37(完)
「……なにを?」
「あたしが勝手にはじめちゃんのヒーロンを使っちゃったこと」
「なんで? ずっと無駄な能力だと思って来たけど、ああやって皆の役にたてたんだから、すももに使ってもらえて良かったよ。それに、あの力が古時計に物質化したおかげで、僕の意識は現実の世界に戻って来れた。だからこそ、こうしてすももと話をしたりできるわけで……」
「はじめちゃん……」
潤んだ目で僕を見つめてくるすもも。こ、これは、なんかいい感じに事が運びそうな気配じゃないか?
「すもも……」
そう思って、ごくりと喉を鳴らした矢先、部屋の襖ががらりと開いた。
「よくやった、一谷君」
現れた青葉理事長がそう言った。その後ろから、
「素晴らしい創造物だったわ、すもも」
そう言って顔をのぞかせたのは白峰女史だった。
「二人とも、どうして……」
「私たちは君たちの守護者だ」
「そう。中学生の男女を二人きりになんてできないわ。ね、一谷君」
「いや、まあ。はは……」
ウインクしてくる白峰女史に、僕は頭を掻いてごまかした。
『新たに空からの映像がつながっています。現場から中継です』
テレビからキャスターの言葉に続き、ヘリコプターの音が聞こえて来た。
『現場です! 私は今、巨大古時計の上空に来ています』
「えっ、空……?」
「どうしたの?」
「え、ううん。べつに……」
すももが急にそわそわし始めた。
『地上は依然、当局によって封鎖されたままですが、可能な限り空から近づき、現在の巨大古時計の状態をお伝えしようと思います』
レポーターの言葉通り、ヘリから撮影された巨大時計台の拡大映像が画面に映し出される。それを見て、青葉理事長が口を開く。
「みんなを守りたいという君の心と、君を助けたいというすももの心とが一つになった、素晴らしい創造物だ。おめでとう」
「本当によくやったわ。すもも、一谷君」
白峰女史がにっこり微笑む。なんとなく厳しい人かなと思ってたけど、あんなふうに笑うんだな。
『もう少し近づいてみます』
レポーターが言った。と、
「だめっ! テレビ消してっ!」
急にすももが立ち上がり、リモコンに手を伸ばした。懸命に電源ボタンをオフにしようと連打する。その焦りっぷりが半端ない。
「あ、そのリモコン、電池きれかけてたんだ」
「ええっ? ちょ、ちょっと、主電源はどこ? 主電源っ!」
ばたばたと立ち上がるすもも。テレビの裏側、壁の隙間に頭を突っ込む。プラグを引っこ抜くつもりらしい。家電に優しくない方法は、できれば避けたいところだ。
「そんなことしなくても。主電源なら、画面の下のパネルを押して開ければ……」
『……おや? 時計の天井部分に、何か文字が刻まれているようです』
リポーターが言うと、
「わーっ、見ちゃだめっ!」
画面に張り付く、すもも。
『あれは……なんでしょうか? 記号と、文字のようです。もうちょっと近づいてみます……あっ。相合い傘です! 記号は相合い傘のようです! 文字の方は……』
『文字も読めそうです。読み上げてみます! 相合い傘の左側には、す……も……も……すももと書かれています! そして右側には……』
「やめてえええっ!」
すももの声が響く中、
『右側には、ジャ……ン……ボ……ジャンボと書かれていますっ!』
……え? ジャ、ジャンボ?
「だから、だめだって言ったのにいっ!!」
真っ赤になり今にも泣き出しそうに叫ぶすもも。
「ちがうのよ、はじめちゃんっ!」
すももが僕の肩をがっしりと掴む。
「あれ、ヒネオがおもしろがって彫ったんだからねっ! あたしが好きなのは、ずっと、ずっと、はじめちゃんだけなんだからねっ!」
ふと我に返ったすももの顔が真っ赤に染まる。
「も、も、も……もう、いやあああああああっ!」
部屋を飛び出していくすももの後ろ姿を呆然と見送りながら、僕は強く願った。
どうか、この幸せが妄想でありませんように、と。




