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黒崎浩二は嘘をつく -幼馴染を守るため、異常なる0組で異能力バトルな世界を生きる-  作者: 望月朔
≪第三章≫黒崎浩二の過去と未来(和解編)
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【8】拐かしの依頼

   ***

 

「おひさしぶりですね。えっと……お名前は?」


「黒崎浩二だ」


「そうでした、嘘つきさんでしたね。来てくれてありがとうございます。さあ、こちらへ」


 -組の学級委員長――人知千里に呼び出され、数日ぶりに学級委員長室改め彼女の自室に足を踏み入れる。

 休日にも関わらず今日も今日とて符号学園に登校。これで二週間連続、休日に学校へと赴いていることになったわけだ。

 もっとも先週とは異なり、今日は制服ではない私服での登校だった。


 先週と今週とでは、案件がまるで違う。

 前回は訪問と対談が目的であって、身分を開示する必要があった。


 しかし、今回の目的は誘拐だ。身分の開示などもっての外――逆に積極的に隠していく必要性がある以上、制服でいるわけにはいかない。

 それどころか、私服でいることすら許されないという、妙な徹底ぶりであった。


 学校に到着するや否や着てきた私服を取り上げられ、パンツ一丁の姿にかわりの着替えを突き出される。

 全身を黒で染め上げたコーディネート――つまるところのスーツ。それも、黒のワイシャツに赤のネクタイという、悪趣味全開のいかにもなチョイスだ。


「……私服を着替えさせられるってのは、まあ理解出来よう。だが、こんなあからさまに危なそうに見える恰好をする必要はあるのか?」


 こんなもの、言外に「これから誘拐しますから警戒してくださいね」と示しているようなものである。


「インパクトですよ。人は相手のことを顔だけを見て記憶しているわけではありません。髪型から服装まで、全身の――トータルコーディネートで対象を記憶する。あえて服装を奇抜なものとすることで、平常時の嘘つきさんと誘拐時の嘘つきさんを結びつかないようにする効果があるのですよ」


「意味あるのか、それ……?」


「ほら、漫画の主人公とかもよく言うじゃないですか。初めての私服デートでヒロインに、『いつもは制服だから一目で気付けなかったよ。今日のお前は、見違えて見えるぜ!』みたいな」


「それは見違えているだけであって、見間違えているわけではないと思うんだが」


 それに、そんな理由をこじつけた割には、顔を隠すことは自体は許してくれなかったし。

 プライバシーを守る気があるのかないのか。たぶん、ないの方で間違いないけど。


「要するに、気持ちの問題ですよ。嘘つきさんも私服のままでは、今回の依頼を日常の延長線上と――いつものことだと捉えてしまいますでしょう? これからあなたにしてもらうのは、誘拐なのです。日常ではなく、異常であってもらう必要がある。その恰好は、あなたにここから先が日常ではないことを意識してもらうための、いわば仮想のようなものなのですよ。まずは形から入るってやつです」


 形から入る――その為の覆面効果として、服装を一新させる。

 その説明だけを受け止めれば、まあわからない話ではなかった。


 日常ではなく異常である。

 それを意識させる活動の一環としてか、千里もまた制服ではない奇抜な恰好をしている。


 臍と胸元を大胆に露出させた、妙にテカテカしている黒の皮ジャケットに、限界まで裾を短くし、太ももをむき出しにした黒のタイトスカート。

 手には黒の皮手袋をはめ、足には無駄にかかとを高くした真っ赤なハイヒールを履いた彼女の姿は、あえて陳腐な例えをするならば、さながら悪の組織の女幹部といった有様で。


 率直に言って、センス以前に品性を疑いたくなる恰好であった。


「……そんな服装、どこで手に入れたんだよ」


我々(わたし)の私物ですが、何か問題でも?」


「いや、別に……」


 まあ、身近に年中ドレスな女もいるわけだし、今更服装の異常性についてつっこむのは、野暮な話なのかもしれなかった。

 品性に欠けていても、似合っていれば問題なし。そんな暴論がまかり通るのが、符号学園の校則である。


「さて。文句もないようでしたら、行きましょうか」


 文句は山のようにあったが、訴えたところでのらりくらりとかわされてしまうだけだろうと諦め、俺は千里に連れられて部屋の外に出る。

 てっきりそのまま階段を下りて、学校を出るのかと思いきや、向かったのは逆方向――階段を上った先にある、-組の棟の屋上であった。


「何故屋上に?」


「決まっているでしょう、目的地に向かうためですよ」


「……まさか、瞬間移動か?」


 転校生討伐戦の初日。

 一ノ瀬雫の『身体転移テレポート』で『ホーム』に移動した時の記憶が、脳裏に浮かび上がる。


「違いますよ。そんな特異な能力を持っているのは、あなたのところの双子さんくらいです。我々の移動方法は、もっと現実的なものですよ」


 屋上を起点とした現実的な方法と言われると、真っ先に思い浮かぶのはヘリコプターの類だ。

 しかし、開かれた扉の先――屋上には巨大な乗り物などどこにも見当たらず、だだっ広い空間には、一人の男子生徒が立っているだけであった。


「あいつは……?」


「事前に説明しました通り、今回のあなたの相棒となる方ですよ」


「……あの男が、そうなのか」


 身長は大体俺と同じ、180cmを満たないくらいだろうか。


 俺と同様、覆面効果を期待された黒のスーツを着たその男は、ごくごく普通の男子高校生といった出で立ちをしていた。

 ただ一点、さながらスイカ割りの時のように、真っ黒な布で目隠しをしていることを除けば。


 ……いや、そこはさすがに無視出来ない要素か。


「よかった。ちゃんと来てくれたのですね」


「おはようございます、千里さん。私は風上断忌(かざかみたつき)です」


「はい、おはようございます。お名前、ありがとうございます」


 千里は一通りの挨拶を交わした後、俺に男子生徒を紹介する。


「1年-2組の目隠しさん。見ての通り、-組の中でも比較的普通な方ですので、仲良くしてあげてください」


 彼女の紹介に合わせ、ぺこりと一礼をする風上。

 一体、常時目隠し状態の男のどこが普通なのかと頭を抱えそうになったが、きちんと礼が出来るあたり、少なくとも常識はある側の人間なのかもしれないと思わなくもなかった。


「基本的には目隠しさん主導で動いてもらい、黒崎さんには要所要所でサポートに回って貰うことになります。我々(わたし)は同行出来ませんので、ここから先はお二人での行動となります。よろしいですか?」


「オーケー、把握した」


「ありがとうございます。それでは目隠しさん、準備をお願いします」


 準備。その言葉で次の展開がなんとなく読める。

 俺も伊達に一ヶ月この都市――『超常特区スキルテーマ』で過ごしてきていない。こういう時は必ず、なんらかの能力を使って移動することになるんだ。


 千里の合図にこくりと頷くと、ポケットから手に収まる程度の大きさのケースを取り出し、中から錠剤のようなものを一粒手のひらに出して、それを飲み込む。


「能力に必要な薬か何かか?」


「いえ、あれはただのラムネです。長時間能力を使う際の、ルーティーンのようなものだと言ってました」


「へえ……」


 まあ、珍しい話ではない。

 能力という直感的に捉えづらい概念をコントロールする為に、なんらかの手順を用いるというのはよくあることだ。


 身近な例としては、界斗の『救いなき成果ブランダーエーテル』。

 あれは石の生成という手順を用いて、間接的に現象の操作を行っているのだとか。


「ちなみに、あいつの能力はなんなんだ?」


「見ればすぐにわかりますよ」


 その言葉の通り、風上が能力を発動すると、眼前でわかりやすく不自然な現象が起こる。

 一瞬、木枯らしのような強い風を肌で感じたと思った次の瞬間、風上の身体はふわりと宙に浮かび上がっていた。


「空を飛ぶ能力――いや、風を操る能力か」


「その通り。能力名『落花流風エアロディレクション』、彼は風を操る能力者なのです」


 風を操る能力。それも、人間の体をたやすく浮かび上がらせられるほどの風力と、安定してバランスを崩さない操作性の高さ。

 『火災旋風ブラッドブレイズ』のようにただ炎を出すだけではない、文字通り"風"を"操"っているその能力は、俺が知る中でもトップクラスで強力な能力であった。


「こんな強い能力を持ってるんなら、俺がいなくてもいいんじゃねーの?」


「たしかに、目隠しさんの能力は強力ですが、能力が強いだけではどうにもならないこともあるでしょう? 我々-組には応用力や臨機応変といった考え方が欠けていますので、そのあたりをカバーしてもらいたいのですよ」


「……まあ、なんだっていいけどよ」


 こんな強力な能力者を味方に付けて、やることは誘拐――それも、他校の女子生徒をときたものだ。

 この女は一体、俺に何を手伝わせたいのかと思わなくもなかったが、些細なことを気にするのはやめにした。


 人の事情などどうでもいい。

 俺にとってのこの依頼は単なる相談に対する対価であって、暇つぶしの一環でしかないのだから。


 それに、個人的に聞きたいこともあったから。

 依頼とは関係なく、この男――風上断忌という男について。


「……なあ、千里。お前が事前に明かしたあの話は、本当のことなんだろうな?」


「疑わしいのでしたが、実際に訪ねてみてはどうですか? どのみち、目的地まではたっぷり時間があるのですから」


「……そうさせてもらうよ」


 風上が手を動かすと、その動きに連動して風が蠢き、俺の身体は優しく持ち上げられる。

 疲労感や持ち上げられているという感覚がなく、自重を失ったのではと錯覚しそうになるくらい、俺の体は自然に浮かび上がっていた。


「すげーな、この能力」


「お褒めいただき光栄です」


 口調のせいだろうか。

 眉一つ動かさない――というか、そもそも眉が覆われていて見えないこの男が、なんとなく繰主と重なって見えた。


「それでは、いってらっしゃいませ。期待していますからね、嘘つきさん」


 期待。この状況で言われるその言葉には嫌な思い出が――裏切りの思い出しかなかったが、とにもかくにも、こうして俺達は誘拐先へと――雛壇学園へと進み始めたのであった。


 ……しかし、意外というかなんというか、道中できちんと確かめる必要が出てきたな。

 この見た目を知ってしまった以上、尋ねないわけにはいかない。というか、尋ねずにはいられなかったから。


 この男――風上断忌は、白百合小百合の彼氏なんだってさ。


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