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突然、目が覚めた。いつもの天井にぶら下がる、和風の照明。最近変えたばかりの畳のにおい。僕の部屋だ。なんだったんだ。今のは。あとがき? 晴野ちあめ、って誰だ?
「はじめちゃんっ!」
布団で横になった僕に覆いかぶさって来たのは、すももだった。
「よかった……あれからずっと目を覚まさないから、どうなっちゃうのかと思って……」
涙声で言うすもも。いや、ちょっと待てよ。妄想壁が解除されてる?
「だめだ! 爆弾が……」
「きゃっ」
僕はすももを脇へ押しのけ、立ち上がった。
「……大丈夫よ。ほら、見て」
尻餅をついたまま、すももはテレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。夕方のニュース番組が流れる。日付は変わっていない。
『相馬市に突然現れた謎の巨大古時計、続報です』
画面に映った女性キャスターが言った。
『本日未明、相馬市にある改築中の相馬タワー近辺に突如現れた謎の巨大古時計は、依然、時を刻むことのないまま、ただそこに存在し続けています』
画面が切り替わり、見覚えのある景色が映し出される。僕たちが戦っていた、あの場所だ。巨大爆弾があった場所をまるごと覆うように、巨大な古時計が出現していた。その時計盤には針がなく、振り子も動いていない。
『現場を封鎖した当局関係者によると、巨大古時計出現前後に現れた邪魔帝国エビルダークの飛行物体と何らかの関係があるものと見て警戒を強めており、調べを進める方針です』
「爆弾が……時計に?」
うなずく、すもも。
「あの後ね。はじめちゃんのヒーロンを現実化して、爆弾をすっぽり囲う古時計をつくったの。時計盤には針がついてないから、あの中の時間はずっと止まったまま……大きさ以外は、図書室のあの時計そのまま、傷一つまで全く同じものよ」
「……え? だって、すももはヒーロンがなくなって……」
「それがね」
すももは笑う。
「お兄ちゃんが力を貸してくれたの」
「えっ……だって、赤道先輩は……」
戦うことへの恐怖で引きこもっていたのではなかったのか? 戸惑う僕に、
「お兄ちゃんね、ヒーローでもないのに勇敢に悪に立ち向かうはじめちゃんの姿を見て、勇気を取り戻したんだって。ありがとうって」
ぺこりと頭を下げるすもも。
「僕は別に、何も……」
「今は初代リアライズとして、ジャスティンに代わってエビルダークと戦ってるわ」
「へえ。それじゃ、万事丸く収まったってことか」
「視聴率もすごくって。全部はじめちゃんのおかげよ。ほんとにありがと。だけど……」
言い淀んだすももは、うつむいて、肩を落とした。
「どうかした?」
「ごめんね。はじめちゃんの妄想壁は、あたしとお兄ちゃんがあの古時計の材料に使いきっちゃったから、たぶん、もう……」
「使えない?」
「……うん」
「そっかあ……」
普段の生活には支障を来すばかりの厄介な能力だったけど、なくなったとなると、ちょっと寂しい気もする。そんなことを考えていると、
「……怒らないの?」
すももが恐る恐る、といったふうに尋ねて来た。




