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纏っていた甲冑が損壊し、ほぼ変身が解けた状態のジャスティンこと白峰涼は、おぼつかない足取りで地面に降り立つと、片膝をついた。かなりのダメージらしい。真っ白だったその制服も汚れ、大きく破れた胸元には……
「……え?」
さらしが巻かれた、二つの膨らみ。
「お、お前……女だったのか」
道理で、すももの裸体やコスプレに興味を示さなかった訳だ。驚いた僕を、白峰はきっと睨みつけ、
「女だから、なんだ! 貴様など、モーマのくせにッ!」
右腕に残った手甲を突き出すと、
「灼熱弾ッ!」
オレンジ色に燃え盛る火球を発射した。
「悪あがきね、涼ちゃんっ!」
リアライズが放った、小振りのべったんこハートキャッチャーが、火球を飲み込む。が、サイズが小さすぎた。火球で溶けた熱々のべったんこハートキャッチャーの欠片が、僕の肩口にぽとりと落ちる。
「あちっ、あちちちっ」
急いで上着を脱ぎ捨てた。どうせボロボロだったし、仕方ない。あーあ、シャツまで穴があいて千切れてる。
「も、モーマめ! 貴様、何をしているッ!」
頬を赤く染めた白峰が、狼狽して目をそらす。
「ひ、人前で服を脱ぐなど、なんと破廉恥なッ」
「……へ?」
「さっさと服を着ないか! ま、まさか、きさまッ! そういう……誰かに見せたいとかいう嗜好の持ち主か? こ、この変態めッ!」
「そういうことか……」
なるほど。絶対正義ジャスティンの倒し方が分かった。これはまさに一はだ脱ぐしかない。僕は僅かに残ったぼろ切れのようなシャツを脱ぎ捨てた。
「き、きさま……」
広げた両手で目を覆う白峰。僕はかまわず腰のベルトを引き抜き、地面にズボンを落とす。
「きゃあっ! ちょ、ちょっと、なにしてるの、はじめちゃん!?」
リアライズも驚いて顔を覆う。かまわず僕は最後の一枚、パンツを脱ぎ捨てると、
「うおおおおっ!」
雄叫びをあげながら、一糸まとわぬ姿で白峰に向かって駆け出した。
「な、なんだ? なにをするつもりだッ?」
白峰の完全直感の能力が、自身に迫る危機を知らせているのだろう。
「く……くるなッ、く……きゃあああああッ!」
白峰の指の隙間から覗いたアイスブルーの瞳が、僕の下半身をまともに見た。
「……ッ」
メデューサに睨まれたかのように硬直する白峰。と、その鼻から盛大に鼻血が噴出する。
「ぐはあッ……」
とてつもないダメージを受けた時のような声を発し、白峰は卒倒した。顔は湯上がった蛸のよう、目は渦巻き状態だ。僕は局部を手で隠しつつ、再び服を着た。さっきの解放感が癖になったら大変だ。
「……見て、はじめちゃん」
ようやく目を開けたリアライズに促され視線を落とすと、白峰の全身から黒い靄のようなものが立ち上り、太陽の光に溶けるようにして消えていくではないか。
「破壊神……」
暗黒皇帝ネロがやられた時と同じだ。あの時も、こんな靄が上がっていた。転身を解いたすももは、気を失った白峰を抱き起こし、ハンカチで鼻血を拭いてやっている。
「それにしても、まさか、女だったなんて……」
それなら、思春期真っ盛りの男子垂涎のシチュエーションに全く興味を示さないのも当然だ。
「……気づかなかったの?」
すももが不思議そうに首を傾げた。僕はのびたままの白峰を指差し、
「だって、その制服……男子生徒用だろ?」
「これ、番組用の衣装だもの。涼ちゃん美少年っぽいから、最初は男の子としてデビューした方がウケるだろうってことになったらしいわ。涼ちゃん、すごく強いんだけど、あたしと違って幼稚舎からずっと聖心女子だったから、男の子に免疫ないのよね」
「知ってたんなら、もっと早く教えてよ。そしたら、戦い方も変わってたのに」
「えっ、そうなの?」
うなずく僕に、すももは自分の頭に拳を当て、「ごめ〜ん」と照れ笑いする。
「ったく……」
僕が苦笑した時だった。
「う……うぐ……ぐ……」
白峰が身じろぎした。
「こ、ここは……どこだ? 私は一体、何を……」
「おかえり。涼ちゃん」
「……すもも……?」




