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「大丈夫か、リアライズ! がんばれっ!」
がんばれ……? リアライズは……すももは、あんなにがんばってるじゃないか。僕は馬鹿か。これはテレビ番組じゃない。現実なんだ。負けるな。立ち上がれ。やっつけろ。必要なのは応援の言葉じゃない。……何か新しい武器を……って、ちがう。そんなんじゃない!
「さらばだ、リアライズ」
ジャスティンは散歩でもするかのようにのんびりと歩いていき、屋根に刺さっていた己の大剣を引き抜いた。そこで、ひと振り。刃が風を切る音。
「昔のよしみだ。せめて苦しまぬよう、一撃で首をはねてやる」
リアライズが……すももが殺される。そう思った僕は、無意識に立ち上がっていた。
……だけど、はしごから踏み出そうとした足が震えて言うことを聞かない。これは、ただの喧嘩じゃない。本物のヒーロー、超人同士の命をかけた決闘なんだ。そんな戦場で、僕なんかに何ができる? 僕にはジャスティンを倒すことも、リアライズを助けることもできない。せいぜい妄想するぐらいしか、妄想壁で自分を守るぐらいしか……。
『……はじめ、ちゃん……』
リアライズの弱々しい声。
『聞こえて……る……?』
僕は耳にイヤホンをねじ込み、応答する。
「ああ、聞こえてるよ!」
『あ、あたしは、だいじょぶだから……。はやく……逃げてっ……』
自分がこんなにピンチだっていうのに……。すもも、君って娘は……。
胸が熱くなり、足の震えが止まった。そうだ。向かう相手が強大だからって……何もできないから何もしないんじゃ、何も変えられない。あの時、そう決めたじゃないか。どこかの誰かがやるんじゃない。自分が……この僕がやるんだ!
はしごを駆け上がった僕は、倒れたままのリアライズの元へ走り寄ると、歩み寄ってくるジャスティンに向かって両手を広げた。面食らったふうのジャスティンを睨みつける。
「なんだ、貴様は? あのまま、こそこそ隠れていればよいものを」
ばれていたわけだ。僕のことなんか眼中にない。そういうことか。
「ジャスティン! 君は間違っている!」
指差し、言う。
「ほざけ。わき役ふぜいに何が分かる?」
「この世界に絶対に正しいやつなんて、存在しないんだ!」
「存在するのだ。この私を見ろ」
「君がそこまで自分の正義を信じる、その根拠は何なんだ?」
「愚問だな。私自身が正義なのだ。つまり、私が考え、行う全てのことが正義となるのだ」
「じゃあ、君が行うその正義は、いったい誰のためなんだ?」
「決まっている。この世界の人々、みんなのためだ。ヒーロン保有者を滅ぼせば、世界は生まれ変わる。悪の脅威は去り、平凡な人々が安心して、幸せに暮らせる世界が訪れる」
「……僕にもヒーロンがある」
「……なに?」
「たいした力じゃないけど、登録もしてる」
僕は自分のヒーロンのことを語った。
「ほう……妄想壁、か」
ジャスティンの雰囲気が変わった。どうやら「わき役」から「敵」に格上げされたらしい。
「分かっただろう? 僕には、世界を恐怖に陥れることも、世界を救うこともできない。君が言う『みんな』には、僕みたいな人間は含まれないというのか?」
「大勢の未来を救うためだ。多少の犠牲はやむをえん」
「何を犠牲にして、何を救うか。それを君が決めるのか?」
「当然だ。正義は私にあるのだから」
「まだ気付かないのか? 君の主張は、ヒーローの敵、悪の組織の主張と同じだってことを!」
「ふざけるな! あいつらなどと一緒にするな!」
「一緒なんだよ! 自分が絶対に正しいなんて言うやつが、正義のヒーローのわけがない! 自分が、いつだって、常に、百パーセント、絶対に正しいなんて考え方は、絶対に間違ってる。そんなやつは、まぎれもない『悪』だ!」
「だ、だまれッ!」
「この世に絶対に正しいことなんて何もない。でも、絶対に間違ってることはある。それは、自分が絶対に正しいって言うことだ!」
「だまれ……だまれえッ!」
ジャスティンは怒鳴り、大剣を構えた。
「妄想の一族……モーマの残党め。悪しき血を引くお前が正義を語るとは笑止千万!」
「……え?」
この僕がスーパーファイブを苦しめた宇宙侵略者ガイアースの総統、モーマの血族だって? 呆然とする僕の前で、
「この手で正義の裁きを下してくれるッ!」
大剣をふりかぶったままジャスティンが跳躍する。
「一刀両断ッ!」
「う……うわあああっ!」
迫り来る大剣を正視できず僕は頭を抱えてうずくまった。やめとけばよかったと後悔が……
「……?」




