第九話
吸血族は本来昼間の行動は出来ない。
しかし太陽がほとんど出ないこの季節は自由に動ける。
まして闇装備を完璧にすれば吸血族は昼間でも動けるのだ。結界をすり抜ける。その時間、わずか十五分。
そして実行の時はやって来た。
三光魔の一人である戦士キラ。
サロ城はめったにガラスを使わない。窓も石で出来ている。しかし窓は通路側も部屋側も魔力で壊され、ドアも壊されていた。周りが気が付くはずだがなんと眠り魔法をかけられていた。三光魔こと残りの二人であるトラもソラもまんまと呪文にかかって熟睡していた。
キラは外に連れ出し、吸血鬼は首に牙を立てる。
その目論見は成功した。
キラは根城に連れていかれた。結界をすり抜ける。わずか5分で完了した。結界が修復して何もごとの無かったのように再起動する。
翌日サロ城は恐慌状態となった。強固な石の窓も扉も壊されていたからだ。爆発もせず一体どうやってこんなものを壊せたというのだ!? 結界は動いている。どうやって曲者が入ってこれたのだ!!
キラが居ない!!
トラもソラも涙を流した。
◇◆◇◆
「キラよ、お前も私も姿が変わり果てたな」
声の主はチュリュグディであった。
「この姿でかつてはロロと名乗っていた呪術師と言われてもにわかには信じがたいもの。だが……お前は我に忠誠を誓うのだ」
「御意」
「そうだ、お前にはあるきっかけで記憶をよみがえらせるとしよう」
そういうとチュリュグディは手から波動を出した。だが波動を食らったキラは一見何も変化が無かった。
思わずにやけるチュリュグディ。
(術は成功のようだな)
「お前は吸血の戦士キラとしてサロ城を攻めるのだ。軍勢も与えようぞ」
「御意」
「そしてお前には特別に福音を授けようぞ」
そういうとチュリュグディの尾がキラをそっと巻き付ける。そして先端部分の尾にある毒針を出すとキラに打ち込んだ。打ち終わるとチュリュグディは毒針を尾に仕舞った。
変化は起きた。キラの背中から羽が生じた。キラの羽はまるで羽魔族のような蝙蝠の羽だ。
「我の毒は人間や魔族にとって毒だが既に死した者にとっては福音となる。ありがたく思え」
「ありがたき幸せ」
「それとこれを持っていけ」
「これは?」
「培養箱だ。我が発明した。魔族や人間の肉を培養できる。何の役に立つものかと真剣に考えた。屍鬼が飢えないようにすること以外でな。そこで吸血族が飢えずに行軍できる道具という事に思いついたのよ。これを培養すればいつでも血液を確保できる。つまりこれさえあれば吸血族をどんどん増やすほど我らの勢力は増す」
「ありがとうございます」
「キラよ。まずはテストだ。サトラ村を攻め、サトラ村の村民全員を吸血族に変えよ」
「御意」
「屍兵よ、もってこい!」
屍兵らが持ってきたもの、それは吸血族にとって最強ともいえる武器と防具であった。
「これは……」
「吸血族の最高の武器……吸魔の鎧、吸魔の兜、吸魔の剣、そして昼間でも移動できるよう闇の面頬だ」
吸魔の鎧には背中に穴が開いていた。翼を持つものでも大丈夫ないように出来ていた。
「ありがたき幸せ」
「ではさっそく準備にとりかかります」
そういってキラは謁見室を後にした。扉が閉まる。
しばらく沈黙が流れる。
「ふふ」
チュリュグディの肩が揺れる。
「ふふ、くくくっ」
忍び笑いが漏れる。
「ふふふ、くくく、わーっはっはっはっ」
チュリュグディの高笑いが謁見室に響いた。