第4夜 それぞれの理由
外伝、4話です。それでは、どうぞ!
中等部でも、高い才能を発揮していたヤミ。
彼は高等部一年の頃、自分なら通過できるだろうと高を括り、試練へと挑んだそうだ。
――結果は最終試練を前に棄権。
二次試験で怪我をしてしまい、その状態では最終試練は突破できないと判断したのだ。
周りから期待されていた分、試練を通過できなかったという事実が、重く自分にのしかかり、去年は試練に挑もうと思えなかった――そう話してくれた。
心が折れ、頼れる存在もいない。けれど――
もう一度、試練へ挑み、今度こそ恐怖を――そして自分自身を乗り越えて、周りに認めてもらおうとヤミは奮い立った。
環境を変えるには、自分が変わるしかない。彼はこう言った。
俺と大我はその話を聞いて、涙が出そうになっていた。
優等生が痛い目を見ることに、「いい気味だ」と思う奴もいるだろうが、俺たちはそうは思わなかった。
第二試練まで乗り越えられたヤミの実力は本物だと思うし、並みの覚悟なら試練で命を落としていただろから……。
それに、試練を受けられなかった1年間――ずっと息苦しかったのだと想像すると、胸が痛くなる。
こんな苦しい道を歩んできた――しかも人柄のいい奴のことを疑ってしまったなんて――
「やみぃぃ……おまえ、がんばってきたんだなぁぁ,,,,,,」
大我がヤミの肩をつかみ、涙を浮かべながら賞賛した。
「一緒に、試練乗り越えようなぁぁ~!」
俺もヤミの手を掴み、がっしりと握手を交わした。
「お、おう。 頑張ろうぜ……」
「ほらレオ! 早く謝れよ!」
大我がレオを睨みつける。
このままだと、めんどくさくなりそうだった。
だから早めに折れるよう、俺もレオに目配せすると――
「分かったって! ったく。 まぁ……疑って悪かったよ」
「お前、もう少しちゃんと謝れよ!」
「う、うるせぇ! なんで俺がお前に怒られてんだよ! 今度お前が寝坊しても、もう助けてやんねぇからな!」
ヤミは別に気にしていないといった様子で、その後も俺たちに試練の情報を提供してくれた。
ホントに悪いことをした。
きっとヤミは、疑心暗鬼の環境に慣れているのだ。
だから、俺たちの疑いも綺麗に水に流してくれた――そう感じた。
■
食堂で説明会(二次会の)を終えた俺たちは、その後、各自部屋に戻って休んだり、トレーニングルームに行ったり、自由行動を取った。
明日からは、現役のパージストによる指導や、パージストの武器「光兵器」の実践的な扱い方、精霊との契約などが始まり、忙しくなる。
『精霊との契約』――
「光兵器」に組み込まれている『ルミナエネルギー』には、精霊の力が宿っている。
その力を上手く扱えるように、精霊との同調を図り、武器と自分を適合させる必要があるのだ。精霊との契約は、その第一段階――そう授業で教わった。
適合率を測ったり、力を安定させる方法をこれから行うが、上手く武器を扱えるか不安な気持ちと、どんな技や武器を修得できるか楽しみでもある。
一応、訓練学校では様々な武器の扱いを学んではいたが……俺が得意なのはやっぱり剣かな。剣に宿る精霊と適合があるといいな。
などと考えながら、明日からの厳しい試練期間前、最後の自由時間を、のんびりと過ごしていった――
あっという間に夜になり、俺たちはヤミを部屋に招待して、試練への士気を高め合うことにした。
「かんぱーい!」
お菓子とジュースを囲みながら――
「大我、明日から忙しくなるし、さすがに今日は早く寝ろよ」
「分かってるって~ 遅くても夜の三時までにするって~」
「それ早く寝てないよね!? え? なに? 早いと思ってんの!?」
「あははっ、ホント面白いな大我は」
その後、自分たちの出身から始まり、好きなことや恋バナに至るまで、お互いに色々な話をした。
大我のアイドルの話には熱が入り過ぎていて、ついていけなかったが……。
盛り上がりも静まってきた中、大我がふと思い出したように口にした。
「そういえば、みんなはどうしてパージストを目指そう、って思ったんだ?」
その問いに、俺、ヤミ、レオの三人が「うーん」と考えていると、大我が話し始める。
「俺は特に理由はない。 『このご時世、男なら兵士になれ』って父親に無理やり押し付けられた感じだ。 ホントはのんびり民間にでもいって普通に暮らして、アイドル追っかけていたかった――ってのが本音だな」
「確かに、お前にはお似合いの生活だったかもな」
「な! でも……人類にとって、本当にシャドウの存在は、脅威なんだなって、訓練学校で強く感じちゃってさ。 だから早くシャドウをみんな浄化して、アイドルが思い切って夜でも野外でもライブができる世界にしたい。 そう思ってパージストを目指したんだ!」
「そこからアイドルに繋がるとは、俺思わなかったな」
「なんか、途中まで感動的な話だったのに……。 普通にそこは『人々が平和に暮らせる世界にしたい』でいいだろ」
「アホ大我」
「おいぃ! 最後のは単純に悪口だろ! だったらお前はどうなんだよ、レオ! お前こういう話しないから、この機会に話しとけよ」
「一回話したろ」
「え? マジ?」
やれやれ、と首を振るレオ。
でも、話そうとする直前にレオのまとう空気が切り替わったのを感じた。
「影を取られた人間の親族を見たことがあってな。 それが印象的で、目指すきっかけだった。 殲滅派によって駆除されれば、影を取られた人間が助かる可能性は、かけらもない。浄化派なら影を取られた人間を救える――それを知って、浄化派のパージストを目指した。 以上だ」
実際に、その親族の悲しむ姿を見たってことなのかな。
レオにも色々ありそうだが、「以上」って言ったのであれば、今は深い詮索はしなくていいだろう。
「俺は、親が殲滅派のパージストで、自動的にパージストを目指す宿命だった。 浄化派を選んだのは、影を取られた人間を見捨てず、助ける力をつけたいと思ったからだ」
ヤミも迷わず、話してくれた。
「当眞は?」
最後に、俺の番がきた。
俺は持っていた残りのジュースを飲みほしてから、口を開いた。
「助けたい人がいるんだ……小さいころ影を奪われて、今も施設で身体だけ保護されている。 そいつの影を取り返すため――ってのが理由だ」
「そうだったのか……」
パージストを目指すきっかけは人それぞれ。
自分と同じような理由でパージストを目指す者も多いだろう。
――だから、同情なんかはいらない。
俺よりもずっと苦しい理由がある奴もいるだろうから。
俺はもっと強くなって、あいつの影を取り返す。
何があっても突き進む。
そう決めたんだ――
それぞれの――パージストを目指す理由を話し終えた後、明日に備えるために、懇親会はお開きになり、ヤミと解散をした。
その日の夜、俺とレオは全力で、大我のアイドル鑑賞会を止めさせ、早く寝るよう説得した。
あんなこと、もう二度とごめんだ――
嫌々ながらも、なんとか承諾した大我を床に就かせ、俺は部屋の電気を消したのだった。
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