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悲鳴を上げて倒れるリアライズ。蛸の墨は電気を帯びていたらしく、スタンガンを浴びせられたように硬直して動けない。蛸は巻き付いていた腕から離れると、時折放電しながらどこかへ行ってしまった。
くそっ、なんてことだ。自分の思いを誰かに正確に伝えることが、こんなに難しいなんて。
「放っておけば勝手に自滅しそうだが……」
呆れた声でジャスティンは言う。
『……は、はじめちゃん……つ、次を……』
すももの絞り出した声が聞こえてくる。
「ちょっ……大丈夫? やっぱり逃げた方がいいって。空へ飛んでしまえばこっちのものだ。昨日考えた、熾天三重翼セラフィムウイングはマッハウイングの三倍の速度が……」
『だ、だめ。あいつ、あたしをここで……ここで討ち取るつもりだもの……次回には続かない』
その言葉通り、ジャスティンは大剣を最上段に振りかぶった。
「貴様もヒーローのはしくれ。最期は私の手にかかり、華々しく散るがいいッ!」
雄叫びを上げて迫るジャスティン。あんなものまともに受けたら、ボディスーツごと身体をバラバラにされてしまう!
『伝説のアーサー王が岩より引き抜きし聖剣、それ自体が意志を持ち、自ら敵を攻撃、防御する。超絶聖王剣エクスカリバー!』
『い、いでよっ、エクスカリバー!』
リアライズの体全体が白く輝き、そこから結晶のように溢れた光の粒が集まっていく。作り出されたのは、身の丈ほどもある巨大な剣。それがひとりでに翻り、ジャスティンの斬撃を跳ね返した。
「ば、馬鹿な!」
再び後退し、距離を取ったジャスティンは、
「その聖剣を、なぜ、貴様が……」
ぎり、と歯噛みした。
超絶聖王剣エクスカリバー。ジャスティンの大剣を超える、巨大な剣。氷のように透明な刃。プラチナ製の柄には金色で蔦の文様が施され、中央にはアーサー王の生家ペンドラゴンの紋章が象嵌された大振りの真紅のルビーがあしらわれている。全体に薄く燐光をまとっているところまで、まさに僕のイメージ通りの剣だ。
「その伝説の聖剣は……絶対正義であるこの私にこそ相応しいッ!」
自らの愛剣を足下に突き刺し、素手で突撃してきたジャスティンに、エクスカリバーはひとりでに反応、空中でひらりと刀身を翻し、伸びてきたジャスティンの手を逃れた。
「うおっ!?」
たたらを踏んだジャスティンの尻を、その幅広の峰がぴしりとたたく。
「うがっ、なっ……なにをする!」
尻を押さえて振り返ったジャスティンの喉元に、エクスカリバーの切っ先がぴたりと当てられる。
「……私では役不足……そういうことか?」
ジャスティンの独言に、剣であるエクスカリバーは答えない。ただ静かにジャスティンから離れ、リアライズの手に戻っていく。
「私よりそいつを……リアライズを選ぶというのだな!」
ジャスティンは自身の大剣を引き抜くと、怨嗟の声を上げて倒れたままのリアライズに襲いかかった。と、エクスカリバーの燐光がリアライズに伝わり、電撃による麻痺状態からまだ回復しきっていないその身を不自然な体勢のまま立ち上がらせた。
「剣の傀儡となって戦うとは、なんと無様な! 今すぐ引導を渡してやるッ!」
ジャスティンの袈裟斬りを、エクスカリバーはわずかに寝かせた刃で防ぎ、逆らうことなく受け流す。
「こしゃくなッ!」
返す刀で跳ね上げたジャスティンのツバメ返し。その小手先へ、エクスカリバーはふわりとその刀身をかぶせた。斬撃の勢いをそのままに、柄元でスナップを利かせ回転させる。ジャスティンの手からもぎ取られた大剣は、くるくると宙を舞い、足下の屋根に深々と突き刺さった。
「くっ……ッ」
伝説の聖剣を前に、軽くあしらわれるジャスティン。
『……ありがと、エクスカリバー。もう、だいじょぶよ』
電撃のダメージから回復したリアライズがエクスカリバーを正眼に構え直す。
『これ以上、好きにはさせないんだからっ……。いくわよっ!』
エクスカリバーを振りかぶったリアライズがジャスティンを急襲、怒濤の連続攻撃を浴びせる……が、一つとしてその刃がジャスティンに命中することはない。完全直感。ジャスティンの最強たる所以。
「どうした? そんな腕では聖剣も宝の持ち腐れだな」
からかうジャスティンに、リアライズは無言で攻撃を続ける。そうだ。手を休めないこと、攻撃は最大の防御になる。
「……お遊びは終わりだ!」
エクスカリバーの横薙ぎをしゃがんでかわしたジャスティンは、リアライズの懐深くに潜り込み、全身を跳ね上げ掌底を放つ。攻撃は見事なほど完璧に顎を捉え、小柄なリアライズは文字通り宙を舞った。落下と同時に後頭部をまともに打ち付け、ぐったりとするリアライズ。精神集中が途切れたせいか、エクスカリバーも消滅している。
『う……う……』
イヤホンからリアライズの苦悶の声が聞こえてくる。




