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昼食のカレー(僕は普通の辛さ、すももは三倍にした)をごちそうになりながら、僕は自分に課せられた役割を知った。リアライズの強化と言われたが、正確に言えば、リアライズの「装備」の強化だ。リアライズにはすでにΩフォームという究極形態があるが、それをもってしても、あのジャスティンには全く通用しなかったらしい。番組放映期のヒーローには、全てにおいて通常の三倍のポテンシャルが付与されるのだそうだ。
そこで、新たな装備が要求されているわけだが、すももとスーパーファイブの皆さんでは、残念ながらΩフォーム以上の強力な装備は生み出せなかったらしい。リアライズのヒーロン「現実化」は、自分が想像したものを実体化すること。ヒーローものを知り尽くした僕なら、最新にして最高の最強装備を生み出せる可能性が高いというわけだ。
そんな小難しいことは抜きにして、ヒーローをこの手でカスタマイズできるなんて、なんて素敵なんだろう。しかも、誰もいなくなった店内に、二人っきりで。
「……今まで誰にも見せたことがないの」
すももは制服の上着を脱ぐと、恥じらいで頬を染めながら、背を向けた。足下に上着が落ちる。少し、震えているようにも見える。
「恥ずかしいから、あんまり見ないで……」
「なにも恥ずかしがることないよ。すももは、すももの本当の姿になるだけなんだから」
余裕を見せようと、そうは言ってみたものの、僕だって初めての体験だ。心臓はどきどきと高鳴り、今にも爆発しそうだ。
「電気、消してほしい……」
もじもじしながら言うその後ろ姿に、僕も興奮を押さえきれない。
「だめだよ、そんなの。僕は、君の全てを知りたいんだ。いや、知らなきゃならない」
「……いじわるっ」
すねて唇を尖らせる、すもも。
「ほら、がんばって」
「……じゃあ、いくね」
覚悟を決めたすももは、深呼吸してから、両手を大きく左右に広げた。手のひらは右が下向き、左が上向きだ。
「転っ!」
肩を中心に、のばした両腕を時計回りに回転させる。左腕が二時、右腕が八時方向に向いた瞬間、両手を胸の前に引き寄せ、くるりと手首を返し、人差し指だけをたてて両手を組み合わせた。術を使う忍者のようなポーズ。すももはそのまま一旦身を屈め、
「身っ!」
大声で叫びながら、勢い良く重ねた指を天高く突き上げた。
「これが……リアライズの転身シーンか……」
リアライズの視聴者で、これを見たのは僕が初めてだろう。マニアの間でも話題になり、様々な説が実しやかにささやかれたが、まさかこの目で見られる日が来るなんて。圧倒的な優越感に浸りつつ見ていると、鮮やかなピンク色の光がすももを包みこんだ。光はショッキングピンクのゲルとなり、胸の前で握った両こぶしをくっつけたすももの身体をぬるぬると覆っていく。のっぺらぼうの桃色のマネキン人形のようになったところで、先ほど脱いだ上着がメタリックピンクのプロテクターに変質、分離し、体の各部に装着されていく。
「万☆能!」
右肩を前に突き出し、
「戦☆姫!」
今度は左肩。一昔前のぶりっこポーズみたい、と思いきや、ばっ、と両腕を交差させる。
「リアライズっ!」
両足を開き、両手を空手風に構える決めポーズ。これは放送で見たことがある。
ぱちぱちぱちぱち……。無意識に拍手していた。
「やめて、もうっ。恥ずかしいってばっ!」
リアライズに転身したすももは、照れて僕を叩いた。
「ごふっ!」
地面に叩き付けられ、意識が遠のきそうになる。
「だっ……だいじょぶっ!?」
空中に放り投げられた僕は、空中で一回転して、リアライズの腕の中にぼふんと収まった。まさかのお姫様だっこ、しかも、される側だ。
「怪我はないっ!? はじめちゃんっ!」
フルフェイスのヘルメットを冠ってても、すももが半べそをかいているのがその声で分かる。
「そ、そのままっ!」
僕がわめくと、リアライズはびくっと身体を強ばらせた。たしかリアライズのパンチ力は、いわをもくだく。対するこっちは生身だ。このままじゃ命がいくらあっても足りない。
「ご……ごめんなさい……」
「いや、その……平気だから。ちょっと、地面におろしてもらえるかな。できるだけ、そっと……。いや、いい、いい! 自分で降りるから、じっとしてて!」
リアライズはうなずき、僕に言われるがまま動きを止めた。石化したかのように、ぴくりとも動かない。なんとも言えない罪悪感がこみ上げる。
「もう動いていいよ」
僕が言うと、リアライズは大きく息を吐いた。呼吸まで止めていたらしい。
「ほんと、ごめんね。あたし、転身したまま、普通の人と触れ合う機会なんて全然なかったから、力の加減が分からなくって……」
しゅん、と萎れたリアライズ。番組では見たことのない姿だ。いかついコスチュームを着ていても、とんでもない剛力でも、中身はあの、すももなのだ。
「僕も気をつけるよ。本物のヒーローと直に触れ合うのは初めてだったからさ」
「……怒ってない?」
「ぜんぜん」
「……ほんとに?」
僕がうなずくと、リアライズは胸に手を当て、ほっと安堵の息をついた。ヘルメットで表情が分からなくなった分、ボディアクションが大きくなった気がする。番組でもそうだ。これがヒーローの仕様なんだろう。
「さっきカレーを食べながら考えたんだけど……」
「え? やっぱり、もうちょっと辛い方が良かった?」
「じゃなくって。リアライズの新装備」
「もう? さっすが、はじめちゃんだねっ。どんな装備?」




