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第2夜 揺るがぬ意志

外伝、第二話です。最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

 

「ほら! 立って歩け馬鹿野郎が!」


 朝7時からの説明会が行われる会場に向けて、俺たちは走っていた。


「まさかあんなに時間を食うとうは思わなかった!」


 寝ている大我を抱えながら――



 こいつが昨日、何時ごろまで起きていたのかは分からない。

 でも、こいつの独り言とたまに叫ぶ声のおかげで、なかなか寝付けず、俺は寝不足気味だった。耳栓をしていたにもかかわらず――だ。

 レオのおかげで起きることができたが、身支度とこいつを着替えさせたりしていたら、もう集合の時間ギリギリ。


「やべぇ、このままだと遅刻するぅ!」

「焦るな当眞、まだ希望はある! パージストを目指す者なら、希望は最後まで持つものだ!」

「そんなかっこいい感じの言葉、こんな場面で使うなよ」


 大事な説明会だというのに、遅刻なんてしたらシャレにならないぞ。

 試練受けさせてもらえなくなったらどうすんだよ――


 必死に足を切らし、息を切らし、俺は幸先の悪い試練期間を迎えようとしていた。



 ■



「な、何とか間に合ったけど、受付のパージストに白い目で見られてたな」


「うつむいてるやつ一人抱えた二人組が、汗だくで、しかも時間ギリギリで来たらそりゃ、あんな顔するわ……ったく」


 全然起きる気配のない大我を席に放り投げ、俺たちも席に腰を下ろす。


「悪いな、こいつのこと説明不足で。 次はもっと早く起こすよ」


「いや、まずこいつの生活習慣を直すべきだろ」


 息を整えながら、辺りを見回す。


 会場内には大勢の訓練生がすでに席についていた。当たり前だが――


 内部は円形の巨大な劇場のような作りになっており、大きく訓練生の話声が反響していた。

 一階から三階まで座席があるようで、ざっと見た限り、一万人くらいはいそうだ。


「お前らすごい息切らして来てたけど、大丈夫か?」


「えっ? あ、あぁ大丈夫だ」


 大我を真ん中に座っていた俺たちに、突然、隣のやつが声をかけてきた。


「俺はヤミ、よろしくな。 もうすぐ説明会始まるけど、そいつ起こさなくていいのか?」


「いいんだ、気にしないでくれ。 後で俺たちの口から説明するから」


 レオがこちらに頭を覗かせてそう言う。


「そうか……ならいいんだが」


「心配ありがとう、よろしくなヤミ」

「おう」


 ヤミと名乗る隣人と握手を交わしていると、アナウンスが鳴る。


『間もなく、説明会が始まりますので、訓練生の皆さんはご静粛に願います』


 反響を繰り返していた訓練生たちの話声が次第に小さくなる。


 会場の前にある大きな壇上に、誰かがまっすぐ歩いているのが見えた。

 その少し上には、巨大なモニターが設置されており、どの座席からでも壇上の様子が見えるように映し出されているようだ。


 立ち止まる二人。

 一人は横で待機し、もう一人は壇上に上がり、用意されていたマイクのスイッチを入れた。


「訓練生の諸君、初めまして。 私は君たちが今から入隊試練を受けようとしている、ラディウス中央本部、最高司令官の一人である、アルバート・ステイ・ホープスだ」


 整った髭、凄まじい目力、はきはきとした口調で堂々とした態度。

 どこを見ても「威厳」が感じられ、まさに彼の立場を表している、そんな印象を受けた。


「さて、私からは試練を受ける君たちに、激励の言葉を投げかけるわけだが……ここで一つ確認しておかなければならないことがある」


 その言葉の後、巨大モニターには「720」という数字が映し出された。


「この数字がなんだか分かるかね?」


 いきなりそんなこと聞かれても――なんだろ。


「去年行った試練での負傷者とか……かな?」

「いや、おそらく――だ」

「え?なに? もういっかい――」


 ヤミに聞き返すよりも早く、ホープスから答えが出される。


「昨年度行った兵士部門での試練通過者だ」


 それを聞いて驚愕した。


 ラディウスには技術部門のエンジニア、指揮部門であるオペレーター、そして兵士部門であるパージストがいる。中央本部以外にも、支部がいくつもあるが、本部の兵士部門では毎年、1万人以上は試練を受けているという話だ。

 しかし――


(多く見て1万5000人ぐらい受けるとして、通過者が720だとすると、え……っと、100人中5人しか通過しなかったってことか!?)


 720人――


 いかに試練が過酷なのかが改めて分かる数字だった。


「諸君らも知っているだろうが、現在、ラディウスには『殲滅派』と『浄化派』の二つの派閥があり、我々はその『浄化派』にあたる組織である。 組織が分裂していても同じラディウス。互いに協力し、シャドウに対抗すべく、日々任務に臨んでいる。 しかし――」


 モニターが移り変わり、シャドウの生態データが表示された。


「大きな相違点として、二つの組織はシャドウへの対処方法が異なる」


 シャドウは、人の影を喰らう。

 影を失った人間の魂も、そのシャドウに奪われることになり、奪われた人間は、まるで人形のように動かなくなる。


 でも、それはまだ死んでない状態――


 シャドウの内側――深影(アビス)に入り、内部から浄化すれば、奪われた人間の影を取り戻すことができるのだ。


 しかし、どのシャドウの深影にも、想像を絶する強さ・脅威を持つクリーチャーが潜んでいる。それが、真のやつらの正体なのだ。

 シャドウの脅威度は強い順から、C、B、A、S、SS(ツーエス)Z(ゼータ)となるが、深影(アビス)のクリーチャーは、脅威度が一段階上がる。まぁ、C級に深影はないから、簡単に浄化できるが……他のシャドウは深影に潜らなければ、影を奪われた人間を助けることはできない。


 そして、多くのパージストが深影で戦深影(アビス)死している最大の理由は――


 そこでは、何も見えないからだ。


 見渡す限りの闇、闇、闇。

 何も見えない闇が広がっているからだ。


 しかも、シャドウごとに深影(アビス)は形を変える。

 住宅街らしいものもあるが、遺跡のような作りになっているという話も聞いたことがある。


 浄化派のパージストたちは、自分たちにとって圧倒的に不利な環境で、シャドウと戦う。だから、負傷者・死者が圧倒的に多い。


 反対に、殲滅派は、そんな危険を冒してまで、人間を助けることをせず、取り込まれた人間の影ごとシャドウを駆除する。

 兵士を大量に失ってしまえば、一般市民を守る者が不足してしまうし、シャドウに影を奪われた者は、外出制限を守らなかったり、保護区の管轄外の都市にいたと判断し、自業自得とみなす、という方針なのだ。


 シャドウをそのまま駆除すると、そのシャドウが奪ってきた全ての影も一緒に消滅してしまうことになる。


 その事実がラディウスを二つの組織に分裂させたのだ。



 ホープス司令官の話は、そのことについての説明で、俺は授業で習ったことと、頭で照らし合わせながら聞いていた。


 そして、人通り話し終えると、彼はこう言った。



「いま一度問おう。 試練を乗り越える覚悟はあるのか?」


 会場内に緊張の空気が漂っているのが分かった。


「ここにいるということは、もちろん、試練を受けに来た者たちだろう。だが、試練の内容は君たちが想像している物よりずっと過酷だと私は思っている。殲滅派の試練よりも、他の浄化派の支部よりも、だ。死ぬ者も多いかもしれないな。ゆえに我々は、君たちが試練の途中でリタイアしても、今から受ける試練を殲滅派の方に変えてもらっても、何も責めはしない」


 俺はホープス司令官の話を聞きながら、自分の決意を改めて確認していた。


 本当に試練に挑む覚悟があるのか――


 死ぬ確率が極めて高い浄化派で、パージストとしてシャドウと戦う決意は変わらぬか――



 ――変わらない。変えられない。


 俺には、助けたい人がいる。その目的は、殲滅派や他の支部では達成できない。

 そう考えて、俺は中央本部――浄化派のパージストを目指してきたんだ。



「それでも、君たちの心が硬く、変わらず、試練へ挑む意志が揺るぎないというのならば! 我々は敬意を払い、最大限の補助を行うつもりだ!」


 自然と俺は、拳を堅く握りしめていた。


「この中から、絶望の闇に希望の光を灯し続ける者が、現れることを祈っている。私は君たちを待っているよ」


 どんな試練だろうと――絶対乗り越えてみせる。

 ホープス司令官の言葉を受け、俺は心の中で、試練へ挑む意志を大きくしていった。


「君たちに、光の加護があらんことを……。私からは以上だ」


 ホープス司令官の話はそこで終了した。



 彼は壇上から降り、訓練生の前から立ち去っていった。

 それを見届けると、今度は横で待機していたもう一人の女性が壇上に上がり、話を始めた。


「それでは次に、私の方から試練に関する具体的な説明をさせていただきます。 まず――」


 横でまだ小さな寝息を立てている大我に呆れながら、俺は説明で重要そうなところをメモするのだった。


読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。。

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