27
ジャスティンはうなずき、大剣を振り上げた。
「茶番は終わりだ」
万事休す。切り札を失った……と言うか、もともと切り札なんか持っていなかった僕に、なす術は残されてない。諦めかけた、その時。
「あぶないっ!」
叫んで横っ飛びに跳んできたリアライズに抱えられ、そのまま二人でごろごろと転がる。
「はじめちゃん、だいじょぶっ?」
言いながら、すぐに膝立ちになるすもも。変身が解けてしまっているが、両手を広げて僕をかばい、ジャスティンの前に立ちふさがってくれている。斬られたおかげでスリット入りになったスカートからは、太ももが全開でのぞいている。どころか、そのハート模様の桃色パンツまで……。こんな時だというのに、思春期真っ盛りで無尽蔵の僕の妄想力は留まるところを知らない。
「……あの時と、逆だね」
厳しい顔のまま、すももは少しだけ口角を上げた。
「あの時……?」
さっきの妄想と今の妄想がぴったりと重なる。この、ピンク色のハート柄パンツはっ……!
「すずのすけっ!?」
「今ごろ思い出したの? ひっどーいっ!」
「だ、だって君は……女の子じゃないか!」
いくらなんでもヒーローになったからって性別まで変化しないはずだ。戸惑う僕を、すももは少し眉根を寄せ、肩越しに振り返った。
「なにそれっ。あたし、ずっと女の子だもんっ」
「けど、すずのすけが着てた服も、背負ってたランドセルも、全部男子用だったよ?」
「し、仕方ないじゃない。あの頃はお父さんがすぐに仕事やめちゃうせいで、うち、めちゃくちゃ貧乏で。服とか学校で使う道具はほとんど、お兄ちゃんのお下がりだったんだもん。そのせいで、幼稚園の頃からオトコ女って言われたりしてさ。あげくの果てに、あかどうだから、すずのすけだとかわけ分かんないこと言われて、変なあだ名つけられて……」
そうか。すももの今の名字である桃ノ内は、母親の旧姓だ。両親が離婚する前は、桃ノ内じゃなくて、父親の姓、つまり赤道を名乗ってた。赤道は、あかどうとも読める。あかどう、すずのすけ。確か、すっごく古い漫画に、そういう名前の主人公がいる。
「下着とかは、さすがに自分用のを買ってもらってたの。ピンクのハートは、あたしのお守り。はじめちゃんが、あたしのために戦ってくれたあの日に身につけてた柄だから。あれ以来、なにかと戦う日はピンクのハートパンツって決めてるの……って、じろじろみちゃだめっ!」
僕の邪な視線に気づいたすももは足を閉じ、スリット部分を必死で押さえつける。そこへ、
「お遊びは終わりだと言っているッ!」
怒気も露なジャスティンの斬撃が迫る。
「ちょっと、あんたは黙っててっ。べったんこハートキャッチャーっ! べったんこべったんこべったんこべったんこ、べったんこハートキャッチャーーーっ!」
合計六個のピンクのハート形が矢継ぎ早にジャスティンを襲う。
「ちッ!」
ジャスティンは一つ目のハートを大剣で切り捨てたが、ハートは切れずに刀身に粘り着く。そこへ、飛んできたハートが次々とジャスティンのボディにくっついて自由を奪っていく。
「当たった……?」
今、ジャスティンは避けられなかった。完全直感を使えたはずなのに、だ。そういえば、バイクに乗っていたジャスティンに、初めてべったんこハートキャッチャーを繰り出したあの時も、ジャスティンは避けることができなかった。……なぜだ?
「おのれッ……燃え上がれ! 我が正義の炎よッ! 灼熱化!」
ジャスティンの甲冑がオレンジ色に変色し、煙が上がり始める。べったんこハートキャッチャーは、すぐにではないものの、じわじわと確実に溶けていく。
「こんなふざけたキワモノ攻撃が、この私に何度も通じると思うなッ!」
キワモノ……? そうか!
「分かったぞ、すずのすけ、じゃない、すももっ!」
「な、なに?」
「ジャスティンを倒す方法だよ! ジャスティンは完璧な現実主義者だ。だから、現実にあるものや、空想上のものでも良く知られているものによる攻撃に対しては、完璧な予測を導きだすことができる。だけど、現実にあり得ない、わけの分からない、筋道の通らない思いつきや空想の産物は想像ができない。想像できないものは、予測できない。予測できないから、かわせないんだ!」
「だから……?」
「ジャスティンを倒すには、意味不明の物体で無秩序に攻撃すればいい!」
「ど、どうやって? あたし、想像するのが苦手なの。だから、はじめちゃんに来てもらったんだもん」
「べったんこハートキャッチャーはできたんだ。他にもきっとできるさ!」
「あ、あれは、はじめちゃんを守らなきゃって思ったから、たまたま……偶然うまくいっただけだし……」
「その通り」
僕はうなずき、その場に座り込んだ。
「だから、僕はここで、君と一緒に……すももと一緒に戦う!」




