第3夜 説明会は同居人と......それから
第三話目です。それでは、どうぞ!
「――というわけで、ぐーすか居眠り決め込んでた馬鹿野郎のために、説明会の二次会を開こうと思う」
「よっ! 」
「『よっ!』じゃねぇよ!! 誰のためのに開いたと思ってんだっ!」
説明会を終えた俺たちは宿舎に戻り、食堂で昼食を取っていた。
「いや~、マジですまんな! 朝は弱くてホントにダメなんだよ」
結局、説明会中ずっと寝ていた大我は、俺たちに『説明会で何を話していたか教えてほしい』と泣きついてきた。
レオはそんな大我を払いのけ、『自業自得だ』と見捨てる姿勢だった。
でも、俺がどうしても見過ごせないことを伝えると――仕方なくという様子だったが、一緒に説明会に付き合ってくれた。
「俺はいい友人を持ったよ」
「俺にとっては真逆だよ」
そう言うと、レオは少しイラついた様子で、注文したラーメンを食べ始めた。
俺と大我も頼んだ品を口へと運ぶ。
あと、もう一人も――
「ていうか――なんでお前がいるんだよ、ヤミ!」
レオが指の代わりに箸を向けた。
「なんだか心配だったんでな。 ついてきたんだよ」
「さすが優等生は違うな。 俺は他人の心配なんてする余裕ないっていうのに……」
ギリギリで説明会に来たり、一人は寝ていたし――そんな俺たちのことが心配だというヤミは、一緒に説明会の二回戦に参加したいと言い出してきたのだ。
聞くところによると、ヤミは通っていた訓練学校を学問・実技両方とも成績がずば抜けており、高等部一回生の時点で『試練を通過できる』と噂になっていたのだという。
いわゆる天才だ。
親もすごいパージストなのだとか。
そんなやつが一緒に大我に説明してくれるのだから、心強い。
俺も、少し眠気に襲われて話を聞き逃していた部分もあるし、ヤミからの話は非常に助かりそうだ。
「情報を共有できる仲間は必要だぜ? それに苦難を共に乗り越えられる存在は自分を強くする」
「確かに、こいつの行動は、俺の忍耐力を強くしてるかもな」
皮肉交じりに言葉を投げるが――
「まぁ、こいつのこういうことは、今に始まったことじゃないし、今更愚痴っても仕方がない、か」
レオもなんだかんだ付き合いがいい奴なのだった。
■
昼食を食べ終え、今日配布された資料とメモをテーブルの上に広げる。
「まず試練の日程からだ。 最初の第一試練【黒門】は1週間後、午前8時から始まる。 試練の進み具合もあるが、全員が試練を受け終えるのに、1週間程度かかるらしい」
「結構、長いんだな」
「今年の参加者は1万1830、例年よりちょっと多い。 時間はかかるが、その分俺たちの出番まで対策や訓練ができそうだ」
第一試練が終わると、その1日後に第二試練【闇島】が始まる。
終わってから次の試練の間隔が短いので、第一試練が終わってから二次試練の対策をしても間に合わない作りになっていた。
俺的には早めに第一試練を終えたい。
そして、次の試練の対策をして、余裕を持って挑みたい気持ちだ。
「二次試練は3日間行われ、その1週間後に最終試練が行われる」
「二次と最終試練の間隔が長いのは何でなんだ?」
「圧倒的に厳しい試練だからだ」
大我の質問にヤミが即答する。
「最終試練は一次や二次と比べ物にならない過酷なものだ。 対策と訓練をしっかりやらないと絶対に乗り越えられない」
「へぇ~、ヤミ詳しいんだな」
やはりヤミは頼りになる存在だ。事前に色々情報を持っていたのかもしれない。
「その過酷な最終試練とやらだが、1日で終了する――と書いてある」
「最も厳しい試練が、他のどの試練よりも短い期間、か……」
俺はそこに、得体のしれない恐さを感じた。
「日程はこんな感じか……次に内容だが――」
レオがヤミの方へと目を向ける。
「これはヤミの方が知っているようだから、説明は任せてもいいか?」
「え? あ、あぁ了解だ」
レオからバトンタッチし、今度はヤミの説明に入る。
「俺から長々説明するのもあれだから、今日渡された資料に内容書いてあったし、いったん目を目を通しておこうぜ。 大我は初めて知るわけだしな」
「おぅ! 分かった!」
大我以外は全員、内容はもう説明されたが、今一度全員で確認する。
◆ ◇ ◇
入隊試練1【黒門】
試練達成条件:低い天井と壁に囲まれた、暗闇の巨大迷路から脱出すること。
概要→出口は3つ用意されているが、正解の出口は一つ。うち2つは罠の出口であり、開けてしまうと大量のシャドウが解き放たれる。
なお、時間が経つにつれ、遅効性の神経毒が霧状に迷路内へと流れてくる。個人差はあるが約15分ほどで身動きが取れなくなる。
入隊試練2【闇島】
試練達成条件:朝の訪れぬ広大な無人島で、3日間生き延びること。
概要→無人島には大量のシャドウ(脅威度Cランク以上)が潜んでいるが、B以上のシャドウとの戦闘は「駆除」ではなく、「浄化」することを求める。
なお、訓練生には事前に3日分の水と食料が配られる。
入隊試練3【浄化作戦】
試練達成条件:脅威度Bランクのシャドウの影へと潜り、浄化または脱出する。
概要→浄化ができなくとも、影の中から生きて生還できれば、合格と見なす。
なお、この試練は自分自身を含めた10人+オペレーターで一つのチームとし、行うこととする。
◇ ◇ ◆
「何か疑問があれば、答えられる範囲で俺が答えよう」
「第一試練でシャドウが出てくるらしいけど、これ、強さってどんくらいなんだ?」
「まだ、人間に寄生できていない弱いシャドウだ。 だが、油断はできない。 暗闇で何も見えない状態での戦闘は、寄生型の弱いシャドウでも厄介だ」
寄生型は、人の形をしたモヤのような見た目で、体中から影を伸ばして攻撃してくる。
ただ、パージストの武器――光兵器で一撃で倒すことができる。個体差はあるが動きは鈍く、知能もないに等しい。
あまり脅威を感じない存在だが、何も見えない暗闇の中で、ちゃんと戦闘できるのか少し不安だ。
それに――
「出口が3つあるらしいけど、どうやって正解の出口を見分けるんだ? 暗闇なら目では判別できないぞ?」
俺はもう一つの不安要素をヤミに質問してみた。
「音だ。 形は全部同じで、手でも確認できない。 門に耳をつけて、耳をすませばシャドウのうめき声が聞こえてくるはずだ」
「そうか音か!」
俺はすぐさまメモを取った。
「ヤミ先生! なるべく安全にクリアするコツとかってありますか?」
「うーん、そうだな~。 とりあえず、迷宮内は暗くて何も見えない。 すぐ迷うし、毒が体に回ると頭が働かなくなる」
それを聞いて、第一試練とはいえ、厳しい試練だと想像ができ、ゴクリと唾を飲み込む。
「呼吸はなるべく回数を抑えて、乱れないように。 シャドウと遭遇しても常に冷静に戦うこと。 大丈夫あいつらは前に武器振っていれば余裕だから。 あとは肝心の門までの道のりだけど――」
「「だけど?」」
俺と大我の声が重なる。
「スタートとゴールが迷路の外周上にあるから、左手で壁を伝っていけば、簡単に門を発見できると思うよ」
「うぉぉ! そんな方法があるのか!」
俺はメモを急いで取った。
すごいぞ。ヤミから有益な情報が次々出てくる。
ヤミと一緒なら対策も立てやすくなるし、試練を乗り越えられる確率が上がる。
「なんかそれ聞いたことあるぞ! 本かなんかで読んだことあるぞ!」
大我も興奮しながらメモを取っていた。
「なにも見ずによくトントンと話が進むな」
俺たちの興奮を一気に冷ますように、冷静な口調でレオが口を開く。
「その情報、信用できるのか? 俺たちに嘘の情報を流していないと断言できるか?」
「おいレオ、そんなこと言うなよ」
「いいか、当眞。 情報ってのは、今の俺たちにとっては命綱並みに貴重で、かなり重要なものだ。 信用していい情報とそうでないものは、見切りをつけないと、試練で命を落とすことになるんだぞ」
「それは――」
「探りを入れようとお前に説明させていたが、俺も知らないような、試練の内部までの情報を持っているし。 俺はこのままヤミを信用するのは危険だと考える」
確かにそうだ。
俺も大我も、初めからヤミがいい奴だとばかり思っていたから、「疑う」ってことを頭に入れていなかったのだ。
もしヤミの言っていたことが嘘の情報であれば、ヤミの言った攻略方法に気を取られて、別な方法に視点が向かなかった――なんてことも起きかねない。
そうなってしまうと、情報を鵜吞みにした俺たちは試練痛い目を見ることになる。
レオの言っていた通り、命を落とすことだって――
「ヤミ……どうなんだよ。 信用していいのか?」
ヤミは何か考えているようで、なかなか口を開いてくれなかった。
訪れる沈黙が、ヤミに対しての疑心を次第に募らせていく。
大我も不安になってきたようで、ヤミに問いかける。
「おいヤミ、いい加減話を――」
「分かった分かった。 話すよ」
そう言ってため息を一つした後、重そうな口をヤミは動かし始めた。
「実は……俺は一回生の頃に一度、試練に挑んでいるんだ」
読んでいただき、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。