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背後で手を振るじーちゃんに手を振り返しながら、必死で自転車をこいだ。通用門で始業ベルを今か今かと待ち受ける生活指導の体育教師を華麗にかわし、自転車置き場へ向かう。なんとか間に合いそうだ。自転車を停め、鍵をつけていると、
「よお、一谷」
声をかけてきたのは、クラスメイトでサッカー部、小学校からの腐れ縁の山田だった。もう二年なのに、きちんと白いヘルメットをつけている。サッカー部の鉄の掟なんだとか。
「見た? 日曜のリアライズ」
リアライズ……?
「あ……ああ。録画で。今朝」
「のんきだなあ。テレビもネットも、この話題で持ち切りだっただろ? YAHOO!ニュースでもトップニュースだったぜ」
「そうなのか? 昨日ちょっと体調悪くて。一日中寝てたから」
「風邪?」
「ああ、まあ、そんな感じ」
実際は、久しぶりに妄想壁が強く発動したせいで、著しく体力を損耗していたのだが、この能力のことはさすがに親友の山田にも言うわけにはいかない。
「おいおい。うつさないでくれよ。もうすぐ、待ちに待った文化祭なんだから」
……? なんだ、この感じ……。
「……どうした?」
山田が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「なんでもない。ただ、なんか、こんなことが前にもあったような気がする」
「それって、デジャブって言うんだぜ」
「デジャブ?」
「既視感。初めてあったことなのに、以前に体験したことがあるような気がするのさ」
「知ってるよ。……なあ、山田」
「何だよ? 授業遅れるぞ」
「すずのすけは、どうしてるだろうな」
「元気でやってるさ、きっと」
「……なんでお前が、すずのすけのことを知ってるんだ?」
「なんでって、そりゃ……」
「これが妄想だからだ!」
突然、視界が粉々に壊れた。
ご名答。最後に聞こえた山田の声。黒い闇の中、長い距離を高速で落下していき、叩き付けられる。本来の肉体、あるべき現在の意識の中へ……………………………………………………
「うわあああっ!」
妄想壁が解除され、僕の意識は現実空間に舞い戻った。目の前には大剣を振り抜いた直後のジャスティン。あれから、ほとんど時間は経過していない。
「魔界からの使者だと……笑止。とんだ食わせ者だ」
周囲に散らばったネジや歯車、コードや電子基盤などを見下ろし、ジャスティンが呟く。エビルボマーの残骸。邪魔帝国の尖兵はロボットだったのか。
「しかし、生身のままであの爆発に耐えるとは……貴様のヒーロンは本物のようだ。強力なヒーロンは、より強力なヒーロンを生み出す可能性がある。つまり、より強力な悪を、だ。悪の芽は全て、この私が……絶対正義ジャスティンが打ち砕くッ!」
大剣を構えポーズを取るジャスティンに、
「君は忘れてしまったのか? ……いや、それは僕も同じ。君だけを責められないな。……すまない」
僕は頭を下げて謝罪した。恐怖心はない。あることを思い出したからだ。そしてこいつが、現状を打破する切り札になる。
「……なにをだ?」
「ずっと昔に君を守ったのが、この力だってことを」
「ふん。知らんな。私は常に戦い続けてきた。誰かを守ることはあっても、誰かに守られることなど……」
「絶対正義ジャスティン、白峰涼。いや、なつかしい昔の愛称で呼ぶよ。すずのすけっ!」
「……?」
驚いたみたいだ。ジャスティンは言葉を失っている。
「君の名前、涼は、涼しいって読める。だから、すずのすけって呼ばれてたんだろう? 隣のクラスだったから、本名は覚えてなかったけど……すずのすけは、君なんだろ? 白峰涼!」
記憶の中のすずのすけは、黒髪をおかっぱにして、瞳も普通の濃いめの茶色だった。見た目はかなり昔と変わっているけど、ヒーロンが発現した時に、著しく体格がよくなったり、声が通りやすくなったり、髪や瞳の色が変化したりするのはよくあることだ。
「……知らんな」
ジャスティンは肩をすくめた。
「思い出したくない過去なのは分かる。だけど、覚えてるだろ? 僕だ。はじめだ。放課後、二人で……あの図書室で、よく話をしたじゃないか!」
「さっきから何を言っている?」
「小学校だよ。相馬市立第三小学校の……」
「私はずっと私立だ」
「……へ?」
「私は幼稚舎から一貫して私立校だ。公立校に通ったことは一度もない」
それを聞いた瞬間、どっと汗が噴き出てきた。
「ち、ちがうの?」




