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魔王の仮面  作者: らんた
第三章 人間達が攻めてきた!
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第十一話

  勇者トラ、戦士キラ、呪術師ソラ……。三人の行く先々の村で全く予想外の事が起きていた。


 魔物が居ない。


 三人は無駄に森に向かって波動を出してみた。樹が次々倒れた。


 村に着いた。


 そして村の宿屋で行われる先代勇者の悲嘆の物語の上演。


 上質の衣類。どこで作っているんだ。


 自分たちは果たして本当に「勇者」なのか。


 「なあ、俺たちおかしいよ」


  勇者トラが問いかける。


 「うん……」


 キラもうなずく。


 「北の大地は魔物が跋扈してるんじゃないのか? なのに一匹もいない」


  呪術師ソラも違和感を覚えていた。


  そんな中ようやく魔物を見つけた。しかし空高く飛んでいる。攻撃できない。


  「鳥人だ」


  なにか運んでいるようだ。なんと結界の中に入った。すると姿が見えなくなった。ここか? 魔族の拠点って?


  やがて広い農地に出た。しかし農地の周りが荒れ地のままだ。


  農作業している人を見てびっくりした。


  「人と魔物が共存している」


  勇者は仰天した。


  「すみませ~ん! 旅の者ですが~」


  すると人間も魔物も来た。


  「旅の者とは珍しい」


  人間族の農民が声をかけて来た。


  「ヴォルドは結界で守られてるからな、見えないんだ」


  鹿魔族の農民も勇者に声をかけた。


 (やっぱり。ここは魔族の拠点なのだ)


 「町に入りたいのか?」


 「はい」


 「じゃあ門番に聞いてみるから待ってて」


 (え? セキュリティー低くない?)


◆◇◆◇


 十分後……。


 「はい、これ結界石。これ持って荒れ地に向かって」


 おかしい。


 「俺たちも同行するから」


 「勝手に結界石を持ち去らないようにって意味での同行だから変な真似はやめてね」


 魔物だらけの拠点に向かうのに何も緊張感が無い。


 そして結界を抜けた先には、彼らを驚愕させる光景であった。


 町の中で普通に魔物と人が暮らしている。


 「はい、この街に来た理由を聞かせて」


 鹿魔族の門番が聞く。


 「はい、ぼくはゆ……」


 ――ばかっ!


 「ぼくたち観光に来たんですけど」


 ソラがカラの足を踏んで回答した。


 「観光ね。じゃあ三日の滞在許可証出します。街に出るときは一旦結界石を返してください。この石はこの門以外から出ることが出来ないようになってます。お金は両替してください。それではよい旅を」


 「は、はい」


 キラがあっけに取られた。


 宿屋はもっと凄かった。


 電気が付く。トイレは水洗。ふかふかのベッド。浴室に出るのはお湯。そして上等のタオル。


 「信じられない」


 何もかも驚愕の世界であった。


 翌日、街に出ると大浴場にも温水プールにも入った。板玉返しというスポーツで遊ぶことまで行った。


 人間に聞いてみる。魔王の評判に。どれも「素晴らしいお方だ」という意見であった。


 どうもここは魔王の別邸がある場所のようだ。


 それだけでなかった。


 「病気になっても貧乏人は無料で薬が買えるんだ。金持ちはそれなりの負担だがな」


 この言葉に仰天した。薬屋に行くと保険証提示で負担額が決まっていた。もっとも自分は旅の者なので全額負担なのだが。


 一般の家には洗濯機まであった。


 温室まであった。特殊な薬草や野菜はここで育てているようだ。


 箱から音楽が聞こえる。


 「おやじさん、これは?」


 宿屋の主は人間族であった。


 「ああ、これかい。旅の者には珍しいだろう。ラジオだよ。魔王城から放送が流れるんだ。聞いてみる?」


 「「はいっ」」


 部屋に持って試しに聞いてみる。それは娯楽の塊であった。


◆◇◆◇


 そして観光旅行の二日目が終わった。


 宿屋の店主にラジオを聞きたいと願い出たら追加料金を取られたが貸し出してくれた。


 音楽だけでなくニュースも娯楽番組も流れていた。CMまであった。放送時間は夜八時までであった。一日の終わりの音楽が流れていく。そして何も音が聞こえなくなった。店主にラジオを返した。


 ラジオを聞いてから会議となった。


 「ねえ、旅の者として魔王城に行かない? 場合によっては、魔王に謁見するよ」


 勇者が聞く。


 「俺たち、魔王倒しても殺されるんだろ?」


 それが勇者にとって一番怖かった。


 「で、この魔王どっからどう見ても悪人じゃねえよ」


 呪術師は冷静に判断した。


 「じゃあなんでナキム=ハン国の首都を消失させたの?」


 戦士は納得していない。


「それも聞きたいよ」


 勇者は聞きたいことだらけだ。


「魔王に殺されそうになったら?」


 戦士はもっともな質問をだす。


「それはさすがに戦うよ」


 勇者……仕方なさそうに言うなよと戦士は小声で言った。


 「今の俺たちはそこらの軍隊よりも強い」


 まあ、ね。でも数の暴力に出たら負けるけど。


 「魔王に願い出て、どうするの? トラ?」


 「仲間になる」


 戦士は一瞬凍り付いた。逆に呪術師はおもいっきり喜んだ。


 「出来れば故郷にこの文明の恩恵を持ち帰る。だってさぁ~蛇口ひねっただけで水やお湯が出て炎が出て灯りが付くんだぜ」


 「だよね~」


 呪術師も納得。


 「勘違いするなよ。俺たち『闇落ち』じゃねえからな」


 「うん」


 「明日、魔王城への行先を聞いてみるか」


 夜九時頃になると街の明かりがどんどん消えていく。睡眠の時間だ。北国の夏の日は長い。ようやく日が暮れ夜になった。


 「俺たちも寝るか」


◆◇◆◇


 翌日魔王城への行先を聞いた。


 簡単に聞き出せた。


 「魔王城の近所に農作業してる人がいたり物を運んでくる鳥魔族や羽魔族がいるから声をかけてごらん。それで魔王城に入れるから。じゃあ、結界石を返して。両替は済みましたか?」


 「はい」


 門番に結界石を返す三人。


 「それではいいご旅行を!」


 鹿魔族の門番の声と共に勇者らは町を後にした。


 勇者らは魔王城に向かう。


 目的は二代目勇者と同じ共闘の申し込みであった。


 勇者の判断は正しかったのか。


 この時点ではまだ誰にも分らない。


 白夜の季節がやって来た。光が支配する世となるのだ。


<第三章 終>

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