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6

 ジャスティンは銃を撃ち続けながらアクセルを全開にし、巨大なハートに向かって迷わずジャスティンガーを突っ込ませた。ハートの盾はまっぷたつに上下にへし折れる。

「かかったわねっ」

 すももがにやりと笑う。

「な、なんだ、これはッ!」

 ぐにゃりとゴムのように曲がった巨大ハートが、ジャスティンガーを包み込む。

「く、くそッ!」

 ジャスティンは何度もアクセルを開く。しかしそのせいでタイヤの内部にまでハートの一部が巻き付き、ぴくりとも動けなくなってしまった。ジャスティンはバイクを降りようとしたが、ハートは強力な粘着剤でできているらしく、それらが甲冑を模したスーツにねばねばと粘り着き、動けない。見栄えは悪いけど、効果はすごい。

「見たかっ! 必殺の……えっと、ええっと……べったんこハートキャッチャーの力を!」

 すももが誇らしげに言った。……かっこわるっ。なんだ、そのネーミング。

「おのれ……おのれえッ! 待あてええええええええッ!」

 およそ正義の味方らしからぬ怨嗟に満ちた声で吠えるジャスティンを残し、僕らを乗せたリアタンクは戦いの場を後にした。

 戦車がもとのリムジンの姿に(トランクは大破しているが)戻ると、すももは運転を自動に切り替え、後部座席へ戻ってきた。僕と向かい合わせに座り、咳払いする。

「ええっと……その、驚かないで聞いてね。実はあたし……」

「リアライズ。……万能戦姫」

 びっくりしたすももは、大きな目をさらに見開いて、ぱちぱちさせた。くるりとカールしたまつ毛から星が飛ぶ。

「どうして分かったの?」

「いや、気づかない方がおかしいって。リアタンクに、リアバスター……」

「……知ってるの?」

「いや、まあ。知ってるというか、人並み程度には……」

「うれしいっ。さすがはじめちゃん、見てくれてたんだね、あたしの番組っ!」

 すももは僕の顔に腕を回し、抱きしめてきた。二つのあったかい小型エアバッグに左右から顔面をはさまれ、息が詰まる。あ。やわらかくて、いいにおい……。なんか、もう、このまま世界が終わればいいのに……意識が遠のいていく……。

「わ、わわっ! 息して、息っ!」

 すももは慌てて身体を離し、僕の顔を覗き込む。

「だいじょぶ? きつくしすぎちゃったかな。つい……」

「だ……大丈夫……」

「ほんとに? 顔、真っ赤だよ?」

「こ、これは、そういうんじゃないから」

 首を振る。もしあの状態で窒息していたなら、人生に悔いはない。僕が元気なのを確認したすももは「よかった」とはにかみ、顔を傾けた。

「……なんか、ほんとに嬉しいなっ」

 すももは僕の隣に座ると、身体をくっつけて寄り添った。両足をシートに乗せ、両手で膝を抱えた。

「みんな、リアライズはつまんない、つまんないって言うじゃない? ワイドショーとかでも視聴率が悪いとか、歴代最下位だとか言うし、ネットでもメチャクチャたたかれて。ストーリーが単調で面白くないとか、アクションがなってないとか、戦いが武器に頼り過ぎとか」

「へ、へえ……」

 辛口批評家の一人であった僕は、相づちを打つだけで精一杯だ。

「……あたし、ずっと悩んでたんだ」

 すももは目を伏せ、寂しげに笑う。

「誰も見てない、誰も期待してない、応援してくれてないなら、あたし、どうしてこんなに命がけで、一生懸命戦ってるんだろうって、いっつも思ってたの。意味があるのかなって」

「意味はあるさ」

 即答した。

「ヒーローがいないと、この星はあっという間に滅ぼされる。なんたって、一年ごとに違う敵に攻撃されたり、侵略の標的にされるんだから。みんな、それは分かってるんだ。だけど、ずっと長い間、ヒーローが守ってくれるのが当たり前になってるから、ありがたみを忘れてるんだ。それに……」

「……それに?」

「誰も応援してない、なんてことはない。僕は応援してる」

 少なくとも、今は。

「……てへへ」

 すももは微笑んで僕を見た。大きな目が涙でうるんでいる。

「やっぱ優しいね、はじめちゃんは。ふふふっ」

 鈴が鳴るように笑うすもも。

「つい、なんでも話しちゃうよ。あの頃と、ちっとも変わってない」

「……えっ?」

 まずい。完全に初対面だと思ってた。だ、誰だ? いつ会った? 

「えっ……。覚えて……ない?」


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