第零話 対峙
ーーーーーほんの短い間、幸せな時間を過ごしてきた家が燃えるのを、俺は泣き叫びながら見ていることしかできなかった。
数百年前にこの大陸へ攻め込んできた魔王軍が残した負の遺産、魔獣。孤児院で聞かされた昔話では英雄が大陸を守り世界に平和が訪れたことになっているが、1000年後を生きる俺たちからすると何も解決なんかしていない。
実際は魔王を討ち取ったまではいいが、凱旋することなく英雄たちはどこかへ去っていってしまったのだという。魔王が討たれたとわかったのは、大陸の守護神であるイースが当時の国王の夢に出てきて宣言したとか。バカバカしい。
英雄も、イースも、国王も、国民も、皆バカだ。
俺は徹底的に、魔獣も魔族も魔王も、英雄すらすり潰そう。そのためには、力を得なければーーーーー
「ふうん、ずいぶん余裕じゃない?」
頭上からねちねちと降る魔女の言葉で、唐突にすべての感覚が目に写る景色に引き戻された。幼馴染と同じ顔をした悪魔が不思議そうに首を傾げている。
「やっと……終わりにできるな……リリア」
喉が詰まって思うように言葉が出てこない。潰された左腕はとっくに握力を失い、使い物にならなくなった愛刀がかろうじて引っかかっているだけだった。
(邪魔だな)
右手に掴んだもう一方の愛刀で、ぶら下がっているだけの左腕を斬り離した。薄くなっていた感覚すら飛び越えて、痛覚が脳を刺す。もうどうなったっていい。いや、むしろこの魔女の企みを阻止できて、リリアの記憶と身体を解放してやれるのであれば、もう思い残すことはないだろう。
ドラゴマンは、普段必死で抑え込んでいる衝動を一気に解放し始めた。
「ダメ!ドラゴマンッッ!!!」
誰かの必死の叫びは、既に遠ざかっている彼の意識に届くことは、なかった。