第六話
その日はやって来た。みんな極寒の地に待ち望んでいた。なんせ非常用電源だけで城内で過ごしてきたのだ。
「いくぞ、三・二・一・点火!!」
係員の点呼が響く。すると灯りが次々と付く。
「電気が付いた!!」
非常用の細々しい灯火管制の日々は終わった。もっともあちこちに非常用電源として木炭発電所を建設したおかげで凍死という最悪の事態を免れたし……木炭確保のために大量に樹を切り倒したおかげで農地が増えて食料の安定供給も復活したのだが。
「灯火管制時間外でも蛇口から水道が出る!!」
ヴォルド中が一斉に歓喜の渦となった。
そして……。
「魔王城もガス管は復旧した」
サロの街並みも次々電気が付き、蛇口から水道が出る。もちろんボイラーによってお湯も。そう、冬季の水道はお湯にしないといけない。
日常を取り戻した。ただ、代償は大きかった。しかも……。
「ところで、鉱山から鋳造用の鉱物が全然届かないのだが。このせいでとうとう金庫は空っぽだ」
そう、この国の財政は破綻寸前であった。シュクラは頭を抱えた。
「この国は税金を取らない代わりに電気代、水道代、ガス代、保険料、衣服の販売代金、家賃で動いているんだからな」
カラロも帳簿を見て愕然とする。
「保険料や家賃の未払いがキツイ」
サロがぼやく……その時空から羽魔族が来た。
ボロボロの姿だった。
「魔王様……」
蝙蝠の羽はあちこち破れ、満身創痍の姿であった。
「ミサラスは……鉱山ごと……屍鬼族に……取られた」
そう言って息を引き取った。
歓喜の渦は一斉に悲鳴が上がった。
◇◆◇◆
「ごめんな、勇者。次はお前の村を守るはずなのに」
「今は鉱山を取り返すのが先です」
トラはきっぱりと言った。
「勇者らしい顔つきになったじゃねえか」
サロが思わず褒めた。
「まずは冒険者ギルドで一人追加だな。よし、我こそはミサラスに行くという者!」
「行くぜ!」
声に答えたのはカラだった。
「そうか。ならばカラにプレゼントがあるんだ」
それは熊魔族にふさわしい武器であった。黒き禍々しき爪。
「本当に遅れて申し訳ありません」
シュクラが頭を下げる。普段は四天王の部屋で厳重に保管してください。
「防具は後から揃えます。とりあえず武器だけでも」
電力不足ではこれが精いっぱいだった。
「変わってるだろ。闇熊の爪という」
サロが手渡す。
「これが、闇熊の爪」
熊魔族は魔族になった時に手は人間そっくりなものに変わってしまったため熊が持つ武器としての爪を失っている。
「強力な鋼鉄の爪だ。これに闇の呪いが付いている。敵を引き裂くには十分です」
シュクラの説明にカラが喜ぶ。腕に装備するとぴったりだった。
「一緒にギルドに行って飲もうか」
こうしてカラは改めてメンバーとなった。
カラのみ冒険してないのでFランク、3人はDランクとなっていた。
Eランクのメダルを返し、Dランクのメダルを受け取る。そして自分が出した報酬分の2割をカットされて戻って来た。
「パイプラインの警備と結界石の聖属性化も順調のようだな」
サロがシュクラに聞く。
「今度こそ、パイプライン爆破ということにはなりません」
そう、もうこんな目に遭いたくない。
「しっかし財政どうしよっかなあ?サロ、借用書書いちゃったら?」
「カラロ、簡単に言うなよ。酒代のツケじゃねえんだぞ」
「ないものはないだろ」
「うっ!」
サロは痛いところを突かれた。
「肩たたき券みたいなもんね、サロ!」
「オロはいつの話をしてるんだ?」
サロは一気に呆れた。
「前借にするんだよ。その代わり一年後は一.〇三倍にして返すってな」
カラロの提案は年利三パーセントの利子が付くという意味になる。厳しい。
「借用書……ずっしり重く来る」
サロの肩も重くなった。
「そりゃ~な?」
カラロは羽をバラバサと鳴らす。
「シュクラと相談する」
「おう、でもあんまり時間はねえぜ?」
カラロが釘を刺す。
「このボロボロの再スタートの時に税金増なんてやったら」
オロが言うと酒場中の会話が止まり酒場の全員がサロの方向を向いた!
「なんだよ、お前ら!」
サロが悲鳴に近い声で睨むと酒場の全員がさっと視線をそらした。酒場中で会話が再開した。
「今の空気で分かる通り、無理ね」
オロがサロの肩を叩く。どっちが「肩たたき」されるかわかったもんじゃない。まずい。
「借金……」
サロがうなだれる。
「大丈夫だって、鋳造増やせば借金なんてチャラに出来るって。サロは自分でお金を作れる側の人間なんだぜ、自信もてや!」
「うん……」
(お金ってそんなもんなのかなあ?)
「おかわり!!」
カラロは飲み続けた。
「俺もおかわり!!」
「サロ、お前まだ子供じゃね?」
(カラロ、お前は魔王に何を言ってるんだ?)
「魔王になってから不思議と酒は強くなったのさ」
「だめ!!」
オロはサロのジョッキを取り上げる。
「サロの体を想ってのことだから。いくら魔王の体になったとはいえ飲み過ぎはダメ」
「やさしいねえ、幼馴染は」
カラロはおちょくった。
替わりに来たのは牛乳であった。
「……」
「大人になってからだよ」
サロは無言で牛乳を飲んだ。