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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第三章 姉妹仲が常に良好とは限らない
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第二十八話 予想外と想定外と論外

「遅かったじゃないか、ドール。思ったより手こずったのかな?」

「あれ、もしかしてアタシが最後……?」


 最初に言われていたように図書室に向かったドールだったが、到着した頃には既に他の三人は揃っていた。


 これは別にドールが遅かったわけではない。他が早すぎただけなのだ。


 アイアンとジェードについては言うまでもないことだが、実はこの中でファンが一番早く図書室に来ていた。


 ちなみに、襲撃者がいることを想定しておらず油断していたを遠距離から専用魔法で始末という、ドールに引けを取らないようなやり口であった。


 二人の戦い方について聞いたジェードとアイアンは、頭を抱えた。


「人形だからな、そりゃ人形だから無茶もできるわな。流石に本体でそれはやらねェよな……?」

「その時の精神力次第ね」

「気合いさえあればできんのかよ……」


 特に問題なのはドールの戦闘スタイルである。


 獣のような四足歩行については何も言うことはない。強いて言うなら汎用魔法の中に飛行魔法もあるので、練習しておこうというくらいだ。


 だが自分の身を顧みない戦い方はいただけない。


 例えそのやり方で黒奴(クロヌ)に勝ったとしても、死んでしまっては元も子もないし、再起不能な怪我を負ってしまってもダメなのだ。


 ドールがいなくなって生じるチームの穴を埋める人材をそう都合よく見つけられるとも限らないし、負傷を理由に戦線を引いているうちにドール以外とは相性の悪い黒奴(クロヌ)が現れる可能性もある。


 ジェードはそういったことをドールにきつく言い含めておいた。


「……百理あるわね」

「でも、デコイの使い方としては満点じゃないかな?」

「自分そっくりの人形にできるなら自分にもできる、っていう発想がダメなの。ファンもそういう戦い方はダメだからね?」

「……分かっているよ」

「今の間は何だ、今の間は」


 二人の考え方と行動は何も今に始まったことではない。出会った時から、というよりも黒奴(クロヌ)との因縁が生まれたその日から、二人はずっとこうなのだ。


 変えることが難しいとしても、周囲が抑えることはできる。


 ……ジェードは少し前までそのあり方に流されそうになっていたが、今はアイアンが入ってくれたおかげで何とか抑えられている。


「それじゃ、二人とも体力は大丈夫? 魔力の残りは?」

「いつでもいけるわ」

「今ならいい風を吹かせられそうだ」

「いい風吹かして何になるんだ……?」

「気分が良くなるよ?」


 休憩を終えた四人は、階段へ向かう。


 これだけ騒がしくしたのだから向こうも相応に準備を終えているだろうが、人数で言えばこちらが勝っている。


 だからどうというわけでもないが、手札が多ければそれだけ相手の意表を突きやすくもなる。仮に会長たちがどれだけ策を弄していても。





 四階に登った瞬間に脳天をぶち抜かれるくらいの覚悟をして、ドールのデコイに前を歩かせていた四人だったが、意外なことに何の迎撃もなく渡り廊下の真ん中で待ち構えている二人の元までたどりつけた。


 ダイマの校舎は一組から四組までと五組から八組で南北に校舎が分かれている構造になっており、その中央である渡り廊下ではどこから伏兵に襲われてもおかしくはない。


 念のため一度二手に分かれ、教室を一つ一つ確認して回ってみたものの、特に何も仕掛けられてはいなかった。


 下の階に何かある可能性は捨てきれないが、それならドールたちの戦闘中に何も起きなかったことの説明がつかない。


 勝てるのならばそれでいいのでファンの風に頼ろうともしてみたが、なぜか魔法がうまく組めず、結局正面から近づくしかなかった。


「そこまで警戒しなくたっていいだろ? 何も仕掛けてないってのに」

「でもちゃんと警戒してるのはいいことよ。私と話してる時のあの子みたいだわ」

「え、メジャー初対面でそんな警戒されてたの?」


 天秤を指先に吊るし、ゆらゆらと揺らしている会長。


 定規と呼ぶにはあまりに大きく分厚く重い定規を担いだ副会長。


 見た目だけなら近接型と遠距離型のコンビのようだが、どんな魔法を使ってくるかまるで予想がつかないのが対魔法少女戦の怖いところだ。


 そのため先手を取って攻撃してしまった方が有利になれるのだが、既に敵が何かの魔法を発動させようとしているのが、四人には分かってしまった。


 先手は取られるにしてもそれ以上の行動を起こされるわけにはいかないと、駆けだす四人。


「『規則3、廊下を走るな』」

「『罰則3、魔力の徴収』」


 だが、体に纏っていた魔力が突然消えてしまい、盛大にすっ転んだ。


 消えた、というよりも吸われたような感覚。


 ばっと顔を上げてみれば、会長の持っている天秤からは、丁度四人の纏っていた魔力と同じくらいの量の魔力を感じられる。


「ここまでよく頑張ったと思うけど、ここに来た時点で君たちの負けだよ」

「へぇ、自分ルールを他人に強制する魔法ね……強引にアイツを勧誘してるアンタらしい魔法じゃない!」


 人形操糸(マリオネット)を発動させ、倒れこんだままの姿勢から糸を飛ばすドール。


 同様に、ジェードとアイアンも無言で会長たちの背後からそれぞれ翡翠の柱と鉄の槍を生成していた。


 だがそれは、発動する直前に先ほどと同じように魔力を天秤に吸われ、不発となる。


「なっ……!」

「……規則3……既に1と2が発動済みということか。私の風も使えないわけだよ」

「あら、すぐに分かったのね。大した洞察力だわ」

「どちらも罰則は魔力の徴収であることも補足しておこうか」


 走れない。肉体の強化くらいは可能だが、遠距離の魔法は発動できない。どちらも破れば魔力を奪われ、相手が強化されてしまう。


 歩いて近づくしかないにしても、二人は既に後退し始めていた。


 身長差というか、足の長さを考えると追いつくのは難しい。それに、今は二人も歩いて移動しているが、自分の魔法に自分が引っかかるようなことがあるとは思えない以上二人の妨害も考えられる。


「私たちの邪魔をしないのなら、これ以上は何もしないと約束するわよ」

「ちょっ、そういうのは立場的には私の方が上なんだから、私が言うべきじゃないのかな?」

「……面白い冗談ね、気に入ったわ。アンタはそっちの天秤を潰した後にしてあげる」

「……えっ、私!? メジャーじゃなくて!?」

「へぇ? 規則より罰則が重いことに気づくなんて、こんな状況でも冷静なのね」


 副会長の言うように、ドールは冷静だった。ファンは割とテンパっていたが、本当にどうしようもない状況であるようには、とても思えないのだ。


 床の冷たさをゆっくりと味わっているジェードとアイアンの姿を見れば、それはすぐに分かる。


 人形操糸(マリオネット)で操作した自分そっくりの人形でとはいえ、半ば捨て身の特攻で初めての対人戦を終えてしまったからなのだろう。


 安全性を考慮したものというか、もっと確実で堅実なやり方でも勝てることを証明することを求められているのだと、ドールは受け取った。


 そして考える。


 考えに考える。


 罰則が発動してしまう条件はどのようなものであるか。それを突破して攻撃するにはどうすればいいのか。


「……戦意喪失して逃げ帰る魔法少女の目じゃないわね……」

「君が煽るようなことを言うからじゃないかな」


 考えた末に、ドールは再び立ち上がった。


 ファンの手を引いて。


「ド、ドール……何か手はあるのかい……?」

「あるわ。だから立って。アンタの力が必要なのよ、ファン」

「私たちは蚊帳の外ー?」

「ヒントの一つもくれない先輩はそこで寝てて」


 ファンは何が何だかまるで分からないという様子だったが、ドールの目には確固たる意志が宿っている。


 それを見て、ジェードもアイアンも気づいたなとでも言いたげな顔をしていた。


 ……だがここで想定外だったのは、ファンとドールのどちらもまともに飛行魔法が使えなかったことだ。


 さて何をしてくるのかと身構える会長たちの前で、ドールは魔法で肉体を強化する。


 ――そして、ファンを持ち上げた。


「ルール違反に罰則があるなら……ルールの穴を突けばいいのよ! 投げちゃダメとは言われてないわ!!」

「……いやそこは普通飛ぶなり這って行くなりするだろ!?」

「……えっ、私が投げられるのかい?」


 アイアンのツッコミと抵抗するファンを無視して、ドールは槍投げのようにファンを全力で投擲した。


 忘れてはいけないが、魔法少女はモチーフや体内に蓄えている以上の魔力が必要な場合、対価を支払って魔力を生成しなければならない。


 そしてさらに忘れてはいけなかったのは、ドールの対価が理性であったことだ。


 戦闘中にいくら冷静に見えても、それはすり減らした理性を少しでもかさ増ししようとしているに過ぎないのだ。


「そんな発想があってたまるか! くそっ、メジャー!!」

「っき、『規則4! 生徒会に――」

「貴女は後にするとドールが約束したね?」


 南〇人間砲弾のごときこれには流石に会長たちも狼狽え、対応が一瞬遅れてしまう。


 その一瞬の間にも、空中で風を感じて魔力の補給と姿勢の制御と精神力の回復を済ませたファンが迫って来ているというのに。


 巨大な定規を盾のように構えながら魔法を発動させようとする副会長。


 しかしファンの扇風機の羽のような形の二枚のブレードは、見た目以上の切れ味を持っていた。


「あれは嘘だよ」

「ぐぁっ!」


 剣道どころか武道のようなものは齧ってすらいないので、滅茶苦茶に振り回しただけのブレード。


 だがそれだけで定規はバラバラになり、突っ込んで行った勢いのままに副会長を押し倒し詠唱を中断させたファンは会長に行動を起こされる前に二つのブレードを連結させ、フリスビーのように投げた。


「危なっ!?」

「後輩が頑張った後は、先輩の出番だよね」

「ちっ、いきなり形勢逆転か!」


 殺意マシマシのカッターを辛うじて回避した会長だったが、そこに追い打ちをかけるようにジェードが肉薄する。


 こちらは素直に飛行魔法で殴りかかっただけだったが、これでもジェードは歴戦の魔法少女。その速度は投げ飛ばされたファンよりもずっと速かった。


 応戦しようとした会長だが、飛行魔法を利用した三次元的なジェードの挙動にはついてこれず、瞬く間に制圧された。


「これが魔法少女の殴り合いだよ。重力に縛られて床と壁と天井を区別してるうちは、まだまだヒヨッコなんだから」

「……ジェードって前衛でもいけるのね」

黒奴(クロヌ)相手じゃ意味のない技術だけどね? ……五年もこの地獄にいれば、嫌でも場数は踏むことになるから。こういうのは自然に身についたんだ」


 ジェードの闇が出かけたのは意図的に聞き流し、規則と罰則を解除させて魔法で生成した鉄の輪で会長たちを拘束しているアイアンの方へドールは視線を向けた。


 すると、視界に映る。


 この戦いは何とかこちらの勝利で終わったはずなのに、なぜか薄ら笑いを浮かべている会長の姿が。


「……捕まってるくせに何がそんなに楽しいのよ」

「マゾなんじゃねェの?」

「くはっ、ははははっ。……マゾではないけど、残念だったね。君たちは私たちを解放するしかないよ」


 敗北を受け入れられていないのか、それともまだ手札を隠しているのか、そんなことを宣う会長。


 よく見れば先に床に転がされていた副会長も同じような顔をしている。


 そこでようやく、ドールは自分の失敗に気づいた。


「あぁ……確かにやらかしたわね」

「え、何を?」

「制圧したヒラの生徒会員の顔、確認してないでしょ」

「それが一体……まさか!」


 ジェードとアイアンには何のことか分からなかったが、ファンには分かった。





 正木 紬義にももう少し仕事をしてもらう。あの日電話を盗み聞きした時に、二人は確かにそう聞いた。





「……あの、結芽さん。今お時間よろしいですか?」

「いいよ。また雑用? 今日は妙に生徒会の人を見ない気がするけど……」





 一年の第一種目である徒競走が終わり、順位は結芽たちの赤組が二位、紬義たちの白組が三位という結果だった。一位は他所のクラスだ。


 次の種目までもうしばらく時間があるという中で、結芽は突然紬義に呼び出されて北側の校舎の屋上に来ていた。


 また何かの手違いという体で雑用を押し付けられるのかと思ってた結芽だが、屋上には何もない。


 しかも呼び出した紬義もしかめっ面で携帯を弄っているという、よく分からない状況であった。


「で、どうしたのさ、正木。競技が終わるまで校舎は入れないって言われてなかったっけ?」

「せ、生徒会の権限で、鍵は貰っていたんですよ」

「でも最初から開いてたよね?」

「えっ、あっ、そ、それは……先輩が閉め忘れたんでしょうね! きっとそうに違いありません!」

「なら、入った後に一度閉めるべきだったんじゃないの?」

「わ、忘れてました!」


 あからさまに様子がおかしい紬義。しかし結芽は、それに対してさほど違和感を抱くことができない。


 疑問に思ったことを畳みかけるように問いかけてはいたが。


 とりあえず結芽は、しばらく時間がかかりそうだったので、校舎の上から校庭を眺めていた。


 今は丁度上級生がリレーをしているところで、それを眺めてやはり自分の方が速いなと謎のマウントを取っていると、紬義にようやく動きがあった。





「う、動かないでください……動けば、安全は保障できかねます……!」





『し、指示通りに、泡沫 結芽を確保しました……次の指示を待ちます』

「ご苦労、ウィップ。……さて、これでもまだ私たちを磔にし続けるつもりかな?」

「……ちゃんと人数を数えなかった私たちの失敗だね」

「予め資料は確認したつもりだったが……改竄されてたってのか? クソが」


 校舎の中に配置されていた全ての魔法少女は、会長たちを含めて全て最初から囮でしかなかった。


 全ては紬義が結芽を確保し、人質にするまでの時間稼ぎだったのだ。


 ついぞそれに気づくことのできなかった黒奴殲滅委員会は選択を迫られていた。


 逃げ帰ってもロクなことにならないが、人質を取られている時点でもうどうしようもない。板挟みである。


「さあどうする? 私の指示一つで、君たちの大事なお友達は……」

「二人同時でもアタシは糸で操作できるわよ、ジェード」

「……やめた方がいいよ。動けなくなったときの保険の一つも用意してないとは思えない……」

「最初に言われた通りになっちまったわけだ……ここに来た時点で、オレらの負けってなァ」


 舌打ちしながら近くにあった机を蹴とばすアイアン。


 魔法の肉体強化を忘れていたのか、机はそのまま渡り廊下の端まで吹き飛んで盛大な音を立てて壊れた。


 ――だがそんな音がしたにもかかわらず、会長の電話からはそれにも勝る声量の悲鳴が聞こえてきた。


『か、会長……どうしましょう……』

「? 今更何があったと言うのです? まさかその状況からあの子も抵抗するはずが……」


 何か相当の非常事態が発生したのか、かなり狼狽した様子の紬義。


 こんな時に何が起きると言うんだと思う副会長。しかしそこで彼女の脳裏に、先日の記憶が蘇る。


 変身はしていなかったとはいえ、堂々と魔法を使って見せたのに最後の最後まで警戒を解かず、何なら敵意をぶつけてきた結芽のことを。





『結芽さん! 危ないですから柵の外に立つのはっ……き、聞いてるんですか!? 落ちたらどうするんです!?』

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