第一話
とうとう、太陽が全く出ない季節を迎えた。暗夜である。
「温室は作って正解だな」
サロはしみじみと感じた。家族も村人の助けもない。魔族の力を借りなければいくら魔王でも凍死だったかもしれぬ。しかもこの時期に新鮮な野菜が取れるなんてなんて幸せだろう。このうえに穀物庫に穀物や塩漬けの肉を貯蔵してるのだ。飢えの心配のない冬なんてサロにとっては初体験だ。あれ? 魔王生活いいかも?
「はい……サロも栄養は大事にしてくださいね」
副官も満足そうだ。
「しかし窓の向こうは極寒の地とはね」
(魔王の力でガラスを容易に作れるとはね)
「あと地下室も正解だな……魔術の練習場にもなる」
「ええ」
ちなみに地下室に散らばった骸骨は片けさせた上に共同墓地の中に入れた。けど……いずれはサロも人間を喰わないと人間と同じ寿命になってしまう。その時はサロもここで他の者に見られないようにしながら食わないといけない。
(僕は長寿を得て魔王になるべきなのか……それにはもっともっとやるべきことがある。それを成し遂げたら長寿を得て見ておきたい)
「でだ、俺は羽妖精にこんな極楽な場所があると村人に知らせるという案があるんだがどうだろう」
「いいですね」
「あとは人間に夢を見させるとかそういう魔法はないの?」
「暗示の魔法ですか? ありますよ。しかも羽妖精族が覚えます」
「それだ! いよいよ『モデルハウス』が始動するんだね。でも羽妖精が一通り紹介を終えて、そこで魔族登場ってなった時に人間はどういう反応するんだろう」
「未知数ですね」
だよねえ。
「手ならあります。水晶で見つけ出すのです。空に浮かんで水晶で人々の反応を聞くことが出来ます。この天候では出来ませんが」
すげえ、シュクラ。浮遊して水晶から人々の声まで聴くことが出来るのか!
「そこで『助けて』などの声が聞こえてくれば」
「シュクラ頭いい!」
「サロ、さて地下室で新しい魔術を覚えましょうか」
「よっしゃ!」
サロはここで重力(グラビティ―)の呪文などを覚えた。修練を終えて地上に上がる。
「せっかくですからお風呂場にはシャワーも付けませんか?」
「シャワー?」
「蛇口のところに細かい穴がたくさんあるんです。風呂場だけでなく、温室でも使えますよ」
「そりゃいいや!」
こうしてスプリンクラーにシャワーが出来上がった。
「ふむ。こうすれば」
シュクラが蛇口をひねる。なんと人工の雨が出来た。
(魔王ライフってもしかして快適?)
上等の衣服に人工の雨に清潔を保つ洗剤。もしかして村から追い出されて俺、実は正解? なんてサロは思っていた。シャワーを終えるとタオルで拭く。
――幸せ
サロは幸せをかみしめていた。