テンペスト 2
アベル王子の登場に唖然とする。
護衛達は王子に軽々しく触れる事も出来ずにあたふたしながら、見守るしかない。
もちろん使用人達もそうで、まさかの高貴な人の登場に、畏れで硬直したまま直立不動になった。
何が起きているのか理解が出来ずにいると、王子がセシリアに抱き着くミラに手を伸ばして真顔で爆弾発言をする。
「ミラ!頼むから結婚してくれ‼」
プロポーズだ……!と周囲が一気にどよめくが、アベル王子はもうミラしか目に入っていない様子で、人目も憚らずにその場に跪いた。
切なげに揺れるサファイアブルーの煌めく瞳と、優雅で洗練された仕草でミラに向かって手を差し伸べる物語のワンシーンみたいな素敵な王子様のポーズに、女性使用人達の目が釘付けになり口から陶然とした溜息が漏れる。
セシリアも息を呑んで見守る中、ミラが涙目でアベル王子を睨んだ。
「……冗談は止めて下さる⁈私、貴族じゃなくなりますのよ。鉱山の所有権は国に移って、ただの平民のミラになるの。王族は名誉職として、小領地を与えられて存続させられると聞きましたわ。それにエステバン公爵令嬢はどうなさるの?婚約は継続されるのではありませんの⁈」
王家は議会の観察のもと、特別に存続すると言う決定がなされたと今朝の新聞に記されていた。
王族全てを平民にしてしまうと、他国に影響力のある正妃様が国政に携われなくなる。
それに統治権は剥奪するが、何らかの形で王家を残さないと、王族がこれまで繋いで来た他国の王族との親交が切れて外交が難しくなるため、王族には名目上、外交官の職務を与えたらしい。
アベル王子はその美貌から他国でも名を知られているので、今後は外交的に他国との友好に大いに貢献するだろう。
一方、ミラは貴族位の返上が決まると共に鉱山の所有権を国に返還する事になってしまい、事業が続けられなくなった。
多くの貴族が同じような事態に陥り、早々に屋敷を手放して平民としての新たな生活のスタートを余儀なくされていて、ミラはタウンハウスを売却し、もとベルトラン領の田舎で昔没落しかけた時みたいに農業生活を始める予定だった。
セシリアはミラから、今日はタウンハウスから荷物を運び出し、引き払う手続きを行うと聞いていたのだが――――
「エステバン家は、議会でジリアンに王位が移譲される算段がついた時点で婚約破棄を求めて来たよ。民衆が王宮に押し寄せたと聞いて、革命になるかと思ったのか、騒ぎに紛れて早々に資産をかき集め、貴族制が廃止されていない外国へ移住した。お陰で僕は自由になれたから、もう我慢しないと決めたんだ」
晴れやかな顔でアベル王子は笑い、すうっと息を吸い込んだ。
何をするのかと思ったとたん、口を開き、声を張り上げて言った。
「――ミラ!大好きだ‼僕と結婚して下さい!――美人で勝ち気で、そんなところも可愛い君が大好きで堪らないんだ。嫌だと言われても、絶対諦めない。地の果てにでも追い掛けてずっとプロポーズし続けるから、絶対に僕のものにするから覚悟していて……!」
甘い声で誤魔化されそうだが、とんでもない内容のセリフである。
これはもう逃げられないなとセシリアは天を仰いだ後、赤くなったり青褪めたりと忙しいミラへ視線を向けた。
貴族の令嬢としては珍しく、婚約者を決めずに独身を貫こうとしていたミラの心の奥に隠した理由をセシリアはあえて問わずにいた。
恋の噂も無く、想い人の話もこれまでミラの口から出たことは無い。
だが、多分、口にはしていないがミラはアベル王子の事を嫌ってはいないだろう。
いや、むしろ――――
不器用な親友の幸せを祈りながら、セシリアはミラが素直になれますようにと、そっと自分の手で彼女の手を勇気付ける様に包み込んだ。
*ご覧いただき有難うございます。
こちら少々加筆させて頂きました。




