~序~
「なんと恐ろしい」
彼らが水晶を通して見たものは魔族が跋扈する姿であった。そして人間が魔族と共に快適な生活を行っている姿も。
「はるか北方にございます。どうか人間の手に支配を取り戻したく、お願いに参りました。もちろん魔界の金品領土はすべて頂いて構いません」
ロロが進言する。骸骨の杖は懐に隠してある。なんせ縮小まで出来る便利なものだ。これを見せたら己の存在が死霊術の使い手という事がばれて人間への信頼を失ってしまう。ロロは説得でも魔術がかかっているかのようだ。魅了するほどの言説であった。
「ふむ、進撃する価値はありそうだな」
族長キロは興味ありげだ。
「冬になる前に引き返せばよい。で……だ。お前の望みは?」
「なにもございません。ただ人間の手に大地が戻ることを願うだけです」
(嘘だけどな。魔王の体内にある魔石が目的とは言えんわな)
「しかし、こんな高度な文明を持つ国の攻略なんぞ難しいですぞ」
遊牧民は躊躇する。
「そこでこれよ」
ロロは懐から取り出し掌に載せた。
「これは……ただの砂にしか見えぬが」
キロはこれのどこがという感じであった。
「この砂に爆発魔法をしみこませている。この砂が入った玉に火を付けるとどうなる? 表で見せよう」
騎馬民族が見た光景は強烈な爆発であった。
「魔法が使えなくても、これなら魔族を殲滅できる」
◆◇◆◇
騎馬民族は新興住宅地を襲った。
首を刎ね、犯し、金品を奪い、家々に火をつけた。
エステルは悲鳴を上げた。
爆発魔法が入った玉を次々投げる。弓矢でも飛ばした。次々爆発する。エステルは爆発に巻き込まれ動かぬものとなった。
この爆発は遠くの魔王城からも見えた。
命からがら魔王城に逃げて来た魔族は爆発の光景を見て大地に拳を叩いた。