第13夜 その落差に落胆
今回は久々にルームメイトの2人が出てきます。
(久々すぎて、どんなキャラ設定にしてたか思い出しながら書きました汗)
13夜
「当眞......お前よくそんな試験に合格できたな......」
あの試験から翌日――
俺は大我とレオに昨日の出来事について話していた。
「だよな! 俺なんかが受けたらぜってぇ落ちてた! お前すげぇよ!」
今日のスケジュールは、午前に精霊とのシンクロ率測定と契約、午後は夕方まで訓練。
今はそのシンクロ率を測るため、列に並んで順番を待っている。
「大我たちのところも試験的なことしたんだろ? どうだった?」
「当眞ほど過酷な試験じゃなかったが、俺たちの方も100人単位で落とされてな。 俺も大我も危なかったよ」
「あぁ、落ちてもおかしくなかったぜ......」
2人の表情が、その試験の過酷さを物語っていた......。
風の噂で聞こえてきた――もう3000人以上不合格になって、一次試練すら受けられない状況らしい。
(ホントに合格できるのかよ......)
自分が思っていた以上に、パージストへの道は険しい......。
「ところで――」
思い悩んでいたところに、大我が口を開いて――
「今朝からずっっと気になってなんだけど、この子......だれ?」
やっぱりきたか......。
俺たちの視線が一点に集まる。
「......なによ」
「いや、『なによ』じゃなくてね? 会場着いてから無言で俺たちに付いてくるし、挨拶しても無視するし、すげー美人だし――」
「勘違いしないで。 私はその当眞って男に付いて行ってるだけだから。 あなたたちには別に用はないわ」
「んんんん!? 」
ギュンっ――と大我の顔がこっちに向いてきた。
「ドウイウコトカナ? トウマクン?」
顔を引きつらせながら詰め寄ってきた大我に、どす黒い殺意を感じた。
「いや......それはだな......」
「はっ!! まさか、当眞お前! 俺たちに抜け駆けして彼女を作ったのか!? そうなのか!!?」
「私はこの人の奴隷よ」
「ちょっ! おま、余計なことを――」
「ど、どどど奴隷!!? 奴隷ってどういうことだよ!!」
「お、落ち着けって大我!」
胸ぐらを掴んできた――ってこいつ、なんでこんなに手に力入れてんだよ。
血走った目、歯ぎしり、相当怒ってやがる......絶対勘違いなのに。
くそっ、今はとにかく急いで説明してやらないと――。
「や、ヤミの再試験の話はさっきしただろ? その勝負相手がこの子で、勝ったヤミの付けた条件が、なぜか『俺の言うことを何でも聞く』ことだったんだ」
「なんだそりゃ!!?」
「『いつでも俺の命令を聞けるように、できるだけ一緒に行動しろ』ってヤミが命令したんだ。 だから今、こんな状況になってる......」
「ヤミのやつ......何考えてるんだ?」
レオが首をかしげる。
「俺も分からない。 俺はそんな条件断ろうとしたんだけど、ヤミがどうしてもっていうから、仕方なく受け入れたんだ......」
本当は、最終試練まで特訓に付き合ってくれるって言われたからだけど――それは隠しておこう。
「なんっっっだよそれ!? そんなのヤミに何のメリットもないじゃんか! 俺がヤミならそりゃもう――」
「大我、それ以上は――」
隣からの鋭い視線を感じ取った俺は、即座に大我へ忠告する。
大我も危険を察したようだ。唇をぎゅむっ、と口の中にしまい込んで目を逸らした。
「彼女が負けたってことは、ヤミは本当に目隠しをしながら、1回も当たらずに最後まで避けきったのか?」
「さっきそう話しただろ? 信じてなかったのか?」
「あぁ、ぜんぜん」
レオは真顔でそう言った。
「だが、この状況を見せられちゃ信じるしかない......か」
「君がユーリちゃんだよね!? さっき当眞から聞いたよ! 成績一位で試験突破するなんてすごいね!」
デレデレ顔でユーリに近づく大我。
さっき俺に向けていた態度とはえらい違いだな......。
「ヤミに負けたわ。 私は二番目よ」
「あ......」
そして、一瞬で会話が死んだ......。
「......くそっ! 」
大我が悔しそうに拳を握りしめる。
「ヤミの野郎けっこういいやつだと思ってたのに! こんな美人でアイドルみたいにカワイイ女の子に悲しい思いをさせやがってぇえ! ユーリちゃん! 今度ヤミに会ったら俺がビシッと――」
「余計なことしないで!!」
大我の言葉を打ち切る怒声――。
不意を突かれて、一瞬体が強張った。
「私は負けたの! あいつの命令に従ってるのも私の意志よ! 同情なんていらわ! 分かったのなら部外者は黙ってて!」
「うぐぅう......。 そ、そんなぁ~......」
泣きそうになる大我。
何がしたいんだこいつ......。
「ま、まぁ『パージスト入隊試練が終わるまで』って条件だから。 ずっとじゃないからな? ユーリも安心していいぞ? 俺は何も命令なんてしないから」
「あなたがすぐに落ちてくれれば、その時点で私は解放されるのだけれどね」
『だから早く落ちてくれない?』と目が言っている......。
そんなに嫌なら、無理に従う必要はないだろうに......。
試しに、「俺に付きまとうな」って命令すれば、ユーリも気を遣わなくて済むんじゃ――いや、なんだか余計に怒りそうな気がしてきた。やめておこう。
ホント......ヤミの出した条件をしっかりと守るあたり、プライドは人一倍に強いみたいだ。
(接する時は慎重にならないとな......)
「話しはこれぐらいにしよう。 そろそろ俺たちの番だ」
気が付けば、俺たちの前にはもう8人ほどしか並んでいなかった。
前の方に来てやっと見えた終点。
そこには検査員が2人、目の前のテーブルには手形のマークが書かれた装置が置いてある。
「――、57%です。 次の訓練生、前へ」
名前を読んだ後、何か数字を言っているのが聞こえた。
「シンクロ率の数値か......」
「おれ、基準とか平均とかよく分かんねぇんだけど、レオ分かる? 」
「まぁ、だいたい平均は40%ぐらいじゃないか? 50%超えたらすごい、60%超えたらめちゃくちゃすごい、的な感じだな」
この数値が高ければ高いほど、より強い精霊と契約できるし、シャドウとの戦闘を有利に進められる......。
俺はいったい、どれぐらいの数値なのだろうか......。
「――、55%です。 次の訓練生」
レオが一歩前に出る。
「ここに手をかざしてください」
指示に従い、テーブルにある装置に手を当てた。
「......キース・アーノルド・レオ、47%です」
「......まぁ、こんなもんか」
検査を終えたレオが、列から抜ける。
「うしっ! 次は俺だな!」
続けて大我の番――
「......多田大我、44%です」
「えぇ......もっと高いと思ってのに......」
「どれぐらいだと思ってたんだよ」
「ん~、80%ぐらい?」
「冗談はそのおめでたい脳みそだけにしてくれ」
レオが鼻で笑った。
そして、次は俺の番――
理想は50%。それぐらいじゃないと、パージストになったとしても即戦力にはなれない。
(頼む! 高い数値出てくれ!)
一呼吸置いて、俺は装置に手をかざした――。
「......齋藤当眞、29%です」
「「「......え?」」」
「29%です」
「「「......ひっっっっっく!!?」」」
検査の結果を脳がやっと理解したその瞬間、でかい声が出た――。
大我はともかく、レオまでも俺と声が揃うとは思わなかった......。
いや、それほど低かった......。低すぎだった......。
「次の訓練生が控えています。 速やかに列から抜けてください」
「あっ......はい」
放心状態のまま、足だけをとぼとぼと動かす......。
(にじゅうきゅう......にじゅうきゅう......?)
何かの間違いだろ......。
平均よりもかなり低いなんて......。
「げ......元気出せって当眞」
「ぽ、ポジティブに考えようぜ! ええと......ほらっ! 数値が小さいってことは、みんなより伸びしろがでかいってことじゃん!?」
(どうしよう......すぐにでも泣きたい......)
ぐちゃぐちゃになった精神......。
2人は励まそうとしてくれているのだろうが、俺は大我とレオの顔を見ることができなかった......。
「――、75%です」
「......っ!?」
聞こえてきたその数値に、驚愕した――。
目を向けると装置に手をかざしていたのは、ユーリだった。
「ふんっ」
彼女はその勝ち誇ったドヤ顔を、俺に見せつけてきた。
「くっ......くそぉ......」
悔しさと怒りがふつふつと湧いてきた――が、ユーリと自分とのあまりの落差に、悲しさと虚しさが勝り、ガクッと肩を落とした......。
まぁ、正直今のドヤ顔ちょっと可愛かったし、許そう......。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回は精霊との契約の話です。
そこでシャドウと戦う術を手に入れるのですが、今回の出た数値がかなり重要になってきます。
次回もよろしくお願いします。




