第二話
魔王になったとはいえサロはまだ十一歳。居酒屋風の場所になんて行ったことが無い。まあ、魔王の躰になったらもうアルコールなんてなんともないんだけどね。
「へえ、これが冒険者ギルド」
サロは驚いた。急ごしらえとはいえ。
「これが求人ボードなんだ」
勇者が誇らしげに言う。
「じゃあ、魔王の俺様が求人出そうかな」
『骸骨兵・屍鬼兵討伐! 夜は屍鬼も出る。腕の立つ者を求む! 結界の拡張業務込み 魔王城城主 サロ』と記述した。
討伐クエストも四つも出した。魔王城の周り、ヴォルド、鉱山、そして勇者の故郷だ。
「うむ、我ながらいい出来だ」
「求めるランクも出してください」
「ランク?」
「ええ、冒険者は『S級』、『A級』、『B級』、『C級』、『D級』、『E級』、『F級』と別れています。冒険者は誰もが最初は『F級』からです」
「これってさ、自分も応募できるの?」
「出来ますよ。前いたところは族長も直々やってたし」
「じゃあ、俺も応募っと」
「えっ? 魔王様!? 直々で!?」
ギルドマスターが狼狽える。
「悪いか? 経費節減だ」
「で、ではこちらのメダルを……」
「これはなんだ?」
「F級メダルです。俗に言うFランメダルです。最低ランクって意味です」
聞かなかったことにしよう。サロはメダルを仕舞った。
「とりあえず。農地の部分も結界を拡大して農作物確保だな」
「あ……はい、魔王様」
「名簿のご記入を」
「こうか?」
「へえ、これって四天王も登録できるってこったな!」
カラロが嬉しそうに言う。
「はい、カラロ様」
マスターは汗びっしょりだ。
「四天王全員にF級メダルを渡すのは……」
マスターは声が震えていた。
「ルールだ。俺様がF級なんだからな。ルールはたとえ城主であっても守る。お前らもFラン登録しろ」
「いえーい!」
オロがうれしがる。
――Fランで喜ぶ人、初めて見た。
ソラがこっそり言う。
――まったくだ。
キラもうなずく。
「仲間を集めてください。パーティーは四人まで。出会いも別れもここで行います。パーティーの再結成も可能です」
マスターはやっぱり声が震えていた。
「で、ここで飲むんです。酒の一杯を交わす」
「じゃあ、お前と組む。トラ、ほら酒だ」
「魔王様?」
「魔王様は辞めろ。サロでいい」
「勇者と組むので?」
「いけないか?」
「もちろんですとも!」
トラはビールをぐびぐび飲んだ。サロと同じ十一歳である。人生初めての酒となった。
「う……ま……い……か?」
悪そうな笑みを浮かべるサロ。
「おえっ!」
トラは吐いてしまった。「水くれ」と叫ぶ勇者。
「義兄弟の契りみてえなもんだな」
ぐいっとサロはビールを飲み干す。
「カル、来い。薬師が必要だ。町の外には天然の薬草があるだろ。それも集めて栽培しよう。医療の向上に役立つ」
「喜んで!」
カルはビールを飲み干した。
「カラロ、一緒に組もうぜ。空から奴らは攻撃出来ない。鳥魔族は貴重な兵力だ」
「おう!サロ!」
「いい返事だ」
カラロはビールを飲み干し、木製のカップを机に叩きつけた。
「ではパーティーメンバーの登録をこちらに。ヴォルドで解散、結成する際はここでも確認いたします。この飛び声石で」
「「了解」」
「じゃあ、やるか、雑魚狩を」
魔王が宣言する。
「「おお~!」」
「遅くなりました」
「シュクラ」
「俺たちも、冒険者になったぜ」
サロがうれしそうに言う。
「四天王だけ偉そうに椅子に座ってるってわけにもいかねえしな。それに放送局、ダメになって暇だしな」
カラロが言う。
「では、私も」
「そう来なくちゃな、シュクラ」
カラロは嬉しそうだ。
「これって魔王と副官のパーティーも出来るのですか?」
「そうです、副官様」
「そう」
シュクラも登録した。
「F級メダルです」
「ほお、これがF級。これで私もいっぱしの冒険者になったという事か!」
――誰か副官に教えてやれ、Fランは恥だと。
ソラがこっそり言う。
――言えるか! バカ!
キラが切り返した。
――俺たちも、このギルドではまだFランなんだからな!
「私とサロが冒険に出るときは国の事……四天王のだけかに頼みますよ」
「「はいっ」」
こうして冒険者ギルドは前代未聞のスタートとなった。