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毎日21時から放言開始っ!

『万☆能☆戦☆姫! リアライズっ!』

 ほっそりした体にぴったり密着した、その未成熟な体のラインがはっきり分かる、どぎついピンク色の全身タイツを着た少女が、勇ましく名乗りを上げる。ヘルメットと、水着のように体の各部に装着されたメタリックピンクのプロテクターが、陽光を反射しキラリと輝く。

 いよいよ、最後の戦いだ。

「はじめ。あんた、将来はどうすんの? なにかやりたいことあるの?」

「んー……」

 テーブルに置かれたトーストにバターをべったりつけ、かじる。母さんがキッチンへ戻りながらため息をつくが、なにがやりたいか、そんなのがはっきり分かってりゃ苦労しない。

『くっ……なんて強さなのっ……』

 画面の中でリアライズが苦悶の声を上げると、

『ぐふふふふ。リアライズ。破壊神の力を手に入れた余に、貴様ごとき小娘に一体なにができると言うのだ!』

 破壊神の力を体内に取り込んだ暗黒皇帝ネロが言った。1・3倍速で見ていたせいで、長台詞が早口言葉みたいに聞こえ、思わず笑う。

 暗黒皇帝ネロはリアライズ最後の敵、いわゆるラスボスだ。こいつを倒せば、世界に再び平和が訪れる。次のクールには、また新しいヒーローと、新たな敵が登場する。年々、番組がつまらなくなってる気がするが、少なくとも今よりはマシになるだろう。

 そもそも女のくせに「ヒーロー」って、なんだ? 男だから「ヒーロー」なんだ。女なら「ヒロイン」だろ。いや、だけどこの国で「ヒロイン」って言うと、昔から悪人にさらわれる、戦闘能力のない、若い一般女性と相場が決まってる。「ヒーロー」にせよ「ヒロイン」にせよ、どっちみち違和感がある。やっぱり、女の「ヒーロー」なんてありえないって結論になる。

『あたしは負けないっ! 母なる海、父なる大地、大自然よ、あたしに力を貸してっ!』

 リアライズが両手を天にかざす。と、周囲から虹色のエネルギーが渦を巻いてその身を包み込んだ。プロテクターの変形が始まる。まず右の手甲が炎を上げて赤く染まり、

「紅蓮拳ファイアーナックル!」

 その手に青色の長剣が握られ、

「聖水剣アクアカリバー!」

 黄色くなった左の手甲からはかぎ爪が伸び、

「轟雷爪ライトニングクロウ!」

 帯電してバチバチと火花を散らせる。肩甲骨のプロテクターからは白い硬質の翼が生え、

「飛風翼マッハウイング!」

 背中から生えた翼が花咲くようにぱっと広がった。そして。左右の胸甲と下腹部の装甲がハート形にぷにゅんと変形し、ふりふりのレースが縁取る。

「超可愛ラブリーアーマー!」

 ……でたよ、最後のこれ。まず第一に見た目。ピンク色のビキニを着てるみたいだ。お色気のつもりか? 第二に、なにかの役に立ったことが一回もない。本当に要るのか? 最後にかけ声。チョーカワイイーって、街角の女子高生か。そんな三つ巴の僕の思いなど関係なく、

究極形態アルティメットフォーム! リアライズΩ(オメガ)!』

 飛翔し、空中でΩフォームへの転身を完成させたリアライズを横目で見る。色が多くて、フォルムもゴチャゴチャしてて……悪趣味。とにかく、かっこ悪い。

 天高く舞い上がるリアライズ。その手に握られた聖水剣に、赤、青、黄、白、桃、五色の光が集まっていく。全てのエネルギーが集約された七色の光刃レインボーカリバーをふりかぶったリアライズが、暗黒皇帝ネロめがけて降下していく。

『必殺! レインボースラッシュ!!』

『ぐわあああっ!』

 暗黒皇帝の断末魔。リアライズの一閃で、破壊神の力を凝縮した宝玉が砕け散った。その身から離れることを拒むようにまとわりつく黒い靄を立ち上らせながら、ゆっくりと倒れていくネロ。その体が地面に倒れ伏す瞬間、ちょうど空から降り立ったリアライズがこちらを振り向く、と同時に、背後で大爆発が起こった。轟く爆音。

『やった……』

 Ωフォームを解き、オリジナルフォームに戻ったリアライズが、安堵の息をつく。やれやれ。やっと終わったか。

「ほら、もう、はじめ。遅刻するわよ。……まったく。いい歳して、そんなのばっかり見て」

「べ、別に。ちゃんと見てないし。録画だし。……1・3倍速だし」

「わけわかんない言い訳しないの。ヒーローになりたいなんて言っていいのは、せいぜい小学生までよ。……ほら。さっさと支度しなさい! ハンカチ持った? お弁当は? まったく、いつまでたっても子供なんだから」

 キッチンでわめく母さん。よくあんなに怒ってばかりいて疲れないもんだ。

「聞いてるの? 母さん、今日は地元の同窓会だからね。帰りの電車がなくて泊まってくるから、夕飯は冷蔵庫に入れとくわ。自分で温めるのよ。いい? 明日は出前でいいのね?」

「うん。わかったって」

『……万能戦姫リアライズの活躍で、世界に平和が訪れた』

 ナレーターが語る。この声優さんともしばらくお別れだ。何クールか先には、また会うことになるんだろうけど。主題歌の歌手と同じで、割と人材不足なのかもしれない。なんてことを考えながら椅子から立ち上がった。弁当を詰めたスクールバッグを肩にかけ、リモコンを手に取る。あとはエンディングテーマが長めに、聞いた事のない二番まで流れるだけだ。

「じゃあ、いってきま……」

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