終焉の陰で
今回紡がれる物語は、女性と一匹の猫?の新たな一歩のお話
―現在0:54
誰もいないであろう高層ビルの屋上に一つの人影があった。
私は今日、死ぬんだ…。
そう、心の中で呟いた。もう生きる理由が見いだせなくなったのだ。数週間前に両親が他界し、私が産まれてから一緒に育った愛猫の〝ライ〟も先日亡くなってしまったのだ…。
私にも夢はあったと思うが、もう思い出せない…。
「お父さん、お母さん…〝ライ〟…、今そっち行くね…。」
そう言った後、屋上からは人影が消え、下へ、下へと落ちて行く影があった。
「こんな所で死ぬならボクの事を手伝ってヨ」
その声が聞こえた瞬間、落ちていたはずの時間が止まったように思えた…。
「…!?、〝ライ〟…?」
目の前に〝ライ〟と瓜二つの猫が現れたのだ。ただ違うとすれば、その猫の尻尾は真ん中でふたつに裂けていることだ。
「??、ライって誰のこと??ボクの名前はナタ、こう見えても死神をしてるんだヨ」
ナタという猫がそう告げる。しかし、私は信じられないものを見ている気分だ。
走馬灯だとしても、こんなファンタジーを望んではいないからだ。
ナタはそれを読み取ったのか、不機嫌そうに言う。
「あっ!、その顔信じてないネ!!ボクは、れっきとした死神なんだヨ!!
まぁ、ココのヒト達が想像する死神ではないけど…」
ばつが悪そうにナタが言った。
「私達が想像する死神じゃないってどういうこと…?」
不思議に思い質問をするとナタの顔には笑顔が戻った。質問されたのが嬉しかったらしい。
「ふふん…、知りたい?知りたいヨネ!この優しいボクが答えてあげヨウ!
ボクはヒトの前に現れる死神ではなく、動物の前に現れる死神なンダ!」
「ただ、訳があってボクの助手になってくれるヒトを探していたらキミを見つけたンダ!」
ナタは嬉々として教えてくれた。
私を見つけたってどういうこと…?今にも死のうとしていたからとか…?
「ご明察!」
また、ナタは私の気持ちを読み取りそう答えた。
私は少し考えた。普通なら断るところだとは分かっているが両親が他界した後、寄り添ってくれた〝ライ〟に恩返しをしたいと思っていた。だからこそ、別猫だと分かっていても〝ライ〟に瓜二つであるナタのお願いを無下にはしたくないとそう思った。
「わかった…、私、ナタのこと手伝うよ」
「そうかい!それは有難いネ!キミの名前は?」
「―●●●●」
私は自分の名前を告げると意識が遠のいた。
―『昨日、1:00頃に高層ビルから飛び降り事件がありました。身元不明で警察が駆けつけた時には息を引き取っており、警察は自殺の線で捜査を開始しています。』
「おはヨ、自分の名前忘れちゃってるヨネ?ボクがつけてあげル!」
その言葉が聞こえたと同時に私は目を覚ました…。
「うーん…、そうダ!今日からキミの名前は〝フォンセ〟ダ!」
これが私、フォンセとナタの出会いでこれから始まる物語の序章である。