戦場のサルビア
〇舞踏会会場
舞台背景は中世後期から近世初期のゴシックとルネサンスが混ざりあっている頃の欧州、王宮の広間調。
演奏を終えた楽団が次の楽団の為、自分達の楽器を運び出す準備をしている。
係の者達がお菓子や軽食を搬入し、舞踏会の参加者達は菓子職人達を褒めたたえる。
「これはうちの領で収穫された素材の味を」と自慢をしている者もいる。
皆の服装は前記した時代をベースにしたものだが、男性だけは武装状態――剣、または戦闘用の杖を腰の鞘に差している。
王太子妃である主人公ノア・ロザンジュが王太子エスティー・グランゼ-ペの方に歩き出すと、皆が注目をする。
※ 主要人物の容姿については後述の設定にて。
老齢の貴族達は孫の結婚式を見るように顔を緩め、中高年の貴族達は「やっとか」と疲れきった顔。年若い男女は妬みを必死に隠そうとしている。
エスティー(以降、エ)「私の口から、皆に伝えたい事がある」
力強い一声は不満を抱えていた人達の顔も引き締めさせ、ビシッと姿勢を整えた皆が二人に真剣な目を向ける。
エ「私、エスティー・グランゼ-ペはロザンジュ侯爵家のノアを」
扉が乱暴に開けられ、(カラスの嘴をイメージさせる)ペストマスク状の兜を装着した兵士達が雪崩込む。
年老いた貴族男性陣は腰の鞘に手を伸ばし、その奥方達の何名かは侵入者に向かって片手を突き出す。
剣を抜き終えた老紳士達、手を炎に包んでいたり、発光させている老婦人達と対比するように剣を抜き始めた若者達とワンテンポ遅れの中年貴族達。
応戦する武器が無いと悔しそうなノアだが、「私があなたを守る」と立つエスティーに熱い目を向ける。
老貴族「貴様らッ! 王太子殿下主催の舞踏会と知っての狼藉か!?」
穏やかな外見からは想像を出来ない怒号を浴びせられるも、兵士達は微動だにしない。
統率のとれた動きで兵士達が割れ、その奥から白いペストマスクを着けた白衣が現れる。
白衣「無礼は承知。しかし、急を要するが故にご容赦願いたい」
声に聞き覚えがあるという反応をするエスティーとノア。
白衣「王太子妃、あなたにはレビィハーを利用した嫌疑がかけられています」
ノアが化け物だったと暴露されたように、恐れ戦く周囲の人々。
エスティーも、愛する女性が実はすり替わっていたとばかりに驚いた表情を向ける。
そして、会場で一番驚いている表情のノア。
主人公ノア・ロザンジュ(以降、主と表記)「何かの間違いです! 私はそんな物は使っていません!!」
必死の訴えに、一瞬の迷いの後、彼女を信じると表情で語るエスティー。
白衣仮面の後ろに新たな仮面が現れる。
新たな仮面「残念だが、例外は認められない」
エスティーは「父さん」とボソッと呟くと苦しそうな表情でノアと向き合う。
エ「すまない」
ノアは声が出ないという顔をした後、苦い薬を呑んだ時のような顔になり、悟りきったような表情をした後に静かに告げる。
主「……分かりました」
エスティーは抱き寄せようとするも、ノアは迷いの表情をしながら、「触らないで」とばかりに両手を勢い良く突き出す。
何時の間にか、舞踏会の参加者達は壁際まで逃げている。
楽団は楽器を残して逃げ去っている。
兵士達がノアの周りに集まり始めるが、怖がっているのが分かる。
主「私は誰にも掴みかかったりはしませんから、血液感染を恐れる必要はありません」
周りの圧に負けた一番年若い兵士が前に出ると、一歩を踏みだすノア。
中年貴族A「女なのに並外れて、操縦が上手かったのは」
中年貴族B「私は気づいていたよ。あの反応速度は異常過ぎると」
ひそひそと話をする人々。※ 黒背景で台詞のみ?
ノアは兵士に連行されるというよりも、引き連れているとばかりの態度で会場から出て行く。
〇王宮、地下への通路
若い兵士(以降、兵)「こ、こっちだ」
怖がりながらも先導をする兵士の案内で、灯りが控え目の通路を進んでいくノア。
〇灯りが更に抑えられた通路
主(私が操縦テクニックは前世の父さんのおかげ)
回想がスタートし、ノアが異世界転生者だと明かされる。
〇現代日本、被災地
地震で倒壊した家屋を持ち上げ、住民を救出している二足歩行の重機。
その中の一機の操縦席には若い男性が座り、抱えるように少女を膝の上に乗せている。
ノアの前世は人が乗るロボットが実用化され、災害地での救助活動に利用されていた世界。
現代によく似ているが、少し進んだ未来だと描写。
〇白背景
主(男手一つで育ててくれた父さんみたいになりたいと、高三年で免許をとったのに)
悲壮な表情の現在のノア、誇らしげな前世・乃蒼と育て方を間違えたかなと言いたげな顔をしている父親を対比的に。
〇黒背景
免許取り立ての女子高生、大規模火災で逃げ遅れた人達を救うも――の新聞記事。
〇森林地帯
異世界での生活の回想。
キャノピーが破損し、操縦席が剥き出しになった二足歩行の人型巨大兵器を操り、同じサイズのモンスターと戦うノア。
パイロットスーツは厚手で乗馬服のようだが、ボディラインが露わになるデザイン。
左右の手の中に操縦桿があり、その頂上部に押し込み式のトリガー。足元に二つのペダルがある。
〇ほとんど灯りが無い通路
主(怪物とはいえ、生き物を殺すのは嫌だったけど、人を助ける為なら……と思っていたのに)
〇地下牢
あまり使われていないし、手入れもされていない。
見ているだけで、かび臭さが伝わるような一室を前にして固まるノア。
兵「入れ」
若い兵士に何か言いたそうにするノア。
兵「は、入ってください」
怯え、懇願するような態度の兵士に同情的な目を向けた後、ノアは中へと入る。
若い兵士は檻を閉じるも、鍵をかけずに走り去る。
主(逃げろって事じゃないよね?)
ノアは迷った後、鍵を押し込んで自分で自分を閉じ込める。
主(誰か来た時に、彼が責任を追及されちゃうからね)
ノアは理不尽な目に遭おうと、周りを気遣う性格である事を描写。
躊躇いの後、ノアは壁へと寄りかかる。
〇レビィハーの説明。
血管に注入する事で三十分程、使用者の視覚と聴覚、反射神経を高める。
新米兵士にも、ベテランに一歩及ばず程度の活躍をさせる事が出来ると軍部は開発者を称賛。
だが、攻撃性を高め、妄想を誘発する事が判明し、使用中止が命令された。
すると、元利用者達が保管庫を襲撃し、その際に負傷した警備兵も同薬物を求めるようになるという事件が発生。
一度でも利用した事のあるものの体液を介し、感染する事も分かったが、使用有無の識別が困難。
その為、何者であろうと使用を疑われた時点で隔離対象となる事が決まった。
〇地下牢、内側視点
何時の間にか眠っていたノア。
柵の前にお茶菓子と紅茶が置かれているが、紅茶は既に冷めている。
主(前に私が美味しいと言った……。エスティー様の手配かな)
罪人扱いの私に?と不自然さを感じるも好意的に解釈。
中腰になり、柵の間を通して右手でカップだけを、左手でお茶菓子をとる。
ノアは行儀が悪いと苦笑いしながら、立ち食い。
半分ほど食べた時にカップを落とし、壁に向かって倒れ、そのまま床に崩れ落ちる。
〇地下牢、外側視点
若い兵士がパンと果実水を入れたカップを手に戻ってくる。
彼は牢の中で倒されているノアに気づき、手に持っていたのを投げ捨てると走り去る。
ドタドタと階段を降りてきた兵士達は割れた紅茶カップに気付かない。
「毒を飲んだんだ」「檻に入れる際、ちゃんと身体検査をしたのか!?」「じょ、女性が相手ですよ」と言い争いを始める。
〇研究室をイメージさせる部屋
検視解剖をする為のような台に乗せられている状態で、かッと目を見開くノア。
若い男(以降、男)「おはようございます。ロザンジュ様」
医師が着る白衣のように見えるが、よく見ると違うと分かるデザインの服を着た男――漫画で描かれる若きマッドサイエンティストという容姿かつ、悪人顔の男がノアに話しかける。
男「手荒な真似をして、申し訳ない」
状況が呑み込めない中、より多くの情報を集めようと起き上がったノアは頭部に痛みを感じて、恐る恐る手を伸ばす。
男「だが、あのままだと、あなたも二度と陽を見れないはずだった事は理解していただきたい」
ノアはレビィハーの使用を疑われた人達が収容される刑務所以下の施設を思い出し、嘔吐しそうになる。
男は自分の分とノアの分のハーブティーを入れたカップを用意。
そのカップは牢屋で見たのと同じデザインであり、ノアは何かに気づいた顔をする。
主「毒……仮死状態にする薬物で誤魔化し、検視解剖にまわす遺体として脱出をさせてくれてありがとうございます――とでもお礼を言えばいいのかしら?」
診察台から降り、腕を組み、ひきつった笑みをするノアの問いかけに男は苦笑い。
若い男「そう思っていただけるなら、あなたの力を貸して欲しい」
ノアは美人はそれでも絵になるというむすっとした顔をするが、溜め息を吐いた後に嫌々受け入れるという顔に。
主「ロザンジュ家の後援は」
申し訳なさそうな顔で語るノア。
男「僕達が欲しいのは、開発した王太子当人でさえ、まともに扱えない欠陥機さえも乗りこなせる――凄腕のパイロットだ」
主「あの方の設計を悪く言わないで」
ノア、掴みかかる勢いで詰め寄る。
男「道具は目的があるから作られる。道具を作ってから、使える人を探すとかはナンセンスだ。どんなに性能が良かろうと、パイロットに求める技量が高過ぎる機体なんて、軍は求めていない」
男は淡々と告げ、ノアも彼の考え方の方が合理的だと理解出来るが故に黙る。
男「もう、あまり時間が無い」
あまりに説明不足な男にノアは不満顔だが、相手の声に切迫さを感じて言葉を飲み込む。
主「仮面?」
ノアは男の差し出した仮面(薔薇を模したベネチアンマスクで、顔の上半分を隠す)を手に取り、きょとんとするも、好奇心に負けて、部屋の隅へと向かう。
ノアは全身を映せる鏡の前に立ち、不可思議な体験をする。
主「自分の顔だと思えない。不思議な感覚」
声の変化にも気付く。
男「仮面の認識阻害に惑わされない者がいるとすれば、真にあなたを愛している者だけでしょう」
これを着けていてもエスティーは気づいてくれると考えるも、彼に迷惑をかけるだけだと自己嫌悪するノア。
男「何てね」
ノアは「嘘なの?」と落胆と悪ふざけに対する怒りが混ざった顔で問う。
男「さぁ? 誤魔化されなかった者がいないから分からない。けど、僕はロマンチストなので」
〇軍の演習場、荒野
遠くに同じデザインかつ、同じ装備(右手に剣、左手に盾)の二十メートル程の人型兵器達。
手前にデザインは同じだが、ペイントや装備(片手剣と盾、両手剣、ロケット砲)で個性を主張している人型達。
幾つか建てられているパイプテントの一つに、個性豊かな装いをしている傭兵達が集まっている。
彼等を監視するように、遠巻きに立っている統一された装備の兵士達。
時に敵味方に分かれる傭兵達だが、何事も無かったかの態度で談笑をしている。
以前着ていた物に似たデザインだが、乳房を抑えつける為に胸部は一際硬く作られているパイロットスーツに着替え、髪を赤く染めたうえに短くしたノアが歩いてくる。
傭兵達はノアに気づき、野次をとばし始める。
傭兵A「経歴問わずッ!! だからって、ぺーぺーが来るんじゃねえ」
傭兵B「顔の傷を隠す仮面で歴戦の猛者気取りかよ」
スキンヘッド(以降、ス)「まるで女みたいな細腕しやがって」
その中の一人、スキンヘッドがノアの腕を掴み、何か(具体的には柔らかさ)に驚いた顔をする。
ス「いや、待て……本当に女みたいな腰つき」
中性的というよりも女性寄りのノアの後ろ姿を描写。
主「触るな」
周りが悪態をつく中、手を払われたスキンヘッドだけが逃げるように去るノアをじっと見ている。
〇軍の演習場、丘
皆から距離をとったノアは物思いにふける。
その際、両足で挟む位置の操縦桿(トリガーは三つ)、足元のペダル二つの操縦席を描写。
ノアはマッドサイエンティスト然とした男の言葉を思い返す。
主(第二王子第二王子トゥシャドー様の作るのがAT車だとすれば、エスティー様の開発した車はマニュアル車。ううん、大型特殊自動車だ)
主(形式ばった操縦を習う国軍兵士とは違う人達の中から、殿下の機体を活かしうる人材を求めるという試みは分かるけど……何なの、あの粗暴な人達)
伝令役の兵士が「受け取った番号が17から、24の人は丘の前に集まってください」と呼びかけながら、ノアの前を走り去って行く。
主(もう、殿下の隣で支える事は出来ない。でも、まだ出来る事はある)
ノアは強い決意を感じさせるきりっとした表情をする。
〇軍の演習場、一際荒れている荒野
ノアはハンマーを手にした機体、スキンヘッドと対峙している。
ス「盾ごと、吹っ飛ばしてやるぜ」
スキンヘッドは大振りを繰り返し、ノアを近づかせない。
ノアは一際大振りをした隙を突こうと踏み込むが、その瞬間に槌の根で突かれかかる。
主(乱雑に見せかけて)
ス「ちっ、引っかからねえか」
スキンヘッドは落ち着いた雰囲気に変わり、ノアも気付く。
ノ(この人、強い! 自分の手足のように動かせる機体が、エスティー様の機体が欲しい)
無いものねだりと分かっているが故にノアは悔しそうに顔を歪める。
スキンヘッド「仮面は本当に戦傷を隠す為か」
スキンヘッドは構えを変え、大振り、小振り、突きを組合せるが、ノアはぎりぎりで避け、一撃一撃を当てていく。
〇軍の演習場、テント
休憩中のノアに飲み物を差し出すスキンヘッド。
殴り合った結果、分かり合えたとばかりの態度に戸惑うものの、ノアはお礼を言って飲み物を受け取る。
ス「スカーレット」
ノアは参加申込みの時にとっさに書いた偽名を思い出せずに反応が遅れる。
ス「お前の戦い方に似た奴を知っている。ロザンジュ家の縁者か?」
ビクッとするノア。
ス「すまん。傭兵の過去を詮索するものじゃないよな」
本当に悪気は無かったんだとの態度にノアは「気にしないで」と返す。
ラッパの音が高らかに響き、王太子と第二王子、護衛の人型兵器の一団が遠くから近づいてくる。
直後、昼間でも分かるような流れ星。
人々は「不吉な」と顔を顰めたり、「願い事をしないと」と喜んだりと様々な反応。出身地、風習の違いを描写。
王太子達も歩みを止めて、物珍しそうに見上げている。
主(来てしまった!!)
親の仇を見つけたような顔をするノア。
〇回想、研究室
男「遠い遠い空から、大地に災いを齎す者が来る。それが振るう鎌が王太子と第二王子の首を落とす――と、とある方が未来を見た」
〇軍の演習場、一際荒れている荒野
落ちてくるのが隕石というよりも、巨大な杭に似た人工物だと皆が気づく。
地面に激突した杭は大地を激しく揺らし、大穴を作り、土埃を巻き起こす。
人々が恐々と大穴を覗くと、中から、六本足の巨大な機体(*1)が現れる。
*1 足の数が違う以外はH・G・ウェルズ氏の宇宙戦争に登場する火星人の機体トライポッドに酷似したデザイン。着地をする際は足を束ねて、杭のような形状になって地面に突き刺さる。
皆が唖然とする中、六本足は怪光線を人型兵器に照射して爆散させる。
六本足は足三本で機体を安定させながら、残る三本足の一つで近くの機体を殴打。
その機体は上半身半分を圧し潰され、中のパイロットの生存は絶望的。
エ「散開しろ」
エスティーの荒野に響くほどの一声に我を取り戻した兵士達は六本足を取り囲むが、足三本で姿勢を制御しながら、残る三本足で殴打を繰り返す敵の不規則な動きに苦戦。
熟練の傭兵達は死地をくぐり抜けてきた経験から、彼我の戦力差を悟って逃走を開始。
〇軍の演習場、窪地
脚部をやられ、動けなくなった兵士を狙う六本足。
兵士「う、うわぁぁぁ」
だが、そこに飛び込んだ影が振り下ろされた足を打ち払う。
第二王子トゥシャドー(以降、ト)「国を守る為の機体を開発し、自らも乗って戦う。この私こそが次期国王に相応しい」
僚機に引きずられる事で離脱をする脚部損傷機。
護衛達が慌てふためく中、トゥシャドーは両手で握る大型剣を使って奮戦。
六本足に足を振るわれても、薙ぎ払う事で弾いていたが、遂に失敗して弾き飛ばされてしまう。
起き上がろうとするトゥシャドーに向かう六本足。
兵士達三人が阻止しようとするも、弾き飛ばされてしまう。
〇荒野、パイプテントの一つ
指揮官という責を果たさんと、機体から降りて、テントの中にいたエスティーだったが、もう、じっとしていられないと、自分が開発した人型兵器に乗ろうとする。
周囲は阻止しようと掴みかかる。
何時の間にか、ノアもそこに混ざっている。
何かを感じて振り返ったエスティーは幽霊を見たような顔で固まり、抑え込まれている隙にノアはコックピットに潜り込む。
〇エスティー専用機のコックピット
左右のレバー(トリガー四つずつ)、ペダル二つ、複数のメーター。
コックピットの違いを描写。
〇軍の演習場、窪地
トゥシャドーは六本足にマウントをとられたような状況で殴られ続けるも、振り下ろされる足に対して、手刀を振るって反撃。
だが、キャノピーは半壊し、機体はあちこちがへこみ、数か所からは煙もでている。
六本足が怪光線を発射する体勢になると、トゥシャドーは脱出を決意。
トゥシャドーが飛び出す寸前、ノアの乗る機体が六本足に体当たりをしかける。
六本足はバランスを崩し、照射された怪光線は大空へと逸れる。
転げ落ちたトゥシャドーは自分を助けた兄(と誤解しているノア)に複雑な表情を向けた後、自分達の陣地へと走る。
〇軍の演習場、一際荒れている荒野
起き上がり始めた六本足と対峙するノア。
主(もう、あの人の隣に立ち、支える事は出来なくなった。けれど……)
主「まだ、私にも出来る事はある!」
ノアは気合の一声を轟かせ、ペダルを力強く踏み込む。
〇軍の演習場、テント
自分では出来ない動きをしている自分の作った機体に複雑な表情を向けるエスティー。
尚、その髪と服は側近達との掴み合いで乱れ、しわくちゃになっている。
そこに駆けこんできたトゥシャドーは自分を助けたのが別人と知って驚く。
〇軍の演習場、一際荒れている荒野
ノアは必殺技を繰り出すような事はしない。
最小限の動きで六本足の攻撃を避け、同じ個所に攻撃を当て続ける事でダメージを蓄積させる事で一本ずつ足を破壊しているだけだ。
遂に残る足が三本となり、殴打を出来なくなった元六本足は逃走。
ノアは背中を見せている相手に攻撃をする事に迷いの表情を浮かべた後、両手のレバーを前へと倒しながら、アクセルペダルを一気に踏み込む。
接近に気づいた元六本足が振り返った直後、ノアが高々と掲げていた剣を一気に振り落とす。
元六本足の頭部の一部は砕け、足の一本も切断され、バランスを崩したが為に転倒。
地面に衝突した際に頭部は更に損壊し、イカを彷彿とさせる二メートル程の身長の異星人が転げ落ちる。
兵士A「モ、モンスターがこれを!?」
兵士B「ゴブリンは棍棒を使ったりするが、こんなものを使う奴まで」
異星人など想像を出来ない彼等は『モンスターが兵器を操っていた』と驚き、ざわめく。
主(やっぱり、ロズウェルの火星人? ううん。足の数が違うし、頭の形状も……タコじゃなくてイカ?)
唯一、ノアだけが異星人だと気づく。
異星人「#$%&」
異星人は未知の言語で悲鳴をあげた後、呼吸が出来ないで苦しむように(溺れているように?)倒れる。
兵士達は盾を前面に突き出し、恐々と近づいていく。
同時に辛うじて動く機体に乗っている兵士達がノアを取り囲み始める。
兵士(隊長)「君の勇敢な行動により、大勢の命が救われた。それについては感謝をするが……王太子殿下への暴行を見過ごす事は出来ない。功績を考慮した扱いを約束するので、速やかに殿下の機体から降りなさい」
主(ここで私が捕まったら、死の偽装にエスティー様が関わっていると疑われるかもしれない)
ノアは唇を強く噛むと、機体を一気に加速させ、包囲のわずかな隙間を突破。
兵士達は「殿下の機体をとり返せ」と叫びながら追撃を開始。
エスティーは愛する人との別れを惜しむように、生み出された土埃の果てをじっと見ている。
〇軍の演習場から離れた位置の丘
まだ幼い顔立ちだが、高貴な装いをしている少女「魔法の仮面だけでなく、素敵な殿方に仮装までしているとはいえ、自分の婚約者に気付けないなんて……酷い兄さまです」
困った兄を見る妹という態度の少女の隣には、如何にもなマッドサイエンティストの若い男が立っている。
そして、彼等の後ろにはスーパーロボット然とした人型兵器。
〇エピローグ
身に覚えのない罪で収監されかけるも、死を偽装する事で脱出に成功したロザンジュ侯爵家の令嬢ノア。
だが、愛する人を守る為にした行為により、またも追われる身となってしまう。
人類とモンスター、そして国と国――長い争いが続く大地に遠い遠い宇宙から打ち込まれた脅威。
混沌渦巻く地でノアは未来を掴む為、愛する王太子の為にあがき続ける。
*** 設定 ***
# 舞台
中世後期から近世初期のゴシックとルネサンスが混ざりあっている頃の欧州のイメージ。
ただ、モンスター(*2)との戦いの為、軍事方面に偏った発展をし、魔法で動く二足歩行型兵器も存在。
王政国家が多いが、社会主義に近い形態や企業国家のような政治体制を採用した国もある。
人々は銃火器と魔法を発展させ続けるも、多くの犠牲のうえの勝利しかなかった。
それを変えたのは、百年前、濃い霧の中から鋼鉄の巨人に乗って現れ、巨大なモンスターを殴り飛ばした男ジャンである。
彼は三十代半ば――現れてから、十年という早さで体を壊し他界するも、残した多くの資料により、多数の人型兵器が開発される事になる。
*2 最も小型で一メートル、確認された最大サイズは三十メートル。三メートル前後のものが多い。
# 主要登場人物
主人公 ノア・ロザンジュ
十七歳。細身だがモデル体型というより、アスリート体型。
赤を基調とするアイシャドウやアイラインで化粧。
そよ風で流れる程のしなやかな長い金髪を薔薇を模したジュエリーで彩っている。
ドレスは薔薇色を基調とし、胸元も開いているが、同年代の女性と比べると小ぶり。
細身のボディラインを露わにするパイロットスーツは厚手の乗馬服のようなデザイン。
男手一つで育ててくれた父親のようになりたいと、高校在学時に人型重機の免許を取得した才女だったが事故死した前世を持つ。
尚、前世の名前も乃蒼だった。
王太子 エスティー・グランゼ-ペ
十九歳。鍛えても目立つような筋肉がつかない体質の為、細身の印象からは想像を出来ない程に素早く、力強く駆けられる。
休日には一日、テニスを楽しんでいる学者といった雰囲気。
母親似の柔らか気な顔立ちと薄い金色の髪。
第二王子 トゥシャドー・グランゼ-ペ
十八歳。中肉中背だが、父親似で太りやすい体質の為、太り気味。濃い金髪。
後方ではなく、現場で指揮をする軍人のイメージ。
パイロットスーツは厚手の皮を基本とし、要所要所に金属を張りつけ、動き易さと急所を守るを両立させたデザイン。
第一王女 カトリーヌ・グランゼ-ペ
十四歳。高貴な装いの少女。
漠然とした未来を見て、それを水彩画という形に出来る。
周囲には魔法の才能を伸ばす事を期待されているが、科学の方が好き。
若きマッドサイエンティスト ファージルマ・マルコス
十六歳だが、実年齢より老けて見られる。漫画的な悪人顔。
カトリーヌと密かな恋仲であり、自身の設計した中遠距離戦用の人型兵器に搭乗。
国王 トワロ・グランゼ-ペ
政略結婚だったとはいえ、実際は両想いだった隣国の姫と結ばれた為、彼女を亡くした後も側妃は迎えていない。
故にエスティーの気持ちを理解するも、国の利益を優先した。