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「君の家には、後で私が事情を説明しにいこう。まあ、ジャスティンが手出しをしようにも、君の家には、あの終兵衛氏がいるから問題ないだろうがね」
「じいちゃんが、なんで?」
「君は、何も知らないのか?」
どういうことだ? 僕の表情を眺め、青葉理事長は少し困った顔をした。
「となると……うむ、口を滑らせたようだ。知らないのなら、いいんだ」
「気になるじゃないですか」
「帰ったら、君が直接、終兵衛氏から……お祖父さんから話を聞きなさい。むろん、何をどう語るかは、当人が決めることだが……」
物音に気付いた青葉理事長が振り返ると同時に、ドアが勢いよく開いた。
「ブルーはん……」
現れたテルさんは、弱り切った顔で頭を下げた。
「ほんま、すんまへんっ!」
「やっほーいっ!」
酒焼けしたハスキーボイスで陽気に挨拶したのは、いかにも夜の蝶といった感じの。ケバい化粧と派手な服装の女だった。
「すっももお! むっかえに来ったよおっ……て、あれ? すももはどこ?」
きょろきょろと周囲を見回してから、女はちょっと困り顔で首を傾げる。
「タクシーで常連のお客さんが待ってるのよねえ……。あら、青葉くん。ひさしぶり」
「元気そうで何よりだ。桃ノ内」
「やだあ、相変わらずお堅いのね。モモ、でいいってば。さっきタクシーで前を通りがかったら、ばったりテルちゃんに会っちゃって! 車とびおりて、ひさしぶり〜なんて言ってたら、なんかまた大変なことになってるとか聞いちゃって」
「テル……」
青葉理事長ににらまれたテルさんは「すんまへん……」と、大きな身体を縮めた。
「あ。ちょうどいいわ。青葉くん。あたし、これからお店なの。同伴出勤の前に、すももを先に家まで送ってもらおうと思ったんだけど、あんまり待たせちゃお客さんに悪いから、やっぱ先に行くわ。すももには、そう言っといて。じゃあねえ〜」
そう一人でまくしたてドアへ向かったところで、戻ってきた白峰女史と鉢合わせになった。
「……ここは部外者は立入禁止だと思ってたけど?」
「やだ、雄子ったら。あいかわらず勇ましいわね。ただでさえバツイチ子持ちなんだから。そんな仏頂面してちゃ、も、て、な、い、ぞっ!」
「お互い様でしょっ! とにかく、出て行きなさいよ!」
にらみ合う二人の女。
「あたしは、すももの母親よ。そのあたしが、なんで部外者なのよ」
「部外者よ。あなたはスーパーファイブじゃない。ただ単にモーマに目を付けられて、しょっちゅう誘拐されたり、人質にされたりしただけの、ただの足手まといな一般人。何のヒーロンも持ってない、どこにでもいる、普通のスナックのママよ」
「ちょっと! スナックを馬鹿にしてるわけ? 一般人をなめんじゃないわよっ」
「スナックを馬鹿にもしてないし、一般人をなめてもいないわ。私は、あなたに言ってるの。すももの母親を名乗るなら、母親らしくしろって」
「あんたに関係ないでしょ! あたしはあたしなりに、一所懸命やってるんだからっ! テルから涼のこと聞いたわよ! あんな子を育てといて、よくも偉そうに……」
「なんですって? もう一回言ってごらんなさい!」
「あら、聞こえちゃった? ああいう子が、家でこっそり爆弾作ってたりするのよね」
「取り消しなさい! 今すぐに!」
つかみ合いが始まりそうになったところで、
「もうよせ! 二人とも!」
青葉理事長が声を荒げ、割って入った。
「桃ノ内! ここは秘密基地だ。我々と縁深いお前と言えど、立入りは認めない!」
「なにさ! あんたらだって、もうろくな能力残ってないくせに、いつまでもヒーローぶってんじゃないわよっ! あーはいはい。出て行けばいいんでしょ? 出て行けばっ!」
くるりと背を向け、女は荒々しくヒールの音をたてながら店を出て行った。白峰女史は反対方向のキッチンへ向かう。
あの女性が、すももの母親……? にしては、なんとも激しい女性だ。僕の心情を察したのか、青葉理事長が口を開く。
「桃ノ内だって、昔は可愛くて気だての良い、優しい女の子だったんだ。ちょうど、今のすももみたいにね。だが、赤道と別れて女手一つですももを育てだしてからは……」
「えっ!? 赤道さんと、すもものお母さんって、結婚してたんですか?」
「……また余計なことを喋ってしまったようだ。お前のことばかり責められんな」
青葉理事長はそう自嘲し、テルさんの小さくなった肩を親しげに叩いた。
「外を見張ってたら、モモはんに見つかってしもうて……」
テルさんは頭をかいた。
「見張りは私が代わろう。お前は社長業に戻ってくれて構わない。いろいろ忙しいんだろう?」
「おかげさんで。そやけど今は世界の一大事や。どんな仕事より、こっちを先に片付けんとな」
「助かる。だがとにかく、ひとまず休んでくれ」
言って、青葉理事長は店を出て行った。ふう、と息をつき、テルさんは近くの椅子に腰掛けた。体重が重いので、椅子がみしりと鳴る。




