予感
血が沸騰しそうだった。
ハート家の伯爵令嬢セシリアは、その日、引き取られたばかりの異母妹のアリアを婚約者に紹介した。
平民の母を持つアリアは、心細そうに伯爵家の応接室のソファにちょこんと座って身を縮めていた。
麦わら色の髪におどおどした緑色の瞳。
血色の悪い肌。
セシリアが貸したドレスはぶかぶかで、痩せすぎのアリアには似合っていなかった。
しかし、幼さの残る愛らしい顔立ちが庇護欲を誘う。
美人ではないが、優し気な瞳の気弱そうな少女。
何気なく婚約者へ紹介したセシリアは、婚約者のシモンが、アリアをじっと見つめている事に気付いた。
ーー何を見ているの?そんなにも熱心に
不安がもたげるセシリアの前で、シモンはセシリアの方を見ずにアリアだけを見つめて笑った。
「初めまして、シモン・ベルトランと言います。隣の領のベルトラン伯爵の次男で、セシリアとは幼馴染なんです。アリア、と呼んでもいいかな。僕の事はシモンと呼んで下さい。どうぞ、これからよろしく」
何でもない挨拶なのに、セシリアは甘い響きを聞き取っていた。
横目で見るシモンは表向き何事もなく紳士な態度を貫いている。
しかし、何故だろう。
すぐ隣にいるのに、シモンが急に遠くに感じる。
シオンの挨拶にアリアが緊張しながら、深々とお辞儀を返す。
まだ平民の癖が抜けていないのだ。
そう、平民ーーアリアは父とメイドの愛人との間に産まれた、三歳年下の妹なのだった。