第11夜 試験終了
試験編はあと1話ぐらいで終わりですかね。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
『ただ今の時点で、全ての試験が終了した。 30分後、今朝集まった場所で結果発表を行う。 それまで各自、自由にしてくれ。 以上だ』
ヤミの試験も滞りなく終わり、俺たちは無事に試験を終えた。
「やっと終わったぁああ~~~~」
「さすがに訓練生の数も多かっただけあって、長かったですね」
時計を見ると、午後2時を過ぎていた。
同時に、俺の腹の虫が音を出して空腹を主張してきた。
「そういや、俺まだ昼何も食べてなかったわ」
他の訓練生の試験観察、ヤミたちの応援、自分の試験に集中するため、食べるのをすっかり忘れていた。
「当眞、ほらっ!」
「んお!?」
投げ渡されたのは、ビニール袋だった。
中を覗くと、サンドイッチやおにぎりがいくつか入っている。
「俺とメリーは先に昼食すませたんだ。 お前は買う余裕ないと思って、コンビニで買ってきたんだけど、食うか?」
「......っ! ありがとう!!」
「リンも食べてなかったようだし、どうだ?」
「ありがとうございます。 いただきます」
◇◇◇
集合場所の広場へ移動し、4人で腰を下ろす。
自分でも気が付かないほど、空腹だったのだろう。
俺はヤミからもらった昼食を、5分もかからずぺろりと平らげた。
「当眞さん、後半すごかったですね!!」
その直後、メリリスが目をキラキラさせて言い寄ってきた。
「後半まったくスピードが落ちなかったですよ!? どんな訓練をすればあんなに長く動けるんですか!?」
メリリスにはそんな風に見えていたのか......。
「不思議と昔から体力だけはあったからなぁ~。 特別な訓練とかはしてなかったと思うけど......」
自分の試験を頭の中で振り返ってみた......が、全く思い出せなかった。
どんな風に避けていたのかも、その時何を考えていたのかも、頭からすっぽりと抜け落ちていた。
「強いて言うなら......『山登り』かな?」
「よし! 僕も山登ります!」
「待てメリー。 なんで今行こうとするんだよ」
立ち上がって走ろうとするメリリスの服を、ヤミがつかみ止めた。
「だって! 僕もあんなスタミナが欲しいんです!」
「お前にも効果があるかはわからないだろ、まったく......」
「そうです。 人にはそれぞれ、合った訓練方法があるんです。 それに、ここら辺に山はないですし」
残念そうな顔をして、メリリスはしゃがみ込んだ。
「まぁでも、最後まで諦めずに試験ができたのは、みんなのおかげだよ」
「ほえ?」
「リンのアドバイスはすげー参考になったし、メリリスの避け方はめちゃくちゃ勉強になった。 そんで、ヤミの言葉は俺に勇気をくれた......。 ホント、みんなのおかげで俺は試験を乗り越えられたよ。 ありがとな」
それと......智花が作ってくれたお守りのおかげだ。
「そ......そうですか!? 僕のおかげですか! それなら、僕もすごく嬉しいです!」
「お役に立てたようで、なによりです」
「でも――」
こんなタイミングで言うことじゃないのかもしれないが――
「3人は絶対合格するだろうけど、俺はどうだろうな......。 もし不合格になったら、俺の分まで頑張ってくれよ。 ははは......」
そう言って、俺は保険をかけた......。
自分が試験に落ちたら、きっと3人は同情してくれるだろう......。
でも、俺はそうなってほしくなかった。
その時、かけられる言葉は俺にとって辛いだけだと思うから......。
「......絶対合格するよ、当眞も、みんなも」
少し間をおいて、ヤミが口を開く......。
嬉しかった......。
確信したように、ヤミがそう言ってくれたことが――。
◇◇◇
「全員揃ったな......それでは今から、合格した者の番号をスクリーンに映す」
あっという間に30分が経ち、ケイレヴ試験官が壇上でリモコンのようなものを操作した。
いよいよだ......。
合格できるのは、600人中、上位200人......。
スクリーンに番号がずらっと表示された――。
どうやら合格は番号順のようだ。その横には順位もある。
ところどころ、番号が飛んでいるのは、おそらく落ちた者だろう......。
(205番......205番......)
心の中で繰り返し唱えながら、目を動かす......。
「......っ!!」
俺の目は、『その数字』にビタッ、と止まる。
(み、見間違いじゃないよな!?)
自分のほっぺを叩き、パチパチと瞬きをした後、何回も数字を確認する......。
それでも、確かにある自分の番号に、嬉しい気持ちが徐々に上がっていき――
「いよっっっっっしゃぁあああああああ!!!」
思わず叫んだ――。
(ヤバい......泣きそう)
順位は196位とめちゃくちゃ下の方だったが、それでも喜ばずにはいられなかった。
周りからも、同じように歓声が聞こえてくる。
ヤミたちも、やっぱり合格していたようだ。
3人とも、こちらに目配せしたり、ガッツポーズを見せてきた。
「ちくしょぉおおおおおおおお!!」
「......っ!」
合格の余韻に浸っている俺の近くで、そいつは膝から崩れ落ちた。
合格できなかったんだ......。
周りの喜んでいるやつらと比較すれば、それは一目瞭然だった。
一歩間違えば、俺もこの訓練生のように......。
そう考えたら、なんだが喜びを表に出しづらくなってきた。
「ちょっと待ってください!!」
どこからか、声がした。
声色を聞くと、なんだか怒っているようだ。
「レーザーを操作していたのは、コンピューターじゃないですよね!?」
その言葉に、会場内がざわざわとし始めた......。
どうやら、試験の違和感に気付いていたのは俺たちだけじゃなかったらしい。
「......あぁ、確かにコンピューターではない」
誤魔化すこともなく、試験官ははっきりと断言した。
「それなら、5番の部屋で試験した俺たちが不公平です! 明らかに他の部屋と難易度が違いました!!」
「そのせいで、俺は不合格だったんです! 他の部屋の難易度なら絶対合格できてました!!」
不満を言い放つ訓練生は1人や2人ではなかった。
そこらじゅうから、不満の声があがっている......。
しかし、ケイレヴ試験官は平然とした態度で、マイクを口に近づけた。
「......君たちの言うとおり、レーザーの操作は手動で行っていた。 部屋ごとに記録の差が出る、という君たちの言い分も理解できる」
「それなら再試験を――」
「それでも、5番の部屋で結果を残している者はいたはずだ」
「......っ!!」
その言葉に、会場内が静まり返る......。
「5番の部屋で合格者がいなかったのなら、私も少しは考えただろう......。 だが、過酷な条件の下、それでも合格した者が数人いたはずだ」
「で......ですが――」
「それに、だ」
間髪入れずに、ケイレヴは続ける――。
「君たちが相手をするのは、人間の理解を越えた怪物、シャドウだ。 理不尽な力の差、想定外の出来事、これからやつらと戦うのであれば、いついかなる時もそういった場面を想定して行動しなければならない」
確かに、俺たちが闘うのは機械でも人間でもない......。
人類を長く苦しめた正真正銘の『怪物』だ。
「落ちた者たちにはその思考が整っていなかった。 合格するだけの能力、運がなかった。 私はそう考える」
理不尽......と考えている者は何人いるのだろうか......。
少なくとも俺は、ケイレヴの話を聞いて、この試験が理にかなっているように感じてしまう......。
「君たちに、まだパージストを目指す気持ちが少しでも残っているのなら、また来年挑戦しにくればいい。 その悔しさを忘れず、日々鍛錬に励むことだ」
それ以上、誰も反論する者は出てこなかった......。
「君たちの成長を期待している」
ぐったりと腰を落とす者、すすり泣く者、悔しさをグッとこらえる者、みんなそれぞれに、合格してパージストになりたい理由があったはずだ......。
だが、今日のこの試験で、彼らは――俺たちは自分の実力不足を突き付けられた......。
ケイレヴが行った試験も、かけた言葉も、彼らを貶めるようなものではないのだ......。
実力を図り、実力のない者をただ落とす。それだけ......。
(本当に、俺が合格してよかったのかな......)
合格できるだけの力、シャドウと戦える力が俺にあるのか......。
ここで落ちた訓練生たちの分も、俺はこの先それを考え、鍛えていかなければならない。
「今日はここまでだ。 合格した者は明日から本格的な訓練に励んでもらう。 解散!」
宣言の後、訓練生たちは会場から出る列を作り始めた......。
「俺たちも帰るか」
その流れに沿って、俺たちも列に並ぼうとしたが――
「ヤミ! ヤミ・ブラックベネット!!」
遠くの方からヤミを呼ぶ声がした。
なんだか、聞き覚えのある声だ。
そうこうしているうちに、声の主が姿を現した。
やはり、あの赤髪の少女だった。
「なんだよ。 俺になにか用か?」
少し顔をしかめるヤミ。
「えぇそうよ。 でも、他の訓練生たちが出ていくまで待って」
「はぁ?」
「ちょっとちょっと!! またあなたですか!?」
メリリスが赤髪の少女に気付くや否や、ヤミをかばうように立ち位置を変えた。
「試験はおわったってのに、まだ先輩に付きまとうんですかぁあ!?」
「ガキは引っ込んでなさい。 私が用事があるのは、ヤミだけよ」
「ほぇえ!? こっの......っ!」
会話の途中で、メリリスがはっとした顔をする。
「あなた! 成績はどうでした!?」
「え? 成績?」
「僕は成績5位でした! どうですかぁ!? すごいでしょ!! あなたがもし私より上だったら、ここを通してあげなくも――」
「1位よ」
「......ほえ?」
(......ほえ?)
俺もメリリスと同じ反応になった。
「ほ......ほぇええええええええええええええ!!?」
驚愕の声があがる――。
「い......イチイ......ボクノ......マケ......」
「じゃ、通してもらうわね」
放心状態のメリリスの体をどかし、赤髪の少女がヤミの前に立った。
「それで、残ってくれるのかしら?」
「......いいだろう」
「いいのかよ、ヤミ」
「まぁ、なんか顔を見ると、重要な用事っぽいしな」
「ヤミがそう言うなら......俺たちも待つけど......」
気になるな......。
彼女の『用事』とやらがいったい何なのか......。
待たせるなら、しゃべってくれてもいいだろうに......とは言えなかった。
だって、この子怒ると顔恐いし。
理由も分からずに、俺たち――というか、ヤミは他の訓練生が出ていくのを待った......。
メリリスがやっと正気に戻った頃、会場内にはすでに俺、リン、メリリス、ヤミ、赤髪の少女、それと試験官と数名の助手らしき人だけが残っていた......。
「さて......なぜ君たちは残っているんだ? 全員が出ていくまで私は残らなければならないんだが......」
壇上で俺たちを見下ろし、試験官がそう質問をする。
「ケイレヴ隊長」
「ん? 君は......成績1位のユーリ・アンスリウムか。 どうしたのかね?」
赤髪の少女は、ヤミに指を指した――。
「今、私の隣にいる訓練生、ヤミ・ブラックベネットの再試験を強く望みます」
「......っ!?」
言っている意味が分からなかった......。
突然何を言い出すんだこの子は。
「ヤミ・ブラックベネット......か」
試験官が腕につけている端末を操作する。
「......彼はすでに合格しているはずだが? 合格のための再試験......というわけではないのか?」
「はい」
「ふむ......基本的に再試験は認められないが、一応理由を聞こうか」
その瞬間、少女の表情が変わる......。
また、あの背筋が凍りそうになる雰囲気に少し気圧される......。
そして、彼女はその静かな怒りを宿した目をヤミに向け、こう言った。
「あなた......手を抜いていたわね」
読んでいただき、ありがとうございました。
次回、ヤミの本当の実力が明らかに!?




