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追憶~クリストファー・ラザルス 


 ――普通って、羨ましいね

    失敗しても 抱きしめて愛してもらえるって、どんな感じかな……?――



 ……あれは何歳の頃だったろう。

  確か6歳――セシリア嬢と出会ってから間もない頃だった。


 国王主催のダービー(競馬大会)の前日、余興として貴族の子供達の乗馬競争大会が行われた時の事だったと思う。


 10歳以下の子供達の競争に集められた選手の中に僕とセシリア嬢がいて、あの時、僕らは優勝候補だった。

 

 今思うと呆れるが、話題造りの為に、まだ乗馬を習い始めて間もない僕やセシリア嬢が参加させられていたんだろう。

 乗馬を初めて半年程しか経っていない僕とセシリア嬢が何故か優勝候補で、自分達より年上の子供達に紛れて競争させられる無茶な状況に陥っていた。


 まあ、結果は言わずもがなで。

 優勝したのは4歳年上の10歳、乗馬歴3年の公爵子息だった。


 僕とセシリア嬢に勝ったと浮足立つ人々の脇で、当て馬みたいにされた僕とセシリア嬢は3位と4位。

 18人の走者の中、乗馬を始めて半年の僕らは健闘した方だと思うけど、周囲はそんな事情を知る事も無く公爵子息を褒め称えて、僕らは端に追いやられた。


 常に光の当たる場所に居た僕は負けた事が悔しくて、内心イライラしながら盛り上がる人々から離れて裏の厩舎で馬の世話をしようと移動したら、そこにセシリア嬢が一足先に居て、水場で静かに馬に水を飲ませていたんだ。


 この頃から既に彼女は大人びていて、周囲の喧噪などと無縁の様に落ち着いた態度で馬とただ寄り添っていた。


 厩舎は意外にも混雑していて、よく見ると僕らの他にも競争に負けた子供達が泣きながら馬に抱き着いていたり、両親に慰められたりしていて騒がしい。

 僕より年上だろうに、人目も憚らず泣きわめく子息にオロオロする親や。

 今度は勝ちたい!と泣きながら真っ赤な顔で駄々をこねる女の子を慰める兄弟と両親。

 笑えるくらい賑やかで、僕は喧噪から離れたくて人気の無い、セシリア嬢のいる水場に近付いて行った。


 こちらに気付いたセシリア嬢へ会釈して、彼女から少し距離を取った場所で馬に水を飲ませる。

 だが、何故か自分の方へ近付いて来たセシリア嬢にクリストファーは驚いた。


 大勢いる令嬢達の中でも異彩を放つセシリア嬢は、大体において一人でいる事が多く、どこか一歩引いた態度で馴れ馴れしく他人に話し掛けてくる事は無い。

 ところがそんな彼女が話し掛けて来た事で、クリストファーは動揺した。


「――失礼、膝から血が出ています。宜しければ、ハンカチをお使い下さい」


 脚を見てみれば、確かに右膝のズボンが切れて血が滲んでいる。

 そう言えば、競争のスタート直前に隣の走者の長鞭が飛んで来たんだった。

 準備運動していたら手が滑ったとか言われて謝られたけど、多分、あれは嘘だ。

 

 貴族の子供はプライドが高く、競争心が強い。

 優勝候補の僕は長鞭が飛んできただけでなく、紐が切られて鐙(あぶみ・足を支える馬具)が外れかけていたり、馬の水にアルコールが入っていたり、事前練習で足を引っかけられて転んだりと散々な目に逢っていた。

 



*ご覧いただき有難うございます。

 こちら少々加筆いたしました。

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