第十話
吸血戦士キラは吸血族を少数で連れてサトラ村を襲っていた。
悲鳴と吸血の音はキラにとって何よりの美味。キラも魔妖族の首に牙を立てる。
やがて魔妖族がどんどん吸血族へと変化する。
サトラ村の結界は既に破っていた。
部下のサトラ村攻略完了を聞き、キラはここを足掛かりとする。
と、その時。なぜか涙が出た。
吸血族はめったに涙が出ない。悲しいという感情はめったにわかないのだ。
「キラ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。なぜか涙が出た」
キラは己を顔に闇の面頬をかぶせる。キラの表情は冷酷で無表情なものに変貌した。
実はここサトラ村が自分の故郷であったことをキラはもう知らない。キラのもう記憶は消えてしまっている。
なのに、なぜか涙が出た。
骸骨兵は水道も発電所の復旧方法も知らない上に必要も無かった。というよりも設置の意味も分からなかった。これらの施設は破壊され、放置されることとなった。骸骨は水は飲まないし、屍鬼や吸血鬼が求めるものは水ではない。生き血だ。なのに、これらの設備を見てキラはさらに涙を流したのだ。闇の面頬の内側は涙が止まらない。しかし、その涙はやがて枯れ果てた。やがてキラから悲しいという感情は急速に薄れていった。
気概を取り戻したキラは軍勢の前に出た。
「行くぞ、ここを拠点にサロ城へ!!」
「「おお~!」」
「城内に潜んでいる奴と連絡は取れているか?」
「大丈夫です。抜かりはありません」
音飛び石のおかげだ。
「中から結界を破ればこちらのもの。次はオキミ村も攻めるぞ」
吸血の軍勢はこうして友の故郷、ソラの故郷であるオキミ村をも攻め、占領した。急襲の連絡を取る魔妖族を真っ先に吸血族にする。もちろんオキミ村の水道も発電所も破壊した。
こうして吸血鬼の数はどんどん増えた。
南方の騎馬民族もすでに吸血鬼になっている。
馬もだ。馬は吸血馬となっていた。
獲物が無い場合は培養肉の血を吸う。実に便利なものだ。これがなければ吸血鬼は行軍すら出来ない。
吸血鬼は万が一太陽の光が当たらないよう全面闇装備である。キラも太陽が出るときは闇の面頬を顔に当てている。
太陽が、沈んだ。キラは闇の面頬を外す。
合図とともにサロ城内の発電所が爆破され、吸血鬼たちが正体を現す。
「今だ、偽の魔王サロを討つ!!」
「「おおお~~~!!!」」
一気に吸血鬼が城内に入っていく。結界はもう中から無効化されていた。
「爆裂斬!!!」
キラの剣は爆風をももたらす攻撃である。次々爆発するサロ城内。
吸血鬼は城内のものどもを次々吸血鬼に変えていく。
キラは己の羽を使って高速で瞬時に移動し次々とサロ城下の民を切り込む。
獲物の首に牙を立て吸血するキラ。
「き、キラ様!? な……ぜ!?」
(キラ様、だと!? こいつは俺を知っている!!)
キラは吸血を終えた。獲物はどうと床に倒れた。
キラは倒れた獲物に嬉しそうに言った。
「さあな? ただ吸血したいから俺はここを襲っただけだぜ?」
獲物はやがて痙攣を起こしはじめた。死にゆく命を嬉しそうに見つめるキラ。キラの顔は血だらけだがお構いなしだ。やがて獲物は絶命した。しかしかっと突然獲物は眼を開いた。獲物は吸血族となった。獲物はもともと鹿魔族であった。牙が伸びて眼が朱に染まる。
「キラ様、ご命令を」
「本丸を攻めるのだ」
「御意」
次々味方が増える。
「ここが本丸だな?」
すでに門番も吸血鬼化していた。サロ城に先に潜んでいた吸血鬼も集まる。彼らは遠くの地下下水道をアジトとしていた。下水道の末端は結界が掛かって無かったのだ。
病院は格好の襲撃場所となった。しかも血液を保管する場所まであった。それは人間だった時のキラが発案した血液製剤所なのだが。キラは記憶を失ったままだ。
「いくぞ!! 本丸へ!!」
「「おお~!」」
敵を吸血すればするほど味方はさらに増えていた。
(こいつらは俺を知っている。なぜだ)
吸血鬼は本丸をどんどん攻略していく。
吸血鬼を殺すには聖属性魔法で消滅させるしかない。
いつのまにか死んだと思われていた吸血鬼がむくりと起きる。貫かれたはずの胸の穴が埋まっている。
そして吸血鬼たちの牙の餌食となり、敵に回るのであった。
四階の部屋を見てまたなにか心に突き刺さるものがあった。
それは三光魔という高位の官僚の部屋だという。
「うっ!! 頭が……」
「大丈夫ですか、キラ様!!」
そう、その部屋は三光魔時代のキラの部屋だった。窓には修復された痕が……。ここは破られた形跡がある。なんとまあセキュリティー意識が低い城であろうか。
「キラ様、危ない!!」
突然、人形がキラを切りつけて来た。キラは攻撃をかわし、別の吸血鬼が人形兵を葬る。
「油断も隙もねえな」
キラは部下の吸血鬼たちに支えられ、部屋を後にする。キラたちはこうして一階から五階までを制圧した。
キラは一階の謁見室までまで戻って来た。
「情報に間違いは無いのだな」
「はい!!」
「二階の魔王の執務室も副官の執務室も四天王執務室も人がおりませんでした!」
そして謁見室で見つけたこのレバー。魔王用の謁見室の玉座の後ろにあったものだ。
「このレバーを下に引くのだな?」
キラが引くと謁見室の後ろの玉座が轟音を立てながら階段が現れた。
「四天王も副官も偽魔王もここだな?」
階段の下は闇が広がっていた。
「おそらくは」
部下が答える。
「行くぞ!!最後の決戦だ!!」
「「おお~!」」
吸血鬼たちは地下に突入した。
(地下に行けば俺は誰なのか分かるのではないか?)
どんどん地下に突入する吸血鬼を見ながらキラは別の希望を抱いた。
<第六章 終>




