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第6夜 虹色メガネとロリ少女

前回から久しぶりの投稿となります。

自分の作った世界観を思い出すのに少し苦労しました(笑)。

最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


『次! 61から70番、中に入れ!』


 試験を終え、部屋から出てくる訓練生たち。

 一人一部屋ずつで行われ、次の10人が試験の部屋へと入っていった。


「目隠ししたままなんて無理だろ」


「おれ不合格かも、何回当たったか分かんねぇ」


「やば......終わった、マジで終わった......」


 試験を終えた訓練生たちは、みんなぐったり腰を下ろし、青ざめた顔をしていた。

 順番が30番を越えたあたりだっただろうか......他の訓練生たちの試験の様子を見て、俺は気づき始めていた。


 ――いかにこの試験が過酷なものかを。


「ヤミ、これヤバくないか?」


 俺は不安を少しでも和らげようと、ヤミに話しかけた。


「おれ、避けられる気しないんだけど」


「――え? どうしてだ? 当眞(とうま)なら大丈夫だろ」


「え??」


 ヤミの返ってきた反応に、俺は困惑した。


「大丈夫......って、どういう意味だよ」


「そのままの意味だけど......?」


 いやいや、何を根拠に俺が大丈夫なのかを聞きたかったんだが......。


 だって、おかしいだろ。

 俺とヤミは訓練学校が違うし、俺の実力は分からないはずだ。

 他の学校に広まるような実力も活躍も俺にはないし、この試験を合格できる確信は得られないはずだ......。


 それなのに、ヤミの顔が、どうして分からないんだ――みたいな顔だったから、俺はそれ以上聞くことができなかった......。





 試験の様子は、10面のモニターで見ることができた。

 レーザーは1秒に10カ所以上も同時に放射されている。試験時間が短いとはいえ、運悪く、2カ所のレーザーを同時に1分間当たり続けたら、120回......。


(俺の番号は205番か......)


 試験までまだまだ時間はあるが、何の対策も浮かんでこない。

 この厳しすぎる試験の内容に、俺の思考は完全に停止させられていた。


「合格するには何回まで抑えればいいと思う?」


「う~ん......とりあえず2――」


「200以内に抑えれば合格圏内ですね」


 ヤミとの会話に入ってきた別の声――


「急に話かけてすみません。 誰かにアウトプットしないと情報の整理ができない性格でして」


 くいっ――と眼鏡を上げて、マッシュヘアーの訓練生が早口でそう言った。


「な、なんで分かったんだ?」


 困惑しながらも、俺の口は質問の言葉を放っていた。


「例えば彼――」


 少し離れた訓練生を指さした。

 腕の腕章(わんしょう)には10番――と書かれている。


「彼の当たった回数は292回です」


「に......っ!?」


 予想外の数に、10番の訓練生を二度見した。


「彼は221回、彼は240回、彼女は290回――」


「ちょちょ、ちょっと待て!!」


 淡々(たんたん)と話すマッシュヘアーにストップをかけた。


「なんで当たった回数が分かるんだよ! 試験官は言ってなかっただろ!?」


「僕は計算が得意なんです。 一応全員分計算して、記憶しています」


 なんつー人間離れした計算力と記憶力なんだ――と俺は目を見開いた。

 けどそれよりも――


「僕の計算では、今まで試験を行った訓練生の中に、200回以内の者は一人もいない。 ですが、まだまだ試験を受ける訓練生は残っている。 保険のためにも、200回以内に留めないと合格は難しいと見ています」


(なんで......なんで眼鏡のふちが虹色なんだコイツ!?)


 特徴が強すぎるその眼鏡が気になり過ぎて、話が全く入ってこない......。


「それに、特別な身体能力がない平凡な訓練生も、後ろの順番なら、何か対策を考えて挑んでくるかもしれませんし、油断できませんよ」


 違和感がでかすぎて逆に感じな......いや、それはないか。

 大人しそうな見た目の割に、眼鏡に個性全振(ぜんふ)りしているのかコイツは――。


「......あんた、なんで眼鏡のふちが虹色なんだ?」


 喉元まで出かかっていたその言葉を言ってくれたのは、ヤミだった。


「これですか? これは話題作りのためです」


「「ワダイヅクリ?」」


 マッシュヘアーが、間髪(かんぱつ)入れずに答える。


「そうです。 正直に言いますが、僕には友達がいません」


 おぅ......急に切ない話ぶち込んできたな。


「なので、少しでも相手に話しかけてもらえるように、この眼鏡をかけているんです。現にほら、あなたはこの眼鏡について聞いてくれたでしょう? これは私の作戦通りということになります」


 今まで友達がいなかったのは、その眼鏡のせいでは......。

 それに、カラフルな眼鏡には驚いたが、眼鏡の話題では会話に限界があるだろうに......。


「そ、それよりも聞きたいんだが――」


 俺は会話が途切れる前に、話題を変えることにした。


「どうして合格基準が分かったんだ?」


 眼鏡に気を取られていたが、さきほどの話で、頭に強く残っていた疑問を投げかける。


「60人受け終わった現状、200回以内の奴は今のところいるのか?」


「......私の見たところ、5人ですね」


「やっぱり。 こんな難しい試験、そう何人も200回以内で抑えられるやつなんていないだろ。 俺的には250回以内で抑えれば――」


「甘いですね。 訓練生の中には信じられない身体能力を備えている人がたくさんいる。 そんな考え方だと不合格になりますよ」


「うぐ......」


 何も言い返せない。

 痛い所をつかれてしまった......。


 言われてみれば、確かにそうだ。

 俺は周りの訓練生のことを全く知らない......。

 合格の基準がどのレベルなのかも分からない......。


 今の俺はこの中だとどれくらいの位置にいるのだろうか......。

 真ん中、下の方、それとも最下位に近い位置にいるのかもしれない。


 訓練学校にも身体能力がずば抜けている奴らはいた。そいつらに勝てないのは仕方ない......。

 だが、さっきこいつが言っていた通り、俺みたいな普通の訓練生も、このまま無策――ってわけじゃないだろう。


 ――200回以内に留めればいい。

 ――合格圏内に入れればいい。


 こんな心構えじゃだめだ。


 ――絶対に合格してやる。


 ここにいる訓練生全員が合格のために必死になってるんだから。

 そう思って挑まないと......。


「あんた、名前は?」


「......僕? リン=シュンです」


「ありがとうリンシュン、おかげで色々気づけたよ」


「あ......はい、リンでいいです」


 リンの話を聞かなかったら、気の緩んだまま試験に臨んでいただろう......。

 俺は感謝の意も込めて、リンと軽く握手を交わした。


「そうか......200か」


 微かに、ヤミのつぶやきが耳に入った。


「ヤミ? どうした?」


「あ、いや、なんでもない――」


「そこ、どいてくれないかな?」


 またもや突然、別の声が入ってきた。


「そろそろ僕の出番なんだ」


 目を向けると、そこには小柄な体で、俺たちをムスっとした顔で見上げている少女がいた。


「......なんで中がく......小学生がいるんですか?」


「ほえ?」


 リンの質問にその少女はキョトンとした。


「試験を受けに来ていいのは、高等部からなのですが――」


「な......っ!!?」


 すると少女の顔が一瞬にして真っ赤に染まり――


「僕は! 高等部! 2年生だぁああ!!! 人を見た目だけで判断するなぁああああ!!」


 リンを強く押しのけ、試験部屋へと入っていった。


「私としたことが、失礼なことを......まさか高校生だとは」


 リンは反省の色を顔に浮かべ、モニター画面に映る少女の姿をじっと見た。


「戻ってきたら謝らないといけませんね」


 俺も小学生とまではいかないが、中学生だと見間違えてしまった――ってことは、口に出さないでおこう......。

 しかし、あの顔と身体つきで高校生だなんて、信じられないな。



『全員入ったな、それでは......』


 10面のモニターをさっと見回す......。

 他の訓練生と比べると、さっきの少女の小柄さがより際立(きわだ)って見えた。


『始め!!』


 試験官の合図とともに、機械の低い起動音が鳴る。

 10人の試験が始まる中、俺はあの少女を注視して見ることにした。





 ――圧巻(あっかん)だった。


 この少女の動きは俺たちの想像をはるかに上回っていた。


 そう、緩急(かんきゅう)だ――。

 他の訓練生と明らかに違う点。

 試験中はずっと全力疾走で動いていた奴は何人もいた。だが、この少女は動きにはっきりと緩急がついていた。


 ゆったりとした体の移動――からの、素早い走り出し。

 もう止まらない――と感じてしまうほどの速度で回避していたが、『流れ』を完璧にずらす急停止。

 動きを注視して追っていたというのに、俺の目は何度も(だま)された......。


 普通、あの速度で動いていれば、前に動く力が強く働いているはすだ。急には止まれない。

 それなのに、少女はそれまでの速度を完全に殺し、動きをビタッ――と止める。

 そして、自分の小柄な体を上手く活かすため、常に姿勢を低く保ち続けていた......。

 彼女は自分の長所をよく理解しているんだ――。


(す......すげぇ)


 1分間という短い時間でも分かるレベルの高さ――この少女の回避能力は、周りの訓練生に比べて頭一つ抜けていた。






「み、見たかぁ......。 お、お前とはぁ......き、鍛え方がぁ......ちぃ......違うんだよぉお!!」


「きみ、まず呼吸を整えた方がいいんじゃないか?」


 試験を終え、リンに向かってドヤ顔をぶつける少女――をいったん落ち着かせる。


「こ、この僕を子供扱いしたんだ! 今すぐ僕に――」


「すみませんでした」


「......ほえ?」


 リンは綺麗な角度で頭を下げた。


「きみの言うとおり、人を見かけだけで判断するのはよくなかったです。 本当に......すみませんでした」


「あぇ......ええと......」


 素直な謝罪をしてきたことが意外だったんだろうなぁ......。

 分かりやすく動揺している。


「......わ、分かればいいんだよ! 分かれば!」


 そう言うと、ふんっ――と腕を組んでリンから顔を背けた。


「......と、ところできみ、すごいな! あの身のこなし、絶対合格だろ!」


 タイミングを見て、俺は少女に声をかけた。


「え? 僕すごかった!? えへへへ~」


 頭を恥ずかしそうにかく少女。

 さきほどの試験の疲れを感じさせない満面のにやけづらだった。


「メリー!」


 少し離れた所から声が鳴った――。


「......っ!!? ヤミ先輩!!?」


 声をかけてきたのはヤミだった。

 それに気づいた少女が脱兎(だっと)のごとく、ヤミに走り寄っていった。


「久しぶりじゃないか! 元気だったか!?」


「はい! 元気でしたよ! ヤミ先輩こそお元気そうで何よりです~!」


「せ、先輩??」


 俺は何が何だか分からず、ヤミと童顔の少女が楽しそうに会話を弾ませているのを、しばらくポカンと見ていた......。



 ひと通り話し終えた後、ヤミは少女のことを紹介してくれた。


「こいつはメリリス・ラヴィット、俺はメリーって呼んでる」


「メリリスです! どうぞよろしくお願いします!」


「よ、よろしく」


 俺はメリリスと軽く握手をした。


「俺とメリーは、同じ訓練学校に通っていたんだ」


「ヤミさんと同じというと、あの『カルマ訓練学校』のことですね」


「えぇ!!? カルマってあの!!?」


 驚きのあまり、俺は声を上げた。


 世事(せじ)(うと)い俺でも名前ぐらいは聞いたことがあった。

 優秀な生徒が多く、毎年パージスト入隊試練で500人近くの合格者を出している、数ある訓練学校の中でも、最高峰(さいこうほう)の訓練学校。


 まさか......ヤミがそこの訓練生だったとは......。


「最近全然学校に顔出さなくなって寂しかったんですよ! また昔みたいにご指導してくださいよ~!」


 メリリスは拳でヤミの肩をポカポカ叩いた。


「アハハハハ、悪いわるい。 でも、俺が見ない間にめちゃくちゃ成長してるじゃないか! すごいな!」


「えへへへ~! そうなんですよ! だからほら、ヤミ先輩! いつもみたいに、なでなでしてください~!」


 ずいっ、と差し出される頭。

 ヤミはやれやれ、という様子でメリリスの頭を撫でた。


 なんだか主人に甘える子犬みたいだな......。


「確かにカルマ訓練学校の訓練生であれば、あの動きも納得ですね」


「てか、なんでリンがヤミの通ってたとこ知ってるんだ?」


「ヤミさんは僕ら同世代の訓練生の中では超有名人ですから」


 そんなにすごいヤツだったのか、ヤミって。

 おれ、全然知らなかったんだけど......。


「そ......そうだったのか」


「良い意味でも、悪い意味でもね。 有名よ、その人は」


 視界の外から声がした――。


 振り向くと、腕組みをして壁に寄りかかっている少女がいた。


 キリっとした目つきでこちらを見ている。

 なんだかピリピリとしたオーラを出し、とても近寄りがたい感じがした......のだが――


 ポニーテールでまとめられた彼女の綺麗な赤色の長髪に、俺は目を奪われていた。


読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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