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「あの……すももは?」

「わしと一緒に見張ってたレッドはんと一緒にコンビニや」

「赤道さんって、すもものお父さん……なんですよね」

「そうや。ひさしぶりの親子水入らずってわけや。けど、あんまりそのへんの話はせんとき」

「なんでですか?」

「大人にはそれぞれ、事情ってもんがあるんや。そやから……」

 厨房でビールの缶をあける音。

「やってらんないわ!」

 白峰女史の金切り声が響く。

「……な?」

 そう言うと、テルさんは黙って小脇に挟んできた週刊誌をめくり始めた。静かになった、かと思いきや、またまた店のドアが開いた。今度は何だ? 何が起きる?

「ふぁだひま……」

 顔面を痣だらけにされた赤道さんが姿を見せた。さっき白峰女史にやられたんだろう。絵に描いたようにコテンパンにされている。見た目の第一印象と違って、白峰女史も結構激しい性格なんだな。

「はじめちゃん、買ってきたよっ!」

 コンビニ弁当を手に帰還したすももを見て、僕は心底、ほっとした。大人のごたごたを目の当たりにした後だと、ヒーローと言えど同い年のすももが、とても近しく感じられた。


 用意されていた寝袋にくるまり、それぞれ四人がけの席のソファーで横になった。ちょっと肌寒い。エアコンは明日ぐらいから使えるらしいから、それまでは我慢だ。眠くなるまで、と思い、リアライズの強化装備や新必殺技をあれやこれやと考えてみるが、これは! ってものが思いつかない。何もかもがはじめての経験なのもあるが……何よりも、だ。健康な男子中学生である僕が、一つ屋根の下で可愛い女子と雑魚寝するなんてシチュエーションで、すやすや眠れるはずがない…………………………………………………………………………………………あ……ふれ…………………………お…………な、た……………………………………い……………………ぎゅ………………………………………か………………………にしちゃ、だめだ!!!

 うおっ! 危ない、危ない。解除された妄想壁から悶々としたまま現実に戻る。窓の外はうっすら明るい。朝が近いようだ。

「……だめ」

 目の前に、覆いかぶさってるすももの姿。

「なっ、なにして……」

 すももは自分の唇に指を当て「しっ」と声を潜めた。その吐息が鼻にかかるほど、顔が近い。一瞬、まだ妄想の続きかと疑ったが、違う。すももが着ているハート模様のパジャマは、妄想内ではとっくに脱いだ後だった。これは、現実だ。

「このまま寝てるふりしてて。あたしたちが眠ってると思って、みんな、外に出て話をしてるの。こうやって窓に耳をあててると、聞こえるから……お願い」

 言われるがままにうなずく。身体はガチガチに硬直し、顔からは汗が滴り落ちる。妄想ではモテモテで女泣かせの僕だが、現実での経験はゼロ。こんな時こそ、いっそ妄想壁が発動すりゃいいのに、発動する気配さえない。ほんとに使えない能力だ。

「……どういうことだ?」

 青葉理事長の声は静かだが、厳しい。

「あの女の言う通り、全部、私の責任よ……」

「そんなことあらへん。子供や言うても、涼はもう中二や。自分で考えて、自分で結論を出して、行動しとるんや。そら、ええことしとるわけやないけど……」

 落ち込む白峰女史をテルさんが宥めているようだ。

「あの子には……涼には、強く正しく生きなさいと教えてきたわ。悪は許すな、そして、たとえ相手が悪であろうとも、正々堂々と戦って討ち倒せって。あの子はそれを実践していた」

「そうや。涼はええ子や」

「きっと、あの子は感じ取ってたと思うの。白峰家に代々伝わる飛翔のヒーロンが発現しないあの子に、私が内心、焦っていたのを。あの子にヒーロンが……完全直感パーフェクトセンスが発現した日、めったに見せない満面の笑顔で私に報告してくれたのに、私はなぜか、ショックで何も言えなかった。良かったねって、ただ本当の気持ちを素直に言ってあげるだけで良かったのに。ヒーロンがなんであっても、あなたは私の最愛の子よって」

「だが、だからと言って涼が、ヒーロ全てを滅ぼそうとするか?」

「だってそれは……それが、私の願いなのかもしれないから」

「……なんだって?」

「私は、気付いてたのかもしれない。涼が、ヒーロー全てを滅ぼそうとしていることを。知っていて、それを止めなかったのは、私がそれを望んだからかも。もしかしたら、私があの子がそうするように仕向けて……」

「考え過ぎだ」

「あの子は……涼は、あなたの子よ」

 ……?

「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?……ふがっ」

「しずかにっ!」

 すももの手が僕の口をふさぐ。

「……やっぱり、そうだったんだな」


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