第三話
闇が支配する地下室。
ここで魔王は水晶に向かって念じていた。
相手はあのメイド、エステルであった。
「うまいことやってそうだな」
闇が蠢く。
「あいつが家燃やしたとかなったら全部計画がパーですからね」
闇は水晶の前で手をかざすると水晶から光が消えて音も消えた。すべては暗黒に包まれた。もっともこの環境でも魔族は周りがよく見える状況なのだが。
「しかしこの射干玉の黒で水晶に向かって念じるとかまさに魔王」
サロは満足そうだ。
「一回やってみたかったんだ~」
「そうですか」
シュクラはやや呆れていた。
「それでは魔法の訓練も終わりましたし……地上に上がりましょうか」
さっ、次、次と言わんばかりの態度だ。
「おう! 電撃の術も氷撃の術もばっちり」
副官がさらに呆れ顔になる。
「シュクラはほかの住民にも魔法伝授だろ?」
「そうです。この暇な時期じゃないと逆に教えられませんからね」
(魔王になって初めて暇になった)
吹雪が収まったので外に出てみた。
宿屋も鍛冶屋も見てみた。貝貨も順調に流通していた。
城内に戻り温室も見てみた。
狭い温室。貴重な野菜である。
城内には訓練場もある。魔王を見かけると一斉に礼をする。
(平和だ……)
(始めて自分は誰にもバカにされずに快適で幸せな人生を手に入れたのではないだろうか)
◆◇◆◇
漆黒に覆われた黒い森の中にふっと現れた者がいた。闇に蠢く者が二名居る。
「サロの動きはどうだ?」
「何もありません。初代魔王のような殺戮衝動はない模様」
黒いフードを被った術師の顔は仮面に覆われて見えない。ただ皮肉そうに笑みを浮かべていることだけは声でわかった。男の声だ。なのに服は巫女の服を着ている。
「だとすると二代目魔王と同じコースかな」
「二代目魔王城の動きは」
「あります。結界石の反応があります」
「やはりそこにいるのか? 初代魔王城の動きは?」
「ありません」
「ないか。すると二代目が居たお屋敷の再建かな?」
「その可能性は大きいかと」
「仲間割れして世を乱して勇者登場というパターンかな?」
「おそらくは。魔族はそんなに倫理観高くないですし」
「ところでロロ……新たしい魔王の仮面、出来上がったぞ」
その声を聴くと術師は啜り泣きのような笑い声を発した。
魔王の仮面がロロの手に渡ると黒いフードを被った術師は転移魔法を唱えふっと消えた。
「ふふっ。いざという時はこれを使うか」
――新しい魔王を作るべきかそれとも我が魔王となって物語を戻すべきか。見定めてもらうよ、サロ
今度は黒く重い笑いを漆黒の森の中で響かせた。




