もが僕らに無条件の愛をくれないなら、お互いが理解者になればいい。

 子供じみた単純な思い付き。



 ―――だが、もともと惹かれていた彼女を注意深く目で追ううちに、孤独でも折れずに真っ直ぐに前を向いて立つ彼女をとても綺麗だと思い、見守るだけでなく助けたいと、護りたいという気持ちが芽生えて止まらなくなった。


  ――どうして辛いのに泣かないのだろう?

  ――どうして傷ついているのに目を逸らさずにいられるのだろう?

  ――どうして愛されていないのに、人を愛そうとするんだろう?

  ――どうして?……どうして?……


  痛々しい程傷ついても、どうして微笑めるのだろう?


…………そうして目を離せずにいるうちに、恋は、いつしか焦げそうな切ない想いへと変わっていた――


 



*ご覧いただき有難うございます*

 次からお話が変わりますので今回は短めになりました。

 最近、投稿がきちんと出来ずに申し訳ありませんでした。

 優しく見守って下さり有難うございます。

 そんな皆様に来年たくさんの幸福が訪れますように!

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