第4話
「お~い!! こっちこっち!!」
制服(それもガチで同じ学校)の“カップル”に向かって手を振るリンは既に詩音とのバキバキな女子会を繰り広げていた様だ。
「どう座る? 陸くんは私達と一緒よりカノジョさんが隣の方がいいかな?」と詩音
「いえいえいえいえ!!! 私、佐藤さんのカノジョなんかじゃないです!!」と七海
一方、姉であるリンは陸の事を訝しげに眺めていたが
「どう見たって同じ学校の制服だし、二人ってクラスメイトだったりする?」
「今年も違うよ!」と陸
「陸! その言い方だと去年も違うって事だよね! あ、分かった! 七海ちゃんもバスケやってるんだ! なんだ! そう言ってくれればいいのに!」
言われた七海は慌てて否定する。
「違います!私は独活の大木なのでバスケなんかとても無理です! り、……佐藤さんとはお昼、食べる場所が一緒で……」
「あっ! 今、『陸くん』って言おうとしたでしょ?!」と詩音がニコニコと茶々を入れると七海はますます顔を赤らめる。
「それは……お姉様の前ですし、良くないかなと……」
「アハハハ!こんなの『陸!』って呼んでもらえればありがたいよ!それより陸から聞いた?『サフィルスター』の話」
「私にはとても無理です! いかり肩で胸はストン!としてるし、目も全然おっきくないし!! とてもとてもあの方の様には!! このあいだ見せていただいたプライベートイベントの時の方の様にはなれません!!」
「ああ、あの子は……」とリンは陸をチラリ!と見やって続ける。
「あの時だけの約束でやってもらったの!色々と事情があって……」
すかさず詩音が援護射撃をする。
「あなたなら、大丈夫!! 目の形は変えられるし、バストアップなんて思いのままよ! それよりあなたが持って生まれた伸びやかで素敵なスタイルこそが重要なの!!」
「そんな事をないです……」
こんな風に言われて七海はますます萎縮する。
「じゃあ、男性の意見も聞いてみようよ!ここに約1名居るから!」とリンは陸の袖を引っ張る。
「鈴木さんなら絶対!!“カッコいい” 『サフィルスター』になれると思う!!」と陸が七海を持ち上げると
「それは……」と反論しかけた七海の手を詩音がしっかりと握って語り掛ける。
「今回はどうしてもあなた方の力をお借りしたいの!! 実は……リンさんにはさっき話したのだけれど私のスタッフさんを“くるり姫”さんのところへ引き抜かれたのよ!」
「えっ?! そうなんですか?!!」
「ええ、あなた、“くるり姫”さんはお好き?」
「私は……あの方の“コス”は少し“あざとい”感じがして……苦手です」
「うん! そうなの! あの人の着る衣装はあざとさがプンプンしてる!」とリン
「『美少女戦士リボンスターズ』そのものも、セクシーな絵柄の回や凛とした絵柄の回があるから、その解釈な各々の“レイヤー”さんに寄るとは思うの。
で、私のスタッフさんだった高橋さんは、どちらかと言うと“セクシー志向”で……より自分の方向性を主張できるレイヤーさんに付いたのだと思う。
昨日、“くるり姫”さんのイン●タに、『次回のあこすたは“ルビーマーズ”やります』って出ていたから……
でも私は、リンさんが作り出すコスの方が好きなの! こうしてようやくご縁が出来たから……リンさんが作り出す凛とした『美少女戦士リボンスターズ』で勝負したいの!!」
その言葉にリンも畳みかける。
「七海ちゃんなら分かると思うけど、詩音さんが『美少女戦士リボンスターズ』の中で選んだキャラはメインの『デザートムーン』じゃなくて『ルビーマーズ』なのは、『ルビーマーズ』が一番凛としたキャラだから!!
そして詩音さんが目指しているのは、衣装をセクシーにしてあざとく“オンナ”を演出するのでは無く、対象のキャラに自らをシンクロさせることによって自分の内側から、そのキャラクターの持つ“女らしさ”を表現する事!
そんな詩音さんを、私は自分も『デザートムーン』のコスで応援したいし、今日お預かりした『ルビーマーズ』の衣装を出来る限り作り直したいの!!
だからお願い!! 力を貸して!!」
リンが七海に頭を下げると陸も一緒に頭を下げた。
そんなリンの手を七海はしっかりと握り、三人は手を繋ぎ合った。
「私、こんな背丈だから、自分でワンピを作ったりします。ミシンも少しは扱えますから……そのお手伝いもさせていただけますか? “凛とした” 『ルビーマーズ』を……私もぜひ見たいから!!」
--------------------------------------------------------------------
七海は陸に手伝ってもらって佐藤家へミシンなど一式を持ち込み、初めは通いだったが、そのうち泊まり込みで衣装づくりに勤しんだ。
「七海ちゃん、また猫背だよ」
「……私、癖になってて……」
「私も背が高い方だから気持ちは分かるけど……あ、そうそう! 亡くなったウチの母が使っていた姿勢矯正器があるのよ!社交ダンス用の! 使ってみる?」
実際に矯正器付けてみる事になり
「そう!後頭部を後路にくっ付けて首は鳴るだけ伸ばす、 この位置はアンダーバストで……
そう言えば“バストアップ”どうする? 他にも使う用があるなら、パッドと専用のブラ買うけど、そうでなければ着る感じのサポートインナーの方が『サフィルスター』のコスには合うか……」
「他に用なんてありませんから!! コスに一番合う物でお願いします」
「じゃあ、こちらで選んでおくね!」
リンはそう言いながら……
“姿勢矯正器の羽交い締め状態”のまま真っ赤になっている七海にウィンクして見せた。
--------------------------------------------------------------------
コスイベの当日
アーリーチケットで早々に会場入りした三人は更衣室へ直行した。
詩音とリンは実に要領よく着替えとメイクを済ませ、『美少女戦士リボンスターズ』に変身し、“お人形”状態の七海の世話を焼いた。
つまり、『デザートムーン』と『ルビーマーズ』がお姉さんキャラの『サフィルスター』を創り上げてる図だ。
各々のコスの完成度が高く、しかもその中心に有名レイヤーの詩音が居るのだから、他のレイヤーさんも思わずギャラリーとなってその様子に見とれてしまっていた。
「どうかな?」
詩音から渡されたナピュアミラーを覗き込んだ七海はリフトテープで大きくなった目を更に見開いた。
そこには全く別の“自分”が居た!!
『メイクは“ゴッドハンド”の詩音さんにすべてお任せしましょう! 当日のお楽しみという事で!! その方が七海ちゃんの気分も確実にアガるから!』
悪戯っぽいリンの「提案」は見事に当たった。
上気した七海を詩音はにこやかに見守っている。
「リフトテープ、痛くない?」
「大丈夫です!!」
「終わったらケアの方法もリンさんから教えてもらってね! さっ! 更衣室の待ち列も長くなってくる頃だから、私達は出ましょう」
--------------------------------------------------------------------
いつ来たのだろうか外には“思いっ切り普段着”の陸が待機していた。
「またいつもと同じ格好で!着る物、ちゃんと用意してあげたでしょ!」とリンがクレームをつけると
「牛丼屋のバイトにあんなチャライ服、着て行けないよ! こっちはバイト先から直行で来なきゃいけないんだから」と陸に言い返された。
でも、この陸の恰好を見て詩音は何か思いついた様だ。
陸が両手にキャリーバッグを引いてクロークへ向かうと七海に声を掛ける。
「ねっ! 予備のバッテリーを出し忘れたから、陸くんに言って出してもらえないかな?大丈夫! 中を見られても恥ずかしくないようにしてあるから。あと、独りの時は、声を掛けられても撮影はお断りしてね」
そうやって、七海を陸の元へ向かわせると詩音はカメラに望遠レンズをセットし、七海の姿を追った。
望遠レンズの中の七海は、カメラを提げた幾人かに声を掛けられ、丁寧に断りながら陸に声を掛けた様だ。振り向いた陸に駆け寄ろうとして……
履きなれないハイブーツに足がもつれ、危うく転びそうになって……陸が跪いて彼女を支えた。
「凄い!! 今、『神』の瞬間を捉えた」
「えっ?! 何?!」とリンも覗くデジタル一眼カメラのビューワーには<跪いた“少年”に女神の様な微笑みの『サフィルスター』の姿>が……
「確かに“神”だわ! 姉としては、ほんの少し妬けるけど……」
「これって『第27話』の“神シーン”まんまだよね! 『サフィルスター』である碧が密かに思いを寄せる大翔を救い出すシーン!! そこで大翔は『サフィルスター』が誰なのか気付いて……」
「何度観てもあのシーンは泣けるよね……」
「あの二人……“ガチ恋”じゃない?」
「どうだろ? お互い相手の気持ちには気付いてないかも……だから、しばらくはそっと見守ってあげたいかな。姉としては」
「そっか、じゃあ、この画像は後で……アプリで日付を悪戯して、別にしちゃうよ!」
--------------------------------------------------------------------
三人の“『美少女戦士リボンスターズ』ユニット”は途中からオフィシャルカメラマンのTHAXさんが付きっ切りになる程の反響だった。
その日の『お疲れ・反省会』の時に……
「七海ちゃん! 私のタブレットに入ってる今日の画像からお気に入りを3枚選んで見て」と言われてホルダーをタップしようとしたら、指の軌道がずれて隣のホルダーをタップした。
そこには画像が1枚しか無く、まるで今日と同じ様なシチュの二人……
陸くんと『サフィルスター』が写っていた。
陸くんは今日と同じ格好だけど……
『サフィルスター』は私など遠く及ばない美しい横顔を持つ女の人……
正面はメイクで作れるけど、横顔は作る事ができない!!
陸くんが必死になって私に『サフィルスター』をやらせようとしたのは……
この女性をすべての“ギャラリー”の目から守ろうとしたんだ!!
そうまでして守りたい大切な人なんだ!!
七海を覆っていた幸せのオーラが一気に色を変える。
「七海ちゃん!どうしたの?」
詩音から問われて七海は我に返る。
「あ、最近、小説を書くのをオサボリしていたから書かなきゃって思ってました……」
「えーっ!! 私も読者になりたい!!」
詩音の“ラブコール”を聞きながら、七海の頭の中は小説のバッドエンドに向かって走り始めていた。
つづく
うふふ!!
“自分の姿”に嫉妬してしまう女の子のお話を書いてみたかったのですよ!!(^_-)-☆
ここからしばらくは切ない展開となります(^^;)
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!