第五話
勇者の故郷の村の近くにまで来た。村の周り以外……針葉樹林が支配する闇の世。暗夜や白夜が来ない代わりに針葉樹林が闇を作る地である。深き森に光が差し込むのはまれだ。そう、村の一歩外へ出ると魔界なのである。樹海に支配された地である。村はその樹海にぼっかり開いた穴であり光の世の大地となっている。
村の名前はナゴルという。
木炭発電所の仕組みは非常に簡単なのですぐに出来た。
ただ問題なのは木炭を作ることだ。
「俺が村に入ったら村が大混乱に陥る。そこで交代ではなくシュクラにずっと頼んでいこうかと思う。幸いシュクラは妖精の親戚だ」
「うん」
やがてシュクラが来るとサロは空へふわっと飛び、去って行った。替わりにシュクラが鳥人が運ぶ籠に乗ってやってきた。
「ふむ、木炭発電所は出来てますね。電線を引きますよ」
シュクラはそういうと魔素でどんどん電線を作る。
◆
村の目の前まで電線を作ったところでシュクラは手を止めた。
「幸い、俺は妖精で通せる。絶対に『魔王の副官』とかいうなよ?」
「うん」
「勇者?」
「あなた、トラじゃない?」
村人のソミンであった。もうおばあちゃんに差し掛かっている。いや、栄養面や衛生面でそうなっているだけで本当は若いのだが。
「ただいま」
「戦士キラと申します」
「呪術師のソラと申します」
「連れの方もいるのね、で……戻った理由は?」
「魔王との戦いで実は妖精族に逢い、そこで人間の生活の向上につながるものを見つけました」
「あなたが精霊さん」
「こんにちは、精霊のシュクラです」
シュクラの服装は白銀の鎧に白銀の毛皮を着ていた。尖った耳以外ほぼほぼ人間の姿だ。
「実はこの設備に電気を通すと」
ぱっと明るくなった。ソミンがびっくりする。
「それだけじゃないんだ。水道も下水道も作れるんだよ」
「水道?」
「電気の力でポンプで水を通すんだ」
「うれしいわ、でも魔王との戦いは?」
「それなんだけどちゃんと人間が力を付ければこの戦い、勝てるんじゃないかと思って。それに不衛生で人間が死ぬのは見てられなくなって」
「それは悪霊の仕業ではなく、悪魔の仕業でもないよ」
呪術師が付け足す。
「不衛生を無くせば『病魔』は消えます」
戦士も衛生面を言う。
「まあ、お手並み拝見ね」
村人のソミンが去っていく。
――迫真の演技でしたね
この勇者の小声にシュクラは何も答えなかった。
こうして村の全ての家に電気が通った。数日かかった。
シュクラは森に魔力を回復して来ると言っては森で鳥魔族とあって食料をもらう。
「ガスがねえ生活は厳しい」
「お察し申し上げます」
シュクラはしんどそうだ。従者の鳥人も同意する。
さすがにたまらず水晶でほかの四天王に呼び掛けた。
オロは急いで水道建設の魔法を魔王城で覚えて籠に乗ってやってきた。
「だめだ、もうたまらん。人間も魔族も一度便利な生活慣れると元に戻れない。風呂がいちいち釜炊きというのが」
そう言ってシュクラは籠に乗る。
「魔王城に帰ったら数日は食って寝るだけの生活するぞ」
そういってバテたシュクラは籠に乗って去って行った。
オロは急いで上下水道、合併浄化槽の建設を行った。
こうして二十二戸の村に電気と上下水道が完成した。
水汲みという重労働が消えたのである。洗濯もである。
さらに薬も持って行った。
「すごいわ!! 勇者様!! これなら世を救える」
村は勇者!勇者の大合唱であった。
「ちょっとこっち来て?」
オロがトラに呼び掛ける。
――いよいよね
――魔王軍がここに来る時が
――あんた、覚悟は出来てるよね
――最後にラジオをプレゼントして、この文明が魔王城からのものって徐々に分かるようにもするんだからね
――うん




