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 鼻息荒くにじり寄ってくるジャンボ。僕はすずのすけの手を握ったまま、きびすを返し、にやにやしているヒネオに向かって突進した。

「な、なんだよ、転校生! 向かってくるのか? ちびのくせに、生意気だぞ!」

 ちび? お前なんて、僕とあんまり変わらないくせに!

「や、やめろ! ぶつかるっ!」

 焦るヒネオに体まるごと思い切りぶつかって、ぶっ倒す。どうだ! ジャンボは無理でも、ヒネオなら僕でもなんとかできるんだ。

「逃げろ、すずのすけ!」

 ヒネオを床に押し付けたまま、僕は叫んだ。

「で、でも……」

 すずのすけは逡巡し、そして、

「はじめちゃんを置いていけないよお……」

 ぼろぼろと涙を流し始めた。そこへ、舌なめずりしながらジャンボが近づいていく。

「逃げるなよお。一緒に遊ぼうぜ」

「すずのすけっ!」

 立ち上がろうとしたが、ヒネオが腕を回して僕をつかみ、離さない。暴れても、だめだ。ヒネオの方が僕よりもちょっぴり身体が大きく、その分、力も強い。

「一谷。おまえも黙って見てろよ。ジャンボのお医者さんごっこは楽しいぜ」

 けたけたと笑うヒネオ。今にも泣きそうなくせに、ジャンボがいる時はひるまない。

「さあ、どこが痛いんですかあ?」

 はあ、はあと呼吸を荒げながら、ジャンボがすずのすけの胸ぐらをつかんだ。だんごっ鼻をすずのすけの顔に押し付ける。

「脱ぎ脱ぎしましょうねえ」

 猫なで声で言うと、ジャンボはすずのすけのTシャツを思い切り引っ張った。薄いTシャツが真ん中からまっ二つに引き裂かれてしまう。

「……だっせ。なんだ、これ」

 引きちぎった破片、そこにプリントされたスーパーファイブのイラストを見て、ジャンボが鼻で笑う。それを足下に投げ捨て、踏みにじる。すずのすけは声を上げて泣き出した。ジャンボはにやにやしながら、すずのすけの半ズボンに手を伸ばす。すずのすけも腰を引いて抵抗するが、強引に引っ張られてすぐにも破れそうだ。

「なんだ、おまえ。オトコのくせに、ピンクの水玉パンツなんかはきやがって」

「ちがうよ、ジャンボ。これ、ハート形だよ。だっせ」

 がっはっはと笑うジャンボにヒネオの甲高い笑い声が続く。

「やめろおっ!」

 僕は叫んで、暴れた。その拍子で、僕の後頭部がヒネオの鼻っ柱を直撃した。悲鳴を上げ、泣いてのたうち回るヒネオから飛び退いて立ち上がる。身体を丸め、雑巾みたいになった半ズボンを守るすずのすけに、ジャンボが覆いかぶさっている。

「……ふ、ふうう、な、なんだぁ、転校生?」

 ジャンボは興奮しきって真っ赤になった顔を上げた。

「オレに逆らうつもりか? 邪魔するなら、明日から、こいつの代わりにお前がオレのおもちゃ第1号だ。隣のクラスだからって、関係ないんだかんな!」

 握った大きな拳骨を僕に向けてくるジャンボ。……こ、こわい。助けるって決めたはずなのに。踏み出そうとした足が震えて、言うことを聞かない。僕にはジャンボをやっつけることも、すずのすけを助けることもできない。誰か助けてくれないだろうか? いや、そもそも、よくよく考えれば、すずのすけもジャンボも隣のクラスなわけで、僕には関係な……。

「はじめちゃんっ!」

 すずのすけが叫んだ。

「こっちはだいじょぶ。なんとかするから……逃げてっ!」

 すずのすけは僕に顔だけを向けて、笑っていた。自分があんなにピンチだっていうのに、すずのすけ、君ってやつは……。体の底から怒りが込み上げてくる。ジャンボにじゃない。クラスが違うことを理由に、助けることから逃げようとしていた自分が許せない。そんな逃げ方をするやつは、一生ヒーローになんか、なれやしない! 胸が熱くなり、足の震えが止まった。

「うわあああああっ!」

 僕は喚きながら飛び出した。どこかの誰かがやるんじゃない。自分が……この僕がやるんだ! 頭を低くしてジャンボに突進する。

「う、うおっ!?」

 まさか向かってくると思っていなかったのだろう、意表をつかれたジャンボは後ろ向けに倒れ、書棚にぶつかった。ばらばらと上から何冊か本が落ちる。いくつかはジャンボの頭や肩に命中した。

「いってえな……」

 怒りに歪んだ顔で、ジャンボは僕たちを見ながら「なんだよ……」と、恨めしげに口を開く。

「一緒に遊ぼうって言ってるだけだろ? なんで……」

「ふざけるなっ!」

 僕は怒鳴った。

「お前は遊びのつもりでやってても、やられる方は怖いんだよ! なんで、こんなことするんだよ。普通に遊べないのかよ! いっぺんお前も同じことされてみろよ!」

「馬鹿か? オレは強いんだ。だから、そんな目には遭わねえんだ。弱いおめえらが悪いんだ」

「力が強けりゃ、弱い相手には何をしてもいいのかよ!」


投稿時間の設定を間違えました。すみません。

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