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魔王の仮面  作者: らんた
第五章 魔王が冒険者ギルドに加入して何が悪い?
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第五話

 暗夜が迫りくる大地に真の魔王城があった。時折……稲光が見える。魔王城を守る結界の内側には雷魔法で外敵から保護しているのだ。もちろん骸骨兵や屍鬼が出撃する時は結界の起動を停止させる。そうしないと核が破壊されてしまう。そう、これは外敵だけのための結界ではない。万が一骸骨兵や屍鬼が自我を持った時に刑罰として与える場でもあるのだ。その魔王城の一室に生贄の祭壇があった。 


 「これが生贄」


 魔王は嬉しそうだ。


 「はい、魔王様」


 骸骨兵が答える。


 「仮死状態にとどめております」


 「生贄の祭壇に捧げるのだ」


 「御意」


 「生贄の服を切れ」


 「御意」


 「生贄の身を清めよ」


 「御意」


 骸骨兵はバケツで布を濡らし丁寧に生贄の体を拭く。清めが終わった。


 ロロは身が清められた生贄の前に来た。


 ロロはまだ手に鉤爪すら生えてない。そこでロロは生贄の祭壇に捧げられた人間を己の牙で切り裂き、そして貪るように食った。


 既に人間の頃の味覚と変わっていた。人間の血肉はほのかに甘く、うまさが伝わる。


 (ふふっ。魔王はこんなおいしいものを食べていたのか)


 思わず喉を鳴らした。


 (そういえば自分は前世「ガザ」と呼ばれた時生贄が魔王の仮面を引き当てることが出来ずそのまま寿命を迎えたこともある。やむなく母ムロロの息子ロロとして転生したのだった。魔王は八二年も不在だった。まさか今自分はこうして真の魔王を復活させようとしているとは)


 しばらくしてロロが身に着けている仮面からどんどん血肉が流れていく。


 血肉が仮面から流れ行く音はまるで咀嚼と吸血の音であった。いいや違った。ロロは仮面に食われているのであった。さっき生贄にしたことを今度は自分がされているのだ。咀嚼と吸血の音そのものであった。


 体内にある魔王の魔石がロロを覆う血肉に増幅効果をもたらす。ロロの服は破れどんどん己の躰が大きくなる。だんだん息が苦しくなる。呼吸も激しくなってきた。


 突然ロロの首が根元から折れるような音がした。肉が首から流れるせいで一時的に首を支えきれなくなったのだ。己の顔が真横に曲がる。


 あまりの激痛にロロは意識を失いそうになった。


 だが、仮面をかぶった顔も正面の位置に戻りながら仮面が大きくなっていく。仮面の口がより裂け、牙が伸びた。ロロは思わず声を上げた。その声は既に獣の咆哮であった。


 (どうだ、我は生きているぞ!)


 ロロは急速な変化に耐え切れず絶命するリスクを負ってまでまだ標準体になってないにもかかわらず人間を喰らった。ロロの賭けは成功に終わった。


 (台本通り我はついに表舞台の支配者になる)


 そう思った。すると己の顎が前に迫り出した。ロロは己が被った仮面の形をも骨音と共に変えていく。骨音は己が前に進む覚悟と意思表示の証となった。今度は悦楽と激痛が同時に走る。骨音はやがて止んだ。仮面の形など変えることは出来ないはずなのにロロはそれをも変えてしまった。体内にある魔王の魔石の力が仮面にも及んだのだ。


 ロロが肉の塊に徐々に喰われていく。肉塊はとうとう足のつま先まで飲み込んだ。ロロは仮面に喰らいつくされたのだ。肉塊は咀嚼と吸血を続ける。肉塊は中の肉と骨を溶かし、喰らい尽くし、吸い尽くし、血肉と骨を再構成した。


 己がどんどん喰われていく様を嬉しそうに確認している。その嬉しい光景が徐々に高まっていった。己の首がどんどん伸びて行ってるのだ。そう、ロロと言う人間の死を見届けるのだ。そして自分は新たな命に生まれ変わる。


 己の首の高さが止まってしばらくしてから決意した。


 (我がこの力でもって世の秩序を守るのだ)


 そう思ったとたん、咀嚼と吸血の音が止んだ。すると今度は肉塊の全身に赤闇色の鱗が覆い、さらに仮面から供給された二つの大きな瘤は翼が内包されていた。瘤が破れると赤闇色の帳が降りる。肉塊を突き破った鉤爪は絶望を塗りつぶしたような黒色となった。最後に己の躰と仮面が一体化した。


 (我こそ福音をもたらす者)


 そう思った。今度はなんと尾が生じたではないか!尾はどんどん大きくなっていく。敵をなぎ倒すのに十分な大きさだ。そして先端部分に毒針が生じた。毒針から毒がしたたり落ち床を溶かす音がする。針は尾の中に仕舞えるようになっていることを確認した。この毒針は人間や魔族にとっては死に至らしめる毒だが屍となった者にとって福音となる「薬」である。


 こうしてロロは赤竜となった。標準体の姿となった。


 本来、仮面をかぶって半年を経ないと標準体にはなれない。


 だが例外がある。それは魔王の仮面をかぶった後に人の肉を積極的に食う事である。


 「まだだ、まだ小さい。我の姿は真紅の巨竜。もっと生贄を寄越すのだ」


 声も変わった。


 「御意」


 「それと我に四天王や副官など要らぬ。そんなものは三流の魔王がすることよ」


 「御意」


 「おお、そうじゃった。標準体になったら前の名前を捨てるんだったな」


 首を巡らせて宣言する。


 「我の名はチュリュグディ、魔王チュリュグディじゃ!」


 「「「御意」」」


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