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 青葉理事長が静かに言うと、白峰女史の啜り泣く声が聞こえてきた。

「私から、もっと早く尋ねるべきだったんだ。迷っているうちに、いつのまにかこんなに時間が経ってしまった。許してくれ」

「流。あなたは悪くない。悪いのは、あの女に……モモにレッドを奪われたあの日、あなたに縋りついた私の責任なんだから……」

「……いや。君が私の前を去ると……親が決めた婿養子を取ると言い出した時に、引き止めるべきだったんだ。クールぶってないで、なりふり構わず、無様に泣いて縋れば良かったんだ。自分の本当の気持ちに、素直になって」

「えっ……本当の気持ちって……?」

 白峰女史が言いかけた時だった。車のドアが開き、ばたばたと駆けてくる足音がする。

「たいへんだっ! テレビ、テレビ!」

 話し合いには参加せず、車で見張りをしていた赤道さんの場違いな大声で、張りつめていた緊張の糸が切れた。

「携帯じゃ受信状態が良くない。店のテレビは使えるか?」

 聞かれたテルさんは、しばらく答えなかった。

「おい、テル! なにボーッとしてんだよ!」

 苛立った赤道さんが声を荒げた。

「あ、ああ。すんまへんな。テレビやな。テレビは見られるで。BSはまだ映らんけど」

「地上波でいい。全チャンネル同じだ。急げ」

 大人たちが店に戻ってくる。

「わ、わたたた、たいへんっ」

 すももは僕の上から飛び降りると、急いで自分の寝袋に飛び込んだ。

「二人とも、起きろ」

 スイッチ音と同時に、照明に明かりが灯る。まぶしさに目を瞬いていると、テレビからアナウンサーの声が流れてきた。画面には朝もやの中、慌てながらも懸命に報道するアナウンサーの姿があった。

『……の出来事に、現場は騒然としております。一般女性を人質に取ったヒーロー、絶対正義ジャスティンは……』

『人質ではないッ!』

 白峰涼の声。画面が激しく煽り、相馬市のシンボル相馬タワー、その展望台の屋根の上で、白いマフラーを風になびかせるジャスティンの姿を捉えた。その脇に抱えられている妙齢の女性は……

「お母さん!?」

 すももは文字通り画面に飛びついた。

『この女は、悪を根絶すると決めた私に逆らう愚かな前ヒーロー、悪に染まりし万能戦姫リアライズの母親だ』

 現場がさらに騒然とする。

「勝手なことばっかりっ……!」

 すももは涙目になりながら、くやしげに唇をかむ。

『この女に危害は加えん。悪を産み落とした張本人だが、この女が意図したものではないからだ。しかし、その娘であるリアライズは絶対正義にして今期のヒーローであるこの私に、正面切って対抗している。それを見過ごすわけにはいかん! 見ているか? リアライズ! 今日の正午、この場所で貴様を待つ! 貴様が現れなければ、この女には卑怯な貴様を産み出した罪を、その身をもって償ってもらうことになるだろう!』

 ジャスティンは抱えていたすももの母親の襟元をつかみ、片手で空中に宙づりにした。悲鳴を上げるすももの母親を、現場に駆けつけた無数のカメラが撮影する。

『なんと、ジャスティンの行動には我々の思いが及ばぬほど深く、正しい思惑があったのです。さすがは我らのヒーローですっ!』

 アナウンサーが興奮して叫ぶ。

『さあ、果たして悪に身を堕としたリアライズは挑戦を受け、この場に現れるのでしょうか?』

「なんなんだ、これ……?」

 思わず呟いていた。こんな無法な真似が、今のジャスティンには許されるというのか? そんなのおかしい。おかしすぎる。こんなの正義じゃない。こんなヒーロー、僕は絶対認めない。

「……あたし、行く」

 テレビ画面を睨みつけたまま、すももが言った。握った拳が震えている。

「待て、すもも。今のお前の力では、まだジャスティンに……涼には敵わん」

「お母さんにあんなことされて、黙ってなんかいられないっ!」

 今すぐにも転身して飛んでいきそうなすももを大人たちが宥めるが、すももは聞く耳を持たない。

「……分かった」

 一触即発の雰囲気の中、青葉理事長はため息まじりに言った。

「我々も一緒に行こう。みんなで力を合わせて、桃ノ内を救い出すんだ」

 全員揃って、うなずいた。

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