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僕は意識を失っていたらしい。気がついた時には、なまあたたかい、低反発クッションに全身を優しくサンドされていた。全部、夢だったのかもしれない。そう思いながら目を開けると、飛び込んで来たのは肌色のかたまりだった。すべすべしてて、やわらかい。
「……え?」
続いて、規則正しく響く、どきん、どきんという音。これは……心音?
「きゃっ! ちょ、動かないでっ。くすぐったいよおっ」
「……すもも?」
頭上ですももの声。肌色のクッションを左右に押し分け、這い上がる。ちょっと息苦しい。
「ぶはっ!」
外に出た。存分に吸える空気がうまい。
「なんだ、これ……」
むかし、展望台から眺めた景色を思い出す。高い場所。しかし、左右から僕を柔らかく押さえつけてくる肌色のかたまりは、いったいなんだ?
「気がついた? はじめちゃん」
降ってくる声に驚き、見上げれば、巨大なすももの顔が僕を見下ろしていた。
「す、すももっ?」
「うん」
うなずいたすももは嬉しそうに、ちょっぴり恥ずかしそうにはにかんだ。
「あたしたち、合体したんだよっ」
「ええっ?」
てことは、まさかこの肌色のクッションは……。
そう。あろうことか、僕は巨大すももの巨大な胸の双丘に挟まれていたのだ。しかも僕の頭部にはヘルメットが装着され、そこから伸びたコードが、すももの頭に貼り付けられた未来っぽい形の端子と接続されている。
「これで、あたしとはじめちゃんは一つになった。はじめちゃんが考えたことを、そのまますぐに現実化できるよっ」
すももは笑う。
「さあ、じゃんじゃん妄想してっ!」
「そ、そうは言われても、このシチュエーションじゃ……」
別のことを妄想しそうになる前に、
『どこまでもふざけたやつだッ!』
怒り心頭の声が降って来た。上空にグレートジャスタイタン。そうだ。ほかの妄想なんかしてる場合じゃない。よし!
「熾天三重翼セラフィムウイング!」
僕が唱えると同時に、すももの背中に三対六枚の翼が生まれ、左右に広がる。
「飛べ、すももっ!」
了解、の返事よりも早く、すももはその胸の谷間に僕を挟んだまま、空へと飛び上がった。は、はやいし怖いっ、でも、やらなきゃ。ここが踏ん張りどころだ。
「いくぞっ、すもも、エクスカリバー!」
「うんっ、てやああっ!」
気合い一閃、すももは僕のイメージ通りの速度と軌道でエクスカリバーを振るう、が、当然のようにグレートジャスタイタンは後退して避けた。
『どんな策を弄そうと、私には通じんッ!』
合体して妄想伝達に要する時間をゼロにしても、まだ通じないとは……。ジャスティンのヒーロン、完全直感を破るには、もっと突拍子もない、それでいてジャスティンに慣れる暇を与えない、強い想いを込めた、一発で勝負を決められるほど威力のある攻撃が必要だ。
もっと強い妄想、僕の一番の妄想……それはっ……。
巨大すももの身体を、白く輝くレオタードのようなものが覆う。紺色の大きな襟が肩を覆い、その下に通った赤いスカーフがV字型に開いた胸元の前で蝶結びになる。腰回りには紺色のプリーツ付きのミニスカートが装着、靴下は紺色のハイソックス、靴は白いスニーカーだ。
「いけない悪党とっちめる。制服戦士セーラープラム!」
セーラー服を着たすももが、両手でマグナム銃を構えた姿で言った。
「……はじめちゃん?」
セーラープラム、もとい、すももの目が、僕を白い目で見下ろしている。
「いや、ち、ちがっ、これはっ……セーラー服は永遠の憧れというか、いや、海軍って強くてかっこいいよね、っていうか」
僕が我ながら意味不明の言い訳をしていると、
『なにをするかと思えば、くだらんッ!』
拳を振り上げ突撃してくるグレートジャスタイタン。
「きゃっ!?」
グレートジャスタイタンの拳をすんでのところで避けるすもも。すれ違い様に巻き起こった突風がスカートの端をめくり上げる。小さい桃色のリボンがついた純白のパンツがちらりと覗く。きたきたっ! これぞまさに春風のいたずら……
「ぱんちらパンチっ!」
すもものクロスカウンターがグレートジャスタイタンの顔面を捉えた。ふっとぶグレートジャスタイタン。
『な、なんなんだその攻撃はッ』
「なんなのよ、これっ!?」
戸惑うジャスティンとすももの声。
「大丈夫、まかせて。これならいける!」
自信満々に言う僕を見下ろすすももの目が冷たい。
『燃やし尽くしてやる! 灼熱化!』
グレートジャスタイタンの追加装甲がオレンジ色に染まっていく。すさまじい熱量が押し寄せてくる。
「なにこれ。あっつう……」
すももが僕のいる胸元へ指を差し込み、風を入れた。その時、ちらりと見えたブラの影。これぞまさに幸運の賜物……
「ぶらちらキーックっ!」
すもものドロップキックがグレートジャスタイタンを蹴り飛ばす。
『お、おのれッ……ふざけた技を……』




