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イヤホンからは弱々しい声が返ってきた。うつぶせのまま、リアライズは腕を立て、なんとか立ち上がろうとする。
「今はいったん退却するんだ! もっと準備を整えてから……」
『だ、だいじょぶっ。まだ……戦えるっ』
「無理しちゃ駄目だ!」
『ジャスティンはどんどん強くなってる。なのに、あたしはどんどん弱くなっていく。後回しにすればするほど、あたしはジャスティンに勝てなくなる。そんな気がするの。だからっ……』
膝立ちになるリアライズ。その背後からジャスティンがゆっくりと迫ってくる。
『だから、はじめちゃん。あたしに力を……力を貸してっ!』
「そ、そう言われても……」
あたりを見渡す。青葉理事長は恐怖で腰の抜けた桃ノ内さんに抱きつかれ、身動きできない。吹っ飛ばされた赤道さんとテルさんは姿さえ見えない。完全に作戦失敗だ。しかし、
『はじめちゃん!』
リアライズは少しふらつきながらも立ち上がり、
『今こそ、HCの力をっ!』
ジャスティンに向き直る。仕方ない。こうなったら出たとこ勝負だ。赤道さんも言ってたじゃないか。やるべき時に、やるしかない。
「分かった。僕が言うことを思い描くんだ。できるかい?」
『うん!』
「よし。じゃあ、真っ赤なグローブを思い浮かべて」
うなずくリアライズ。
「手の甲には龍の頭部が備え付けられている。君が拳を打ち出すと、開いた龍の口から全てを焼き尽くす火焔弾が発射される。その名も爆龍火焔砲ドラゴンキャノン!」
『……オッケー。いくわよっ……リアライズっ!』
リアライズの右腕が赤い閃光に包まれる。キュピーン、というどこかで聞いたことがあるような効果音が鳴った。
『爆龍火焔砲』
リアライズがジャスティンに向けて右ストレートを放つ。右腕に装着された龍の……
「……青葉理事長?」
リアライズの右腕にくっついているのは、青葉理事長をデフォルメした、UFOキャッチャーの景品のぬいぐるみのごとき物体だった。その口が腹話術のパペットのようにぱかんと開き、ぽっ、と百円ライターのような小さな火が灯った。
「……なに、それ?」
『だ、だって、はじめちゃん、りゅうって言ったじゃない』
「へ?」
『青葉流。流れるって書いて、りゅう』
「なんだよ、それ? 知らないの? 龍だよ、龍。伝説の生き物。胴が長くて、馬みたいな顔で、空を飛んで。ほら、ドラゴンだよ、ドラゴン! ゲームとか……絵本によく登場するだろ? 火を噴くドラゴン! そんなライターみたいな火じゃなくて、でっかい炎の固まりを吹き付けてくるやつ!」
『どらごんは知らないけど、青葉さんって昔はすっごいヘビースモーカーだったんだよね……って、あ、あちちっ!』
青葉ぬいぐるみが燃えている。開いた上あごに火が燃え移ったのだ。リアライズは慌ててそれを剥ぎ取り、投げ捨てた。
「……終わったか?」
ジャスティンが言う。
『ちょ、ちょっと待って!』
「待たねばならぬ理由など、こちらにはないッ」
大剣をふりかぶったジャスティンが地を蹴って、一気に距離をつめた。下がるリアライズ。
『は、はじめちゃん! 次! 次!』
「よ、よし。それなら、防御の盾にしよう!」
『お願いっ! わ、わっ!』
リアライズは後ろに下がりながら、ジャスティンの苛烈な剣撃をかいくぐる。
「カイトシールド。身を隠せるほど巨大な凧型の盾。その中央には伝説の雷獣ヌエが封印されていて、盾に触れたもの全てに裁きの電撃を与える。その名も、轟雷魔獣盾ライトニングシールド!」
『了解! リ、リアライズっ!』
リアライズの左腕に黄金の閃光が迸る。
「……むっ!?」
危険を察したジャスティンは後方へ跳躍し、距離を取った。ふっ、その選択は間違ってないぞ。見ろ。リアライズの手には、雷獣の怒りがこめられた凧形のシールドが……
「……たこ?」
現れたのは、蛸だった。しかも、生きてる。八本の足をぐねぐねと動かし、リアライズの左腕に吸盤でしっかりと巻き付いている。
『いっやあああああっ!』
振りほどこうと腕を振り回すと、怒った蛸はリアライズに向かって墨を吐きかけた。
『きゃっ……!』




