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白峰を抱きしめる、すもも。良かった。どうやらこれで、本当に一段落したらしい。
そう喜んだのも束の間、
『ふっふっふっふっ……』
不気味な含み笑いが頭上から降ってきた。拡声器を用いているのだろう、音が粗い。
「な、なにあれ……」
すももの言葉に導かれ見上げると、巨大な真っ黒の円盤が浮かんでいた。
『よくぞジャスティンを倒した。モーマの末裔、そして裏切りのヒーロー、リアライズよ』
「……誰だっ!」
『我が名はエビルキング。邪魔帝国エビルダークの王にして、この世界の支配者となる者!』
……またややこしいのが出て来た。ったく、せっかく落ち着いたと思ったのに。
「ふざけるなっ! あたしたちは悪じゃないっ!」
地団駄を踏み、すももが叫ぶ。あんな上空に、こっちの声が聞こえるのか?
『我らが眷属エビルボマーを倒したジャスティンを討った貴様らならば、我が帝国の将軍に迎えてやっても良いぞ。どうだ?』
聞こえたみたいだ。どっかにマイクでも仕込んであるのか?
「冗談も休み休み言いなさい! あたしたちは決して悪には堕ちない!」
『邪魔立てするならば、消滅させるまで。もろともに滅ぶが良い!』
「やれるものならやってみなさいっ。あたしたちは絶対に悪には屈しないっ! 転身っ!」
ポーズをとるすもも。ピンク色の閃光が迸ったが、それも一瞬。なにごともなく光は消え失せた。
「えっ、なんで……?」
「……たぶん、君のヒーロンが尽きたんだ。一時的に戦いで消耗したからかもしれないけど、番組が終わってからは君の力は急速に弱るって言ってたから……」
「もう転身できないかもしれないってこと?」
僕はうなずいた。こんな時、本来、頼みにすべきジャスティンは、僕たちがやっつけてしまっている。
「そんな……せめてあと一回だけでも転身できたら戦えるのにっ!」
涙目になって唇をかむ、すもも。
『死ねい、リアライズ! 究極悪魔的爆弾投下!!』
黒い円盤の底ふたが開き、笑っちゃうぐらい巨大な、潜水艦のような爆弾がずるずると落ちてくる。あんなのが爆発したら、僕らどころか、この町ごと吹っ飛んでしまう。爆弾の位置は、測ったように僕の、ぴったり真上だ。こんな偶然、あるんだろうか?
「……ああ、そうか」
唐突に理解した。
「……白峰をつれて逃げるんだ。すもも」
「ど、どうするつもり?」
「僕が止める。僕の、妄想壁で」
ぐんぐん近づいてくる巨大爆弾を見上げながら、僕は不思議に怖くなかった。
「む、無茶よ。逃げなきゃ……」
「だいじょぶ。みんなは僕が守るから」
「どうして? どうして、はじめちゃんなの? はじめちゃんはヒーローじゃないのに。きっと他に方法が……」
「これこそが、僕のやるべきことなんだよ。僕は……僕のヒーロンは、きっと、今、この時のために用意されていたんだ」
「そんな……」
「創造と破壊のゼロサムゲーム」
「な、なんの話?」
「青葉理事長が言ってたんだ。ヒーローの戦いは、最終的には創造と破壊が均衡するようにできているんだって……。結果だけ見れば、そうなのかもしれない。だけど、これは妄想や作り話なんかじゃない。現実なんだ。あれほどの爆弾が爆発したら、一体どうなる? 失われるものの重さ、悲しみの深さは計り知れない。それを補えるものなんか、きっとない。だから、それを阻止するために、この時、この場所に、僕がいるんだ。きっと、ずっと遠い昔から、そう決まっていたんだ」
「はじめちゃん……」
「守れる力があるのに守らないなんて、残酷すぎる。それこそが最悪だ。僕は……僕はヒーローにはなれないけど、絶対に悪にだけはなりたくない」
迫ってくる爆弾を見上げる。想像より何周りもでかい。お前が、僕に用意された敵ってわけだ。とはいえ、ただ落ちてくるだけだから、こっちは格好のつけようもないけど、ま、相手にとって不足はない。
「はじめちゃああああああんっ!」
やって来たスーパーファイブの皆さんに無理矢理連れて行かれるすももの泣き声が聞こえる。僕は今の決意が揺らがないよう、あえて振り返らず、肩越しに手を振る。
僕だって、君ともっと話したり、遊んだり、ここじゃちょっと言えないような色んなことをしたかった。でも、後悔はない。
気付いたから。人は、自分の役目を果たすことで、誰でもヒーローになれるんだと。
間近に迫った爆弾を前に、僕は両腕を広げた。
……さあ来い。この世界は、僕が守る!
精神を集中し、妄想を開始する。そして僕は、永久に目覚めない永遠のヒーローになった…
あとがき 晴野ちあめ
皆さんも一度はヒーローに憧れたことがあるのではないだろうか?
この物語は、どこにでもいそうな、しかしちょっとだけ変わった才能(この世界ではヒーロンと呼ばれる)を持つ少年が、ひょんなことからヒーローたちの戦いに巻き込まれ、その中で成長していく姿を描いたものである。
これでもかと押し寄せるヒロインのサービスシーンについては物議をかもすかもしれないが、私自身は童心に返り、非常に楽しんで描き進めることができた。ちなみに、私自身は自分のことを、ごくありふれた、普通の範囲の人間だと信じている。
物語に戻ろう。多彩なヒーローたち、悪役たちの持つ特殊能力や装備、必殺技が次々と放たれ、手に汗握る(?)バトルがいくつも繰り広げられる。基本的に二人のヒーローの戦いを描いた物語であるが、なんでもありな展開によって、どこかで見たことのある既存のヒーローたちによるバトルロワイアルを見ているような気分を味わっていただければ幸いだ。
物語が進むに従って、自らの力不足を嘆き、悩む主人公の様子に、私は今までの自分の姿を重ねずにはいられない。少しずつシリアスなシーンが増えていき、そして最後、クライマックスで物語は意外な結末を迎える。あとがきを先に読む派の諸兄のために言及は避けるが…………………………………………………………………………………………………




