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第12夜 規格外

試験部屋の話はこれで終わりです!

最後まで読んでいただけたら嬉しいです!

「手を......抜いていた?」


 あの試験で手を抜くやつなんているのかよ。

 てか、できるのかよ......。


「......抜いてないよ」


 ほらみろ、本人だってそう言っているんだし、彼女の勘違いだろう。


「あくまで(しら)を切るつもりね」


 呆れた――そう聞こえそうなため息を、少女は吐いた。


「......二年前のパージスト入隊試練、Bグループであなたは最終試練に挑んだ」


「......っ!」


「生きて戻れば合格――という条件で、あなたは数少ない合格者となった......それなのに――」


 少女の目つきがさらに鋭くなる――。


「なんで! なんであなたは合格を辞退したの!!」


(......っ!? ヤミが合格を......辞退!?)


「答えて!! どうしてなのよ!! 死んだ他の訓練生のためにも、あなたはパージストになるべきでしょ!? 違う!!?」


 ヤミから聞いた話と全然違うじゃないか。

 ヤミは確か二次試練で怪我をしたから、最終試練は棄権(きけん)したんじゃ......。


「......悪い、それについては話す気になれない」


「......っ!!」


 その時、俺は確信した――。

 ヤミには、まだ俺たちに話してない秘密があるのだと。


「やっぱりそうくるのね......だったら――」


 少女はまるで刃でも突きつけるかのように、ヤミを指さした。


「ヤミ・ブラックベネット! 私と勝負しなさい!!」


「勝負? いったい何をするんだ?」


「もう一度、さっきのレーザーを避ける試験をするの。 あなたが私の記録を越えられたら、もうこれ以上あなたのことは聞かないわ。でも、越えられなかったら、あなたが過去に行った試練について洗いざらい話してもらうわ!」


 俺はすでに、話についていけなかった。

 ヤミが言ったことと、彼女が言っていること、何が真実で何が嘘なのか......。


「俺が勝ったら?」


「そうね......あなたの言うことを一つ、何でも聞いてあげるわ」


 そんな条件付けていいのかよ。

 それだと、彼女の方が負けた時の代償(リスク)がでかすぎる気が......。


「......きみはどうしてそこまでするんだ?」


「今話す気はないわ。 勝った時のお願いで聞けば?」


 強気(つよき)な姿勢だ。

 彼女からは凄まじい自信が感じ取れる。


「......それでいいよ。 きみの気が済むなら」


 そう言って、すんなりとヤミは受け入れた。


「なるほど......その勝負のためだけに、私が立会人となるわけか......」


「ダメでしょうか?」


 ケイレヴ試験官が腕の端末を操作する......。


「ユーリ訓練生の成績は1位、当たった回数は10回」


「じゅっ......!!?」


 うっっっっそだろ――。

 あの試験をわずか10回で合格したのかよ。

 とても同じ人間とは思えないな......。


「対してヤミ訓練生の成績は......150位、当たった回数は200回か......。 これだけを見ると差は歴然(れきぜん)だが......」


 試験官がチラッとヤミを見る。


「それでも勝負するというのかね?」


「はい」


 その返事には、一切迷いがなかった。


「ただ、君がそれほどの覚悟で勝負するなら、俺からも一つ条件を出していいか?」


「何かしら」


「1回でも俺が当たれば、君の勝ちでいいよ」


「なっ......!?」


 聞き間違い......だよな。さすがに。


「ご......ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。 い、今なんて言ったのかしら?」


 少女の顔は明らかに引きつっていた。


「1回でも俺が当たれば、君の勝ちでいいよ」


「あ......あなたね......自分が何を言っているのか分かってるの!!?」


 顔を真っ赤にして憤りを見せる少女。


「そ、そうだぞヤミ! いきなりなに言い出してんだよ!」


 その横で、俺もヤミを問いただした。


「俺は本気だよ」


「いや......本気もなにも」


 1回も当たらないなんて......そんなの不可能だろ。


「......おもしろい!」


「え?」


 試験官がニヤリと笑う。


「ルカ、ヤミ訓練生に1回でも当てたら、今日のことは不問にしてやる」


「え? どどどどうしたんですかいきなり!? 『今日のこと』ってなななな何のことですか?」


 補助係......の人だろうか。

 なんだか分からないが、明らかに動揺している。


「お前のめちゃくちゃな操作のせいで、訓練生たちに手動で操作していることがバレたことだ」


「......っ!? ど、どうしてそれを――あっ!」


 とっさに口をふさぐルカと呼ばれた男。

 2人がなんの話をしているのか分からないが、確かに『手動』という言葉は聞こえた。

 やっぱり、試験のレーザーは手動で操作されていたみたいだな。


「それ以上とぼけても無駄だ。 証拠の映像も、私は持っている。 ある者から送信された」


 試験官が腕の端末を男に向ける。

 すると、そこには何か叫びながらパネルを操作している男の姿があった。

「落ちろ」とか「死ね」と、罵倒の言葉を放ちながら操作する男の顔――まさに、悪意に満ちた笑みを浮かべている。


「な......っ!? お、お前らぁああああ!!」


 男が整列していた他の補助係に怒号(どごう)を浴びせると――


「ち、違う違う! 知らないって!!」

「お、俺じゃないぞ!」

「俺でもないって!!」


 ずいぶんな慌てようだな......。

 首や手を横に振り、全力で否定しているのが伝わった。


「まさか......お前か!」


 男が睨みつける視線の先――そこには、ボロボロの姿で整列している小柄な少年がいた。

 少年は男の方を一度だけ見て......何も言わずに視線をずらした。


「マサキぃいいいい! 隠れて撮りやがってぇえ! 許さねぇぞ――」


「それはお前の方だ!! これは到底許されることではないぞ! ルカ!」


「うぐっ......」


 男の歯ぎしりから、彼の悔しさがヒシヒシと伝わってくる。

 どうやら、あの男が試験中に何か怒られることをしたみたいだ。

 会話に入りづらい空気を感じ取り、俺はそのやり取りを黙って静観(せいかん)した。


「......本来であれば、重いペナルティを科すところだが......ヤミ訓練生の本気を引き出すためにも、先ほどのような容赦のない操作を許可しよう」


 しばらくの沈黙......。

 その後、落ち着きを取り戻した男が口を開いた。


「分かりました。 あいつに1回でも当てたらいいんですね?」


「あぁ、それができればペナルティは帳消しだ」


 それを聞くと、男は足早にこの場を去っていった......。



「待たせて悪かった。 ではヤミ訓練生、再試験の準備を」


 軽く頷き、ヤミが試験部屋へと歩き始めた。


「おいヤミ!」


 呼びかけても止まらない歩み。

 俺は仕方なくヤミを追いかけ、並行する形をとった。


「ホントに大丈夫かよ」


「あぁ」


「1回だぞ!? 1回でも当たったら負けるんだぞ!?」


「分かってるよ」


 全く動揺を感じない......。

 1回も当たらないであの試験を終えるなんて......とても人間のできることじゃない。

 こいつはいったい、何を考えているんだ......。


「まぁ、心配すんなって。 こんな勝負早く終わらせて、合格祝いしようぜ」


 そう言って、試験部屋へと入ってしまった......。


 ――不気味だった。

 最後まで余裕の表情を崩さないヤミが......。





 部屋の中の様子が、モニターに映し出される。

 1人でぽつんと立っているヤミの姿が見えた。


「準備ができたら教えてくれ」


 俺とリンとメリリス、赤髪の少女に数名の補助係、それと試験官......。

 全員がモニターの中にいるヤミの、一挙手一投足に注目していた。


 ゆっくりと目隠しを付ける......。

 すぅっ――と深呼吸を1回、するのが見えた......。


「始めてください」


 緊張で全身の筋肉が強張る......。

 自分のことじゃないのに、なんだか変な感じだ......。


「それでは......始め!!」






 俺はその場で見た光景を、二度と忘れないだろう......。


 ヤミの再試験を見て、俺は気付いたんだ。

 リンが合格水準の回数の話をしていた時、ヤミが呟いた独り言。

 ヤミはあの時、おそらく20回――いや、2回って言おうとしていたのかもしれない......。




【残存訓練生――残り8780人】

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次回からは、一次試練に向けて訓練する当眞たちの話を2~3話ぐらい書こうかなと思ってます!

次回もよろしくお願いします!

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