白いわた
今回紡がれる物語はクリスマスイブに起こるプレゼントを贈る猫のお話
空気が冷えてくると人々は分厚い毛皮を織る。茶色や灰色、黒が多く見える。
そんな中で頭に赤い三角の帽子を被る人が増える。そんな時期になるとそろそろだなと思う。
ちょうどその時、後ろからチリンと鈴の音が聞こえた。
振り返ると今まさに入ってきたのだろうチャトラの猫がいた。辺りを見回している。
左右に動いていた瞳が真っ直ぐ前を見て、漸くボクと目が合った。
「あ、あの」
今まで本当に気がついていなかったようで尻尾を膨らませて驚き、その後慌てたように話しかけてきた。この場所に来るとしたらボクに用事がある子くらいだ。
それにしては気がつくのが遅かった気がするけども。
「どうしたの?ゆずくん」
名前を呼ばれたゆずくんは戸惑いの表情を見せる。ゆずくんとは初めて会うけれど、ボクは知っている。ゆずくんの生年月日から好きなもの、ちょっとしたイタズラをして怒られたことまでも知っている。
「ここにどんな用事があったのかな?」
ゆずくんが何か喋る前に問いかけた。主に似て少し遠慮しがちだからこそ、この場所に一人で来たことに少しボクは驚いていた。けれど、そんな子がこの場所まで来た理由をボクはゆずくんの口から聞きたい。
「えっと、ここに来ればプレゼントを渡せるって聞いたんだ」
そうこの場所は人にお世話になった動物たちが人にプレゼントを届けられる場所だ。
外に出られる子たちは自分で獲ってきた獲物をプレゼント出来るが、家から出たことがない子たちや動物の力だけじゃ用意出来ないものを渡したい子、普段人と一緒にいてプレゼントを用意する時間がない子などがこの場所に来る。
そんなこの場所でボクは管理をしている。だからこそ、訪れた子たちがどんな子たちで届けたい人はどんな人かなどの情報が多くこの場所に保管されている。
プレゼントを人に渡したい子たちの傍にこの場所へと繋がるゲートが現れる。
プレゼントを渡したいという想いが大きい程、ゲートが開かれていく。
ゆずくんの想いが大きかったからこそこの場所に来れたのだろう。
「誰にプレゼントを渡したいの?」
ボクはなるべく優しく問いかける。すると、ゆずくんが話始めた。
「ママにプレゼントを渡したいんだ」
ゆずくんがママと呼ぶのはボロボロになっていた頃、ゆずくんを拾ってここまでお世話してくれた優しい人だ。
「ママが大切にしていた、くまさんから白いモコモコが出てきちゃったの
ママはいっぱい、いっぱいくまさんを治してたんだ
すぐに元通りになってたんだけど、でもねやっぱり傷の後が残っててね
くまさんとママにごめんなさいって出来るやつが良いなって思ったんだ」
そういうと、背中に持っていた人形のくまさんを見せてくれた。
ボクはこの人形を知っている。ゆずくんがママの所に来た時からずっとあるものだ。
ゆずくんがイタズラで切り裂いたり噛みついたりして、それによりママが怒ってその度にこの人形を治しているのも知っている。
「そうか、分かったよ。そしたら、ちょっとくまさんを貸してくれるかな?」
そうボクが言うとゆずくんは人形を渡してくれた。
ボクは人形を両手で持ち目を瞑った。すると、ゆずくんの声が聞こえてきたボクの身体が光輝きだしたのだろう。少し経った後、ボクは目を開けた。
ボクが持っていた傷だらけの人形は新品と変わらないくらいまで戻った。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
ゆずくん嬉しそうに喜んでいる。ボクは近くの棚の上にあった首輪を人形の首につけた。
ボクはゆずくんに人形を返した。
人形を受け取るとゆずくんは嬉しそうに来たゲートへと戻っていった。
「にゃ~ん」
ゆずくんは家に戻り、一声あげた。すると、声に気が付きママが寄ってくる。
ゆずくんの隣にあった人形を見て驚いた様子があったが、そんなことは気にせずにゆずくんと人形を抱き上げた。
「ちょっとおまけをしちゃおうかな・・・」
ボクは窓に向けて指を鳴らした。すると、空からゆっくりと雪が降りだした。
「わぁ雪だ!」
ママはゆずくんと人形を抱きかかえながら呟いたのを聞いて、ボクは窓辺へと近づいた。
「Merry Christmas いい夜を」