第九話
工事は順調だった。
「ナゴルまで届いたぞ!!」
豹魔族の工事部隊が完了報告する。
「バルブを一旦全部閉じろ!!」
必死に虎魔族が閉じる。
「閉じたか!?」
――閉じたぞ
音飛び石から声が聞こえる。
「城のガスを止めろ!」
――止まりました!
「いくぞ、最後の仕上げだ! 各家庭にガス管を供給するぞ!」
現場監督官である鹿魔族が吠える。
「「おお~」」
そして鳥魔族、熊魔族、犬魔族、狼魔族などがどんどん各家庭にパイプラインを引く。
風呂用のボイラーも、ガスコンロも作っていく。
三光魔はただただ驚くばかりだ。
そして勇者の実家にもガスがやって来た。
「全部敷いたか?」
現場監督官が見て回る
「敷いたぞ!」
狼魔族が誇らしげに吠えるように言う。
「蒸気の元となる水もいいか?」
現場監督官が「よし!」と言いながら次々周る。
「大丈夫です」
羊魔族が確認した。
「終わったぞ! 行くぞ、供給開始!!」
すると閉まっていたバルブがどんどん作業員によって開けられる。
「すべてのバルブが開いたか?」
――開きました!
音飛び石からかすれ声が聞こえた。
「勇者、ガスの点火スイッチをひねってください」
現場監督官の言うとおりにするとするとなんと青い炎が!
「よし、次にお風呂だ」
するとどんどん水が温かくなっていく。
「これが、ガス」
「そうだ」
現場監督官も披露の顔を隠せない。
「発電所のタービンを回せ!」
――了解
すると今まで不安定な補助電源だけだったものが安定的に供給されるようになった。
「補助電源用の発電所の出力をゼロにしろ」
――了解
すると木炭発電所から煙が消えた。
「勇者、これで終わりです」
現場監督官の声を聴くと村人が歓声を上げる。
「無事故、よし!」
「「無事故、よし!!」」
「村長、これで終わりです。最後に、今日から鹿肉、熊肉、鶏以外の鳥肉は厳禁です。鹿魔族、熊魔族、鳥魔族にとって共食いになるので」
現場監督官がきつく言った。
「承知した」
村長は鹿魔族の現場監督官を見て家をちらっと見た。鹿のはく製があったからだ。
「では、三光魔の皆様、籠でおかえりいただくことになってます」
「トラ、行くのかい?」
母親が泣きそうな声で言う。
「ああ。もう新居もあるんだ。大丈夫だよ。いざとなれば航空便もあるんだし」
「たまには実家に帰っておいで」
「うん」
「この村に居るのは鳥魔族二名ほどです。それ以外は人間族になります。なにか、不具合とかありましたら鳥魔族に聞いてください」
現場監督官が光っているように見える。本当の勇者とはこういう無名の作業員ではないのか?
「勇者、魔族のみんな~、ありがと~」
「「ありがと~」」
子どもたちが一斉に声を上げる。
「お前らも魔王城に来いよな~!」
勇者が泣きながら言う。
魔族の集団は空の彼方へと消えた。
「キラ、ソラ、お前たちの故郷もどうだ?」
勇者が提案した。
「やってみる!やってみるよ!!」
「勇者って魔王を討つことだけが勇者じゃねえんだ。文字通り世の中を変える勇気のある奴が、真の勇者なんだよ」
泣きながら言うトラ。
周りの魔族もキラ、ソラも思わずもらい泣きした。