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黒崎浩二は嘘をつく -幼馴染を守るため、異常なる0組で異能力バトルな世界を生きる-  作者: 望月朔
≪第二章≫黒崎浩二の過去と未来(決別編)
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【0-9】失敗した少年の話

≪過去9≫


 結局、俺は優華の手を取ることを選ばなかった。

 心が完全に折れてしまうその前に自分の頬を思いきりぶん殴り、天秤が傾き切るぎりぎりの防衛線でなんとか正気を取り戻したのであった。


 そして、彼女の許しを受け入れるのではなく受け止めて、その上で俺は彼女の請いを否定した。


 そんな風に謝る必要なんてどこにもないって。

 優華は優華のままであってくれれば――いつも通り笑っていてくれるだけで、俺には十分だからって。


 実際、俺が望んでいた未来図が、彼女が笑顔を失わない世界であったことに嘘はない。

 だから本当に、優華だけが幸せであってくれればそれでよかったのだけど――それでも、彼女の心に刻み込まれた罪悪感を薄れさせることには、半年近い時間を要してしまった。


 時に命を顧みないほどの献身を拒み、時に理由なく謝罪を述べる口を噤ませ、凄惨な過去を振り返らせず、少女の作る明るい未来にだけ目を向けさせて。

 それは、いつ決壊してもおかしくはない綱渡りの日々であったが、先の見えないレールの端をくずおれながらも歩き切り、俺達は今もまだ幼馴染の関係で在り続けることが出来ていた。


 期待するようなことなど何もない、どこにでも転がっているようななんてことのない関係を。


 |帰還不能点《Point of no return》――引き返せない転換点。

 倫理の一線を越えずに踏みとどまれたからこそ、俺達は最悪の結末を迎えずに済んでいる。


 もしもあの時、俺の心が完全に折れてしまっていたらと考えると、背筋に冷たいものが走る。

 きっと俺と優華の関係は、今よりももっと最悪で――取り返しのつかない事態にまで堕落していたに違いない。


 そして――――環境の危うさは、今だって変わりはしない。

 ある日突然、前触れなく一歩を踏み違えてしまえば――心が音もなく折れてしまえば、俺達の関係は再び不徳へと転げ落ちてしまうことだろう。


 鏡の裏側と相見(あいまみ)える中で、雛波が口にした人ことが脳裏に浮かぶ。

 共依存――互いが互いに依存する、未来のない破綻した関係性。


 俺が傍にいることで、優華の幸せが奪われてしまう。

 俺が生きているせいで、優華が不幸に晒されていく。


 そんな救いようのない結末だけは、なんとしてでも――感情の全てを犠牲にしてでも、絶対に避けなくてはならなかった。


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