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第5話

 今回は七海ちゃん視点です。





 陸くんにお姉さん以外にも大切な女性が居ると分かった今、私は自分の心がこれ以上深入りしないようにと、この()()()をバッドエンドにする事でケリを付けようと考えた。


 だから敢えて陸くんに尋ねた。


「“ミナミちゃん”からお別れを言い渡された“北くん”が彼女に最後のプレゼントをあげるとしたらなんだと思う? ネットの上の事だから物はダメだよ」


 最近、陸くんはバスケ部への復帰に向けて、お昼休みは体育館で自主練している。だからこの質問の回答も午前中にカレから来たメールで受け取った。


『なかなか見られない景色かな。危ない吊り橋の向こうにあるシラネアオイのお花畑とか……北くんがそこからミナミちゃんへ実況中継するってシチュエーション! ミナミちゃんが望む方向へカメラを向けて、二人一緒に同じ景色を見る』


 凄くロマンチックだと思った。

 これが陸くんからの提案だから尚更……

 この悲しい物語の最後を飾ってくれる……



 私は、お弁当箱を片付けて空いた膝の上にタブレットを置いた。


「続き、書かなきゃ!」



「鈴木さん!」


 向こうで声がして、私は点けたばかりのタブレットの電源を落とす。


「ああ、やっぱり居た」


「芦辺くん……」


「ごめんね! 鈴木さん、ここでいつも、陸とお昼してたでしょ?」


「知ってたの?!」と驚いた私は慌てて言い訳めいた言葉を繋ぐ


「佐藤くんの事」


「知ってるも何も!陸とは1年の時、同じクラスだったし、去年の体育祭の実行委員会は一緒にやったよ! 俺ん()、夜、親居ないから…… 大体俺ん()で打ち合わせしてさ。陸は体育祭終わった後も何回か遊びに来てたよ」


「そうなんですか……」


「いや!それは、今はどうでもいいんだ! 陸が!さっき職員室へ呼び出された!」


「ええ??!!」


「裏サイトにこんな動画がアゲられてさ! 2年のフロアーでちょっと騒ぎになってる」

 と、芦辺くんはスマホをタップしてその動画を私に見せてくれた。


『佐藤陸!!日曜にまた子作り!!!』とのタイトルで、ウチの制服を着た陸くんらしき人物が同じく制服の女性とラブホの前で()()()()()している動画だった。


「こんなの!!絶対嘘だ!! だって日曜は!!」思わず“コス”の事を言ってしまいそうになって私は言葉を飲み込む。


「オレも嘘だと思うよ! 陸は日曜にわざわざ制服を着てウロウロするようなヤツじゃない!」


「そうだよね!ましてや裏サイトに流される様な動画だもん! 学校側だって、まともに取り合わないよね!!」


「それが……バスケ部顧問の伊藤先生が問題にしてるらしい……今度は停学以上の処分になるかも……」


「そんな!!」


 どうしよう??!!


 こんな事、リンさんに相談できないし……


 迷った挙句、私は詩音さんにメッセを出した。




『シオちゃん!助けて!! 陸くんの事!!リンちゃんには話せないの!!』


 5限の授業が始まってすぐのタイミングで詩音さんからメッセが来た。


『どうした? 恋バナ?』


『違う!!! 陸くん 濡れ衣着せられてる!! 観て!!』

 と動画のURLを送る。


『明らかに嘘なのは分かる。動画もフェイクっぽいね! こういうの詳しい人知ってるから訊いてみるね』と詩音さんから返事。


 私はジリジリと待っていたが6限の途中で詩音さんからメッセが来た。


「動画は明らかにフェイク。背景はネットで流れてる素材。合成も()()()()で色々不備があるから作ったヤツのシッポは捉まえた!辿れる(たぐれる)よ!」


 犯人には物凄く頭に来ていた私だけど……現代文の先生の眠たい朗読のおかげで冷静になれた。


『犯人を挙げるのが目的じゃないの! 私、“陸くん”のコスプレがしたい!! 経費は全部持ちますから力を貸して下さい!!』と詩音さんにメッセした。


 こうして現代文の授業中に、私は自分の立てた“計画”の打ち合わせを詩音さんと行った。




『男前ガードル改(フロントポケット・パッド付き)に男装用細マッチョインナー……計9500円だけど本当にいいの?』


『はい!』


『でも学校の制服は? 心当たりあるの?』


『凄くあります!! 授業終わったら頼みに行きます』



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 授業が終わり、教室がざわついている中、私は芦辺くんに声を掛けた。


「ちょっとお話があります!よろしいですか?」


「陸の事?」


「ハイ!」


「じゃあ、鈴木さんの“お昼スペース”に行く?」




 芦辺くんには私の立てた計画のあらましを話した。


「で、オレの制服を?」


「はい、あの、芦辺くんと私、背が同じくらいでしょ? まあ、高過ぎる私がいけないんだけど……」


「そんな自分を卑下する様な事、言っちゃダメだよ! 替えのズボン、ちょうど洗濯してあるし……あと、ワイシャツとベストも貸すよ! 男子用を使った方がよりリアルだろ?」


「ありがとう! ちゃんとクリーニングして返すから……」


「別にいいよ! いや、それは違うね!鈴木さんが気になるんならそうして!」


「うん! あの、何かお礼をしたいのだけど……」


「オレも、今回の事には憤ってるから他にも協力できる事があったら協力するよ! その上でのお礼という事なら……一度、オレの家に遊びに来てよ! 母親が居る時間に!」


「どういう事?」


「オレの母親は“夜”の仕事でさ! “男女関係”は()()()()()()方なんだ! だからあの人(母親)の“常識”からすると、高校になっても親しい間柄の女子が一人もいないオレは異常らしい。笑っちゃう様な変な話だけど、オレにも家に遊びに来てくれる女子が居れば安心すると思うんだ! ほらっ!オレは陸とは違ってモテないから!」


 芦辺くんのお願いに私はどんな顔して良いか分からなかったから……とにかく何度も頷いた。



 --------------------------------------------------------------------


 リンさんに余計な心配を掛けさせたくなかったので、当日の撮影は私、芦辺くん、詩音さんと詩音さんの仲間の“たっくん”と“ヒナちゃん”の5人で行った。


 詩音さんとヒナちゃんが私に『コス』を施してくれたのだけれど……


「うわあ!!陸くんだ!」って言う凄い仕上がりに加えて

「陸は左のバックポケットに左の親指を引っ掛ける癖がある」などの芦辺くんのアドバイスもあって『モニター』の中の遠目の“私”は陸くんそのものだった。


 その動画の合成や編集は、たっくんが一手に引き受けてくれた。私がたっくんの作品(映画学科の課題作品)に“女子高生2”として出演する事を条件に……


 こうして作り上げた動画を裏サイトにアップした。


 その動画とは……



 例のフェイク動画そのままのアングルと背景で、陸くんに扮した私と“JK仕様”のヒナちゃん(彼女には私の制服を着てもらった)が()()()()()しているところから“逆回し”してのメイキング映像で……コスプレを施されている私の様子もすべて逆回し。

 最後は……私がブレザーを脱いでヒナちゃんに渡す前の(さすがにベストとワイシャツは芦辺くんから借りた物を予め着ていた)素の私の顔のUPで終わる。



 この動画がアップされて……

 “顔の売れていない”私に辿り着くまで多少の時間を要したが、私は“予想通り”職員室へ呼び出しを食らった。



 職員室へ行って見ると、陸くんの立っている隣にはリンさんが居て……私の心に切なさがこみ上げて来る。


「リンさんの耳に入ってしまったんだ!」

 きっと私の何倍も……陸くんは辛いのだろう……


 心の中に怒りを貯め込んで居る私を伊藤先生が問い詰める。


「鈴木!! どういうつもりだ!!」


「どういうつもりもなにも!! 私はフェイク動画を流したヤツに抗議したかっただけです!」


「だからなぜ!こんなふざけた事をしたかと聞いてるんだ!! 返答次第では許さん!!」


「先生がどこで、私の動画をご覧になったのは存じ上げませんが、それは本来、アンダーグラウンドな物として扱われるべき!! 出所が裏サイトですから!! 裏サイトの存在を否定している学校側が、そこに配信されている映像を生徒の取締りの材料として採用する事の方がよほどふざけていると思います!!」


「何をナマイキに!!」


 激高した伊藤先生が私を平手打ちにし、伊藤先生は今井、田所の両先生に取り押さえられたが、私は平手打ちの勢いで床に転がりながらも心の中でガッツポーズをした。


「キサマなんか退学だっ!!」

 ツバを飛ばさんばかりに吠える伊藤先生をあっさり無視して

 私はスカートをパンパンとはたいて、姿勢矯正器の成果を遺憾なく発揮して背筋を伸ばしてすくっと立った。


「公立高校で先生のおっしゃることが通るかどうか、教育委員会に尋ねてみますね! 何なら文科省でもいいですし」


「何だと!!」


 尚も凄む伊藤先生に

「どうかご安心を! 幸い教室に入る前からスマホのレコード機能をONしていますから。今の一部始終はキチンと録音されていますよ。スマホの機能は事前にテストしていますし」


 私のこの発言に先生方は真っ青になった。



 教室に帰ると、一連のゴタゴタは私の足より速く伝わっていたらしく“一軍”の川口さんが歩み寄って来た。


「オレ達も“伊藤”の事、ウザかったんだ! オレ達には、やたら()()()()()“情報”取ろうとするからよ! だから絶対!!()()()()に着くからよ! 委員長も異存はねえよな!」


 芦辺くんが「もちろん!」と返すとクラス中に歓声が沸き起こったけれど……

 私も笑顔で皆に頭を下げたけれど……


 心の中は……

 晴れるどころか涙雲が立ち込めていた。


 職員室を出る前に


 ボソッと聞こえた


 陸くんのひと言……


「余計な事しやがって……」



 ああ、こんなにもこんなにも傷付いてしまうものなのか!!!


 好きな人からの非難の言葉は……


「ああ、恋なんてするものじゃない!!」

 と気付いたところで、既に手遅れ……


「……どうしたの?」って聞いてくれる芦辺くんから


「ごめんなさい……ずっと緊張していたせいか、急にお腹が痛くなって」と

 逃げる様に遠ざかった。


 私に……とても良くしてくれた芦辺くんに


 涙を見せるのは申し訳なかったから。




 つづく




今回は七海ちゃんの活躍回でしたが……お話は更に悲しい方向へ??(:_;)


次回は“劇中劇”の『あと20日で居なくなる私の為に』がメインのお話になりそうです。




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