第十話
はるか南方の遊牧民が行きかう草原。
ここにロロは居た。
「いかんなあ……いかんなあそれは」
水晶見ながらロロは独り言を発している。
「それでは魔王の魔石が手に入らないではないか。魔王の魔石があれば何度もこうして転生できるというのに。これでは我の体内にある魔王の魔石が弱ってしまうではないか」
(このままでは精霊に戻ってしまう)
(これでは勇者の体内にある魔王の魔石も取れなくなってしまう)
(魔王の魔石を維持すべく人間を闇討ちして密かに喰ってきた努力も水の泡になってしまう)
(このままでは誰かの胎内に入り転生を繰り返すということが出来なくなってしまう)
(四天王の誰かを裏切させるということも今回はできなさそうだ、前回は奴の劣等感をうまく引き出せたのだったな。今回の四天王にはそんな奴は居ないようだ)
(どうすれば……?)
(そうか)
(その手があったか)
(我は魔王の魔石を四つも持っていた。うち二つはまだ体内に残ったまま)
(ならば我が魔王になればいいのだ!)
(そして役割を放棄した偽勇者と偽魔王を討ってしまおう)
ロロは顔を伏せた。
小刻みに体が揺れる。
「くっくっくっくっくっくっくっくっ」
思わず嗤いが漏れた。
(それでは物は試しだ)
近くの村まで浮遊魔法で行き呪文を唱えると墓から骸骨がどんどん出ていく。 近くの村まで浮遊魔法で行き呪文を唱えると墓から骸骨がどんどん出ていく。さらに魔法陣を作り出す。前に襲った村で屍鬼となった者たちだ。
悲鳴は村から次々上がった。
骸骨に殺されていく村人たち。
「心配せんでいい、命を与えようぞ」
ロロは破を唱えると死体がむくりと起き上ががる。
村人は次々と屍鬼となった。屍鬼は人間だった時の記憶を失い、額とくるぶしからは角が出ている。もう心臓は動いていない。屍鬼は光の当たる場所に行くと焼けただれて死ぬが夜や闇のある場所にさえ行けば半永久的に生きられる。
「ロロ様、ご命令を」
屍鬼が周りに跪ていた。
今まで裏でこっそり動いてきたのだ。
「一人だけ屍鬼にせずそのまま死んだ若い女は残しておるのだろうな?」
「もちろんです」
屍鬼は女の死体を運んできた。若娘の首には絞められた跡が残っていた。
ロロは小枝を拾うとそこに念を入れた。さらに己の髪を抜くと小枝に結び付けて死体に埋め込んだ。
屍鬼はこの光景を見ても指示通りまるで無表情であった。
(万が一変化に耐え切れなくなって己の躰が四散しても大丈夫なようにこいつの躰に種を仕込んでいこう。魔王の魔石は便利なものだ。なにせ人間の死体からでも食い破って輪廻転生できるのだからな。しかも無事変化が終われば「保険躰」は本体へ再び吸収できるという優れた存在よ。生きた女に種を仕込めば単に子孫が誕生するだけだがそれはつまらんというもの。ガキはうざいだけだ)
肉に埋め込む音が響いた。
(今回の勇者は勇者の役割を放棄し、魔族は魔族の役割を放棄し、魔王は魔王の役割を放棄した。ならば魔王の代役を自分が行わなければならない)
「我の種を仕込んだ死体は城の地下室に保管しろ」
(我が表舞台に出るということは危険性が伴う。最悪自分は討たれるかもしれない。体内にある魔石を取られるのかもしれないのだ。しかし、このままでは魔王の魔石は取れない)
――ならば!
(そう、我こそが魔王よ)
「お前ら、魔王城を作るのだ! 屍鬼のために地下王宮は特に強化しろ。もちろん地上部分もな」
(そう)
「死の王国を、作るのよ!」
「「御意」」
「生贄の祭壇も作るのだ」
「「御意」」
◇◆◇◆
屍鬼や骸骨たちは早速魔法で石を集め建造物をどんどん作り上げていく。自分がかつて住んでいた家をも囲む城が輪郭の段階ながら出来ていく。
そしてロロは転移魔法を唱えると仮面が収められている封印の間に出た。
仮面の封印を解くと、魔王の仮面を自分で付けた。
(住民に風習と言って洗脳させ、十数年に一度確実に魔王を出させるというこの仕組み、失敗したのは痛手)
(まさか最後の手段を使うとは)
その仮面は赤闇色の仮面で鱗が一面ついていた。竜の鱗であった。ザムドとは明らかに違う別の神。竜神であった。魔の竜と言われし古代の神の仮面。
(生贄も一杯喰わねば。そうすれば強大な魔王になれる)
ロロは転移魔法を唱えると順次に消えた。
ロロが戻った場所は建設中の魔王城。
「魔王様、建設は順調です」
ロロはこの言葉にぞくっと来た。思わず快感を覚えた。
そうだ。ここの城下町の住民はタム村の住民とすることにしよう。本当は魔王が糧とすることが許されている村人の命は我が有効活用しよう。
――ただし、幽霊の身となってな! 幽霊ならば屍鬼も襲わぬことだろうし
<第四章 終>




