塔が建つ
塔が建つ、塔が建つ。
国に偉大な塔が建つ。
世界最大の塔だ。
その触れ込みに高まる国民の期待と熱量。
空き地に積み上げられる建築資材。
順々に組み立てられていくその様は春の芽吹きを見ているようだ。
しかし、順調とは言い難く、規模が規模なだけに人手ではいくらあっても足りない。
猫の手は借りられない。ニャー、と工事の音と振動で逃げ出す始末。
集まるのはどこから現れたかは知らぬ、建築反対の看板を掲げる者たち。
日照権! 日照権! と拳を突き上げ技名のように繰り返す。ライフゲージを削られ、疲弊するのは応対する警備員より現場作業員。
人手が足りずとも工期の遅れは許されない。
働き働き働き過労で死んだ。
またある者は怒鳴られ怒鳴られ自殺した。
それでも端から見れば塔は順調に背を伸ばしていく。
遠くから見た者は口々にこう言う。
立派ね。また大きくなったなぁ。
近くで見た者はこう言う。
ある部分の資材がいくつか足りない。それに粗悪な物が使われている。
見た者、報告相手が悪かった。
取り合うふりをされただけ。
見た者、死んだ。
建設途中の塔から真っ逆さま。
遠くでそれを知った者。自殺か事故かと思うだけ。テレビを眺め、腕を掻く。
近くでそれを知る者。殺されたんだと囁き合う。顔を伏せ、黙々と作業に戻る。
塔はその間も背を伸ばす。養分を吸い上げるように上へ上へ高く高く。
マスコットキャラクターが塔の前に立ち作業員を応援。
多数の公募と投票があったのにも関わらず採用されたのは不人気のキャラ。
可愛らしいのは外観だけ。内部はコネコネドロドロ。
マスメディアが報じるのは外側ばかり。塔の内部には立ち入らず。
映してはならない夢、企業秘密。
過労死。自殺者。過労死。自殺者。過労死。事故死。
病める者、辞める者。どこ吹く風よ。気にするものはなし。
国の事業だと高らかに言えば、入れ替わり立ち代わり、替えがきく。
頭を低くし、塔の内部に入るその姿は蟻か王への供物をささげる民か。
ついに塔は雲を裂く。
作業員に扮し、中に入った阿呆がはしゃいで落ちて死ぬ。
ちょっとした話題に。真似する莫迦が俺も私と中に入る。
警備員を増員するより手軽な対応。侵入禁止、罰金刑の文字。増えた看板。効果は今一つ。
夜中、はしゃいで騒いでついには、まぐわう。
割りを食うのは昼夜働く作業員。
怒鳴ると散るも蚊を手のひらで追い払うようなもので、また戻ってくる。
叩き潰さねばならぬ。掴み合いになり、双方落ちて死んだ。
争いは同じレベルの者しか起きないと、顔を隠した民が嘲笑う。
繰り返し同じことを並べる様は動物の鳴き声のよう。
場面転換、再び塔の前。
実際に鳴くのは建設反対の看板を掲げる者たち。
騒ぎ眉間に皺を寄せ唾を飛ばす。
時間が来れば交代。すんとした顔で家路につく。
賃金もあるため、応対する警備員よりかはいい仕事。
誰が何の目的か。それは塔の建設にも言えること。
集まった金は塔の資材と同様くり抜かれ、どこかへ消える。
うやむやふにゃふにゃ。やる気を出すだけ損だ、と士気が下がり、作業の効率がまた落ちる。
それを受け現場監督、怒鳴り続け、また誰か塔から落ちる。
塔は養分を吸い上げまた伸びる。
天を穿つ立派な塔だ。
見る者、上を指さしすごい、首が痛くなったと笑い合う。下に広がる乾き、薄くなった血の痕には目を向けず、自分だけは天国へ行けるとばかり考える馬鹿たち。
塔はやがて完成す。夜の闇の中聳え立つ。
上空吹く風で、たゆむその姿はまるで幽霊のよう。
見た者、塔の建設に携わった死者を想起し、巨大な墓標だと震えあがる。
なむなむ。合わせた手を擦り、今夜はよく冷えると背を丸め遠ざかる。
およそ一年での完成。
技術力を誇る、国の政治家。
塔の前で両手を広げ、たった今自分が作り上げたかのように振る舞うが、現場に足を運んだのはこれが初。
せっかく来たが、早くも立ち去りたい。
今日は生憎の曇り空。吹く風冷たい。
頭の中で今夜、愛人を抱くことを想像し、暖を取る。
現場に居合わせた者、口々に言う。
ああ、立派な塔だ。
拍手と笑顔。
無機質なテレビカメラのレンズ、その奥で大勢が見てる。
見た者、あの曇り空は神の機嫌を表していたと恐れる。
知る者、俺のせいではないと吠える。
居た者、悲鳴。
塔が揺らぐ揺らぐ。
風に煽られ大きく揺らぐ。
影が全てを呑みこむ。
桶屋が儲かる。
ただしこの場合、棺桶屋。




